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「パワーナップ」という30分程度の短い仮眠は、ビジネスパーソンのパフォーマンスの向上に効果があると言われています。GoogleやNASAなど海外企業がオフィス内に仮眠室を設置し、「エナジー・ポッド」という専用ソファを導入するなど、従業員の「働く」時間だけでなく、「休憩」する時間に着目し、パフォーマンスを発揮できる環境が整備しているのです。
日本でもスタートアップを中心に導入する動きが出てきていますが、2018年1月、三菱地所が仮眠制度を導入し、仮眠室を整備。実証実験によって、午後の時間帯におけるやる気持続など効果も証明されているといいます。企業でなかなか理解されにくいであろう「仮眠の有用性」に着目し、実際に制度として導入するに至るまで、どんなプロセスがあったのでしょうか。
そこには、ともに働くメンバーや部下の「労働時間」ではなく「エネルギー」こそ管理しなければならない、マネジャーの新たな役割が透けて見えます。三菱地所で働き方改革を推進する人事部の根神剛さんに話を伺いました。

PROFILE

- 根神剛
三菱地所株式会社 人事部 給与・厚生・働き方改革推進ユニット 主事 - 2006年三菱地所に入社。2017年より人事部にて働き方改革および健康経営を担当。
「昼12時〜15時の間、15分〜30分の仮眠」が生産性を高める
―仮眠を推奨するようになった経緯をお教えいただけますか。
当社は2016年10月に健康経営宣言を行い、従業員の健康と生産性の両立を推進してきました。そのなかで、食事・飲酒に関するセミナーやオフィスでできるフィットネスプログラムを実施し、食事・運動・睡眠といった生活の根幹となる活動を整えていくことで、従業員のパフォーマンスを高める取り組みを推進してきたのです。
仮眠の推奨は、その施策の一環となります。2016年ごろから睡眠に関するプロフェッショナルとしてニューロスペースさんにアドバイスをいただいていたところ、2017年に本社オフィスの移転が決まり、新たなワークプレイスを作るにあたって、仮眠室を整備して「パワーナップ(仮眠)制度」を導入することになりました。そして2018年1月、本社オフィスが完成したのを機に、本格スタートした形です。

―そもそも、仮眠をすることでパフォーマンスにはどのような影響があるのでしょうか。
「睡眠がパフォーマンスの向上に寄与する」ということを裏づけるさまざまな研究があり、実際にパワーナップを取り入れる企業が出てきています。
当社でも2018年5月から6月までニューロスペースさんと共同実証実験を行ったのですが、12名の被験者のうち、90%以上の人が業務中に眠気や集中力の低下を感じ、眠気を感じる時間帯は13時から15時に集中していることが分かりました。

そして実験期間中、前半2週間を仮眠なし、後半2週間を30分間の仮眠ありにしたところ、JINS MEMEで測定した集中スコアは、後半は前半と比較して、約5ポイントのスコア向上が計測されました。
また、アンケートでは「仮眠を取ることで作業の生産性が良くなった」と回答した割合は2/3に上り、「仮眠を継続したい」と回答した割合は80%となりました。感想としては「会議中の眠気がなくなった」「夕方までやる気が持続するようになった」「眠気が改善され、思考が進む」といったものが出てきています。
―効果的な仮眠の方法は?
「仮眠」というくらいですから、時間が長過ぎてもいけません。30分を超えて寝ると眠りが深くなり、目覚めた後にぼーっとして、仮眠直後から集中して業務を行えなくなってしまいます。だいたい15分から30分ほど、昼12時から15時の間に仮眠の時間を取ることを推奨しています。15時以降に寝ると夜の睡眠に影響を及ぼし、悪循環になってしまいます。一般的に7時に起きると、14時ごろに眠気が来ることが多いため、いったん12時~15時ごろに仮眠を取るのが合理的な方法となります。
―仮眠室はどういった空間になっているのですか。

各ブース内に仮眠用のリクライニングソファが設置されています。軽く身体を横たえるとゆりかごのように揺れて、すっぽりと包みこまれるように座れるようになっています。身体を水平にすると本格的な睡眠に入ってしまうため、仮眠にはこのくらいがちょうどいいんです。音が気になる人向けに耳栓を用意するなど睡眠しやすくなるツールや環境を用意しています。オンラインで事前に予約するようになっていて、30分まで利用することができます。
―利用状況はいかがですか。
実を言うと・・・ 2018年1月の導入当初は、あまり稼働率が良くなかったんです。少なからず、ほかの社員の目を気にするところがあったかもしれません。若手社員は上司が気になるでしょうし、「サボるために使うのでは」と考える社員も一定数いたのかもしれません。それが1月と比較して11月は約4倍の利用件数となりました。
予約状況を見ていると、年齢も性別もバラバラで、20代の若手から役員も利用しているようです。中には毎日のように利用している社員もいて、「昼過ぎに必ず眠くなるのが分かっている」から、それを未然に防ぐために利用しているのです。
―利用者からの声は?
実のところ、使っている人からは「仮眠室を設置してくれてよかった」という意見ばかりで、ネガティブな意見はほとんどありません。これまで、眠いときには「気合で乗り切る」とか、エナジードリンクを飲んで頑張る、という人が多かったと思うのですが、寝ぼけた頭で会議に出ても意味がありませんからね。私もたまに利用していますが、前日あまり眠れなかったときや飲み過ぎたときは特にリフレッシュ効果を感じています。

仮眠=サボりじゃない。大企業で意識改革が進んだわけ
―仮眠室導入当初は皆さん遠慮していたのが、少しずつ変わってきたのはどうしてでしょうか。
やはり、オフィス移転で環境が変わったのが大きかったと思います。仮眠室に限らず、グループアドレスやテレワーク制度を取り入れ、仕事の目的や内容、性質に応じて適切な場所を選べるよう、さまざまな空間を用意しました。椅子も机も異なりますし、自宅やサテライトオフィスでのテレワークを選んでもいい。どうすればパフォーマンス高く働くことができるか、場所と時間を「社員自身が」考えて決めましょう、ということです。

2016年にフレックス制度を導入し、2017年からテレワーク制度をトライアルスタートして、パソコンがデスクトップ型からノート型に変わって持ち運べるようになって、制度面の整備は先行して行っていたのです。でも、実質的には、多くの社員が始業時間の9:15に間に合うように出社していましたし、「長い時間オフィス内にいる人のほうが真面目に仕事をしている」という先入観もありました。それが、オフィス移転して、環境が変わってから少しずつマインドにも変化があったのです。
昼休みを取るのも、別に就業規定に「12時〜13時」と決められていたわけではなかったのですが、なんとなくみんな一斉に、「あ、12時になったから食事に行こう」となっていました。それが、「今は混んでいるからランチはちょっと後にしよう」と、臨機応変に判断したり、オフィスだけでなく社外へ出ていってプロジェクトを進めている人を「いいよね」と受けとめられたりようになりました。つまり、あらゆる合理的でないことに対して、「それよりもこうしたほうがいいんじゃない?」と言えるようになった。
そのなかで、仮眠を取ることも、あくまで本人が必要と感じてやっていることだ、という認識が広がってきました。本当に、雰囲気はだいぶ変わったと思います。

―環境が変わるだけで、それほどまでに意識が変わるんですね。
5月に行った実証実験の成果でもあると思います。あれは、社員に仮眠を体験してもらって、実際に「仮眠が午後の生産性向上に寄与する」ことを体感してもらうための施策でもあったのです。社内外へ向けてその結果が公表され、こうしてメディアにもいくつか取り上げられたことで、「仮眠してもいいんだ」という認識が社内で広がっていきました。
とはいえ、まだまだ不十分なところはありますし、人によっても個人差はありますけどね。とはいえ、仮眠室も、特定の年代の人がよく使っているというより、新しい働き方に敏感な人がどの年代にも一定層いて、その人たちが率先して利用するようになると、遠慮していた社員も「ちょっと試してみようかな」と、少しずつ広がってきたような感じです。
私自身、人事部に来る前にはビル事業に取り組んでいましたから、「働き方を変えましょう」と言われても、なかなかすぐには変われないことはよく分かっているんですよ。日々の業務に追われているなかで、「適度に仮眠を取りましょう」「サテライトオフィスで仕事しましょう」と言われても、やはり抵抗感はあるはず。
それでも、私たちの役割としては、何度も何度もそれを言い続けて、少しでもそのマインドを浸透させていくこと。懐疑的な人に対しても、「一度でいいから、試してください」とお伝えして、理解を広げていくことに尽きます。
そうすると、どこかでマジョリティとマイノリティの比率が逆転する地点が必ずあると思うんです。「この働き方が合理的だし、効率がいいよね」と考える人が多くなってくれば、新しい働き方に消極的な人も、少しずつ考え方は変わっていくのではないかと考えています。

働き方が変われば、マネジメントも変わる
―大企業主導で行われる「働き方改革」には、一律に労働時間を削減しようとする取り組みも多いようですが、貴社の場合はアプローチが異なりますね。
私たちも当初、時間削減の傾向が強かったのは確かです。けれどもそもそも働き方改革の目的を考えると、競争力向上や生産性向上のために始めたことだったはず。一律に「残業するな」と時間だけで判断すると、社員のモチベーションも下がりますし、「もっと働きたいのに」と考える人のやる気を削いでしまいます。
本質的に大切なのは、社員の「労働時間」を削減、管理することではなく、社員が自らの「エネルギー」を自分たちで最適に采配し、本来の力、パフォーマンスを発揮できるようになること。それを支援する施策へシフトしていったのです。そのための仮眠室です。

―そうして社員が柔軟に働けるようになると、これまでは同じ部署で固まっていたため、マネジャーはそこにいるだけで部下の仕事振りをなんとなく把握できていましたが、その方法を変える必要が出てきたのでは?
そのとおりです。メンバーからすると「好きな場所で好きなように働ける」のは、歓迎すべきことばかりなんですよ。
けれどもマネジャーとしては、これまでの受動的なマネジメント方法を大きく変えなければなりません。チームをまとめたり、一人ひとりに声をかけたり、コミュニケーションを自分発信で意図的に行っていかなければならないのです。
うまくいっているチームは、もともとマネジャーが意識的にコミュニケーションを取るようにしていたところが多い。ただ、その方法も、これまでは週1回の定例ミーティングだけだったのを、毎日15分間、個別に時間を取るようにするなど、工夫しているようです。

―働き方、マネジメントが変わったことで業績に影響はありましたか。
業績自体はここ数年、右肩上がりではあります。当社の主幹事業は不動産事業のため、明確な成果として表れるにはやはり時間がかかります。
ただ、肌感として、新しいことにチャレンジする動きは増えていると思います。これまでは、部署ごとに固まって、部屋も分けられていましたが、壁が取り払われたことで、横断的なプロジェクトが増えているんです。部門として、オフィスビル、商業施設、バックオフィスなどと分かれ、なかなか連携も難しかったんですけど、いまでは各部門からメンバーを引っ張ってきて、「街づくりを考えよう」と、プロジェクトチームが結成されています。
それに、仮眠室にしても、何も社内に閉じた話ではなく、最終的なアウトプットを考えれば、デベロッパーとして「パフォーマンスが向上するオフィス」を、お客さまに提案することも可能なんです。そうすれば、ビル事業部門と人事部門との連携も進んでいくはず。しかも、自分たちでその良さを実感していますから、お客さまに対する説得力もあります。
そうは言っても本当に、私たちもまだこれからですからね。まだまだマインドもマネジメントも変わりきれない部分はあります。でも少なくとも、「これって無駄なのでは?」「こうしたほうがいいんじゃない」と言える組織になってきたことは重要だと思うのです。
変化を恐れて閉じこもるよりは、変化しようと一歩を踏み出してみる。そうやって、大きく舵を切ったところです。

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影] 伊藤圭
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