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これまでメールやオフラインで行われていたコミュニケーションがチャットに置き換えられて円滑になったり、Skypeなどビデオ会議システムが導入されたことでリモートワークが実現したり、あるいはGoogleドキュメントなどドキュメンテーションツールによって情報共有がスムーズになったり・・・ テクノロジーの進歩により私たちの仕事の仕方はこれまでとは大きく変わりました。
「テクノロジーを “極限まで” 駆使すれば、業務はもっと効率化できる」と話すのが、スマホ向けブラウザ「Smooz(スムーズ)」を開発するベンチャー、アスツール社代表の加藤雄一さんです。同社では、会計データの保管・共有は「MFクラウド」、契約書は「クラウドサイン」、稼働時間管理は「Everhour」・・・といった具合に、クラウドツールを徹底活用。それにより、管理職が雑務に追われることなく、本来集中すべき業務に専念できる体制を作っているそうです。
アスツール(「未来(あす)のツールを作る」の意)という社名からして一目瞭然、「ツール」に対する並々ならぬこだわりを持つ加藤さん。そうしたツールをアスツールでは実際にどのように運用しているのか、それによって管理業務はどの程度効率化されたのか、さらにはその土台にあるツールに対する考え方についても伺いました。

PROFILE

- 加藤雄一
アスツール株式会社 代表取締役社長 - 新卒でソニーに入社し、主にMDウォークマンの生産管理に携わる。その後、ソニー・エリクソン(現ソニーモバイルコミュニケーションズ)、楽天、Viber Japanに転じ、一貫してプロダクト開発に従事。2016年アスツール株式会社を創業。「人間の能力を拡張する未来(アス)の道具(ツール)を作る」というビジョンのもと、スマホブラウザ「Smooz」を開発。リリース3カ月で「AppStore Best of 2016」選出、AppStoreのiPhoneアプリトップフィーチャー、AppStoreのiPadトップフィーチャーの三冠を獲得。スマホブラウザの体験を再定義すべく奮闘中。
徹底したクラウド活用でバックオフィス業務を月5時間に短縮
―社名(アスツール)からもツールに対する並々ならぬ思いが伺えます。どんな経緯で起業を?
もともと僕自身が大のツール好き、ということもあるのですが、新卒で入社したソニーでまず管理部門に配属されたことが今につながっています。最初のキャリアでお金や情報の管理に携わってきた経験から、何かを整理すること、そのためのツールにいまだに強い関心があるんです。
ソニーの後は携帯電話を開発するソニー・エリクソンに移って、プロダクトを企画する側に。並行して、趣味でアプリを自ら企画し、作り始めて、モノづくりの本当の面白さを知りました。その延長上で立ち上げたのが、このアスツールという会社です。「未来(あす)のツールを作ることで人間の能力を拡張しよう」と大きな目標を掲げて、2016年に起業しました。

現在は「Smooz」というコンシューマ向けのスマホブラウザを開発しています。スマホブラウザの領域にはこれまで、誰でも使える、いわばママチャリ的な「Chrome」や「Safari」しかありませんでした。もっとロードバイク的な、こだわる人のためのツールも必要だ、という思いで参入し、グローバルマーケットでそのポジションを確立したいと考えています。
最初に「ブラウザをやる」と言った時は、まわりからは「正気か?」と言われましたが、現在、創業3年目にして70万ダウンロード。昨年はAppleが選ぶiOSのベストアプリ賞をいただくなど、サービスは順調に伸びています。
―現在の体制は?
社員は自分を含めてまだ4人。デザイナーが1人いて、あとはエンジニアです。リモートワークで働いている業務委託やインターンの人を含めても、全部で15人程度。その中に1人、オンライン秘書としてリモートでアドミン系の仕事を一手に引き受けてくれている方がいます。
―クラウドツールを徹底して活用していると伺いました。具体的にはどのように?
全体像をまとめると、この図のようになります。

非常に多いですが、メインで使っているのは上の3つ。おそらく多くの会社がそうであるように、コミュニケーションとドキュメンテーションには、いまやクラウドツールは欠かせません。
コミュニケーションは完全に「Slack」1本で、社内でのメールのやり取りは一通もありません。タスク管理は「Asana」。フェイスブック共同創業者のダスティン・モコヴィッツが立ち上げたサービスで、タスクをただカンバン方式で管理するだけでなく、タスクから簡単にガントチャートが作成されるなど、組織マネジメントを省力化できる点が優れています。


情報共有、ドキュメンテーションは「esa.io」。ここは「Google ドキュメント」などでもいいのですが、最大の違いはesa.ioでは共有設定が一切必要ないこと。背景には、基本的にすべての情報はすべての社員に公開されるべきものだという設計思想があります。マークダウンという特殊な方式で書くことで自動的に情報が構造化されるので、検索性も高いです。

フローの情報は「Slack」でやり取りし、ストックの情報は「esa.io」にたまり、今後やるべきアクションは「Asana」で管理、というイメージ。この3つがうちの基本的なお仕事ツールです。
本業であるプロダクト開発を支援するツールとしては、「GitHub」「AWS/GCP」「Google BigQuery」「Repro/Firebase」「Google Data Studio」「Helpshift」。読者の多くは開発者ではないとのことなので詳しくは省きますが、こうしたツールを用いることで、社内の誰もがビッグデータを解析して得られた知識を参照したり、重要なKPIを確認できたりする体制にしています。

一方、アドミン系で使っているのは、「Everhour」「ジョブカン」「MFクラウド」「SmartHR」「クラウドサイン」「Amazonビジネス」。中でも重要なのは「Everhour」で、「Asana」で管理している一つひとつのタスクに対して、誰が何分くらい仕事をしたかを事細かに記録できるツールなんです。

これには2つの目的があります。時間給を設定している人に対しては、この記録を元に給料をお支払いできるというのが一つ。もう一つは、そうでない人についても何に何時間くらいかけているのかが可視化し、それを定期的に振り返ることで、見込みとどれくらいのギャップがあったかを確認し、軌道修正できることです。
これを使えば勤怠管理の必要はほぼなくなるのですが、出勤日数や有給休暇を管理するため「ジョブカン」を使っています。お金周りはすべてマネーフォワードのサービス。労務周りは「SmartHR」。契約は紙はすべて廃止し「クラウドサイン」。備品の買い物もいちいちコンビニまで行くのが面倒なので、小さいものも含めてすべて「Amazonビジネス」で統一しています。


―なぜそこまで徹底を?
1年ほど前に1億円弱の資金調達をしたのですが、それまでは、社員2、3人だけですべての業務をやっていました。そのころは業務量もそれほど多くなかったので、自分一人で間接業務を回していたんです。ところがその後一気に人が増えて、それでは回らなくなりました。当時は自分の時間の3分の1以上、月にだいたい40時間がバックオフィスないし管理業務に奪われる状況。「これはまずい」と思い始め、それからは自分の時間を確保するために、投資をきちんとしていくことにしました。
これはツールにかぎった話ではなく、アウトソース全般に対する考え方を見直したということです。まずは、クラウドツールなどありものをなるべく使うこと。次にオンライン秘書などプロを雇うこと。そして、いずれにしても実作業は自分では行わず、作業者を別につけることを徹底しました。

法務や税務など専門的な領域についても、それまでは分からないことがあったらその都度、自分で一生懸命に検索して対応していたのですが、それも止めて、分からないことがあれば人を雇って聞くという方針に転換。チャットでほぼリアルタイムで返信してくれる人を第一条件に、社労士、税理士、弁護士を探しました。
その結果、今では僕自身がバックオフィス業務に費やすのは月5時間以内に抑えられています。アドミン系全般を担当してくれているリモートスタッフでも、月に15時間以内。この規模の会社としては、まずまずの効率性をもってオペレーションを回せているのではないかと思っています。
ゴールへの到達と直接関係のないことに費やす時間をどれだけ減らせるか
―多くの組織は、新しいツールを入れて環境を整えるよりも、ついつい目先の事業に注力すべきとなりがちです。
前職までの経験で、それでは遠くない未来に立ち行かなくなることを知ったんです。社員という立場で当時感じていたのは、「仕事=価値を生むことは楽しい。でも、人が増えるごとにどういうわけか、それがつまらなくなってしまう」ということでした。人が増えればやれることが大きくなって、より面白くなりそうなものなのに。実際にはなぜか前に進める量が少なくなっていってしまう。
それはおそらく、人が増えれば増えるほど、報告とか承認をする場面が増えることに原因があるのではないでしょうか。ですから、将来自分が組織を作ることになったら、報告業務をなくしたいと思っていました。作業をしたらそれ自体が報告になるような組織を作りたい。もしも本当にそれが実現できたのなら、そういうチームは楽しいし、強いだろう、と。

もちろん、現時点での最適解と言える今のオペレーションにたどり着くまでには、それなりの失敗や苦労を重ねています。第一うちは使っているツールも多いので、新しく人が入るたびにアカウントを作り、使い方を学んでもらって、Chromeのプラグインを入れてもらって・・・というセットアップだって大変なんです。アドミン系のことをやってくれているスタッフも、最初は「なんですか、この量のツールは・・・」と面食らっていましたから(笑)。
でもそれをやらないと、最後には先ほど話したような組織のオーバーヘッドにぶち当たる。それを避けるには、最初からいい仕組みを見つけて、作っておく必要がある。これが僕の考え方なんです。
これは情報の管理についても同じことが言えます。会社が大きくなればなるほど、「あのデータ、どこにあったっけ」という事態が起こりますよね? それが起こらないよう、最近はどこの会社もいわゆるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを入れていますが、うちも「Google Data Studio」を入れることで、日々の売上のデータなど、細かなKPIを全社員に公開しています。重要な情報をすべて一カ所に集約することで、社員の目線の高さをそろえる、ということですね。

こういうBIツールの導入の中には年間数百万円単位の費用がかかるものもあり、うちのようなスタートアップが導入するにはなかなか難しいところがあります。その点、「Google Data Studio」は自分たちでいろんなカスタマイズをやらなくてはいけない代わりに、利用料はタダ。幸いうちには開発力があるので、大企業に負けず劣らずの環境が整っていると自負しています。

―ツールを入れずに、バックオフィス業務だけを担当する人をフルタイムで採用する選択肢はなかったのですか?
もしそうしていたら、おそらく今よりもコミュニケーションの量が増えていただろうと思います。「ここはどうします?」といちいち誰かに確認するような。ありもののツールの良さの一つは、法務だったら法務、経理だったら経理など、それぞれにおいて世の中に存在するベストプラクティスがそこにすでに詰まっている、ということ。だからコミュニケーションがミニマムになるんです。
人が増えると、それだけ僕自身の頭の中を伝えるのにも多くの時間を割かれるじゃないですか。僕はそんな会社経営ごっこをするために起業したわけじゃない。目指すべきゴール、そこに最短で向かうためには、お金をかけて、ツールを使って、いかにゴールに到達するのとは直接関係のないことに費やす時間を減らせるか。これがすごく重要だと思っているんです。

―この体制のまま、組織はどこまででも大きくなっていけますか?
いや、さすがにそれは難しいだろうと思います。一人の人が見られるのは、せいぜい10人程度だと思うので。例えば30人くらいまで規模が大きくなったら、いかにアウトソースを徹底しても、自分一人ですべてを見るのは厳しい。組織にもういちレイヤー入れる必要が出てくると思っています。
ただその時も、こうしたツールを駆使して、なるべく報告のための報告のようなものが発生しないようにしたいですね。だいたいそういうものが発生するのは、現場で起こっていることをトップが把握していないから、ということが多い。それで、「スライド作って」とか「資料作って」という無駄なことが起きてしまうんです。
その点、今やっているようにデータをクラウドで一元管理して、みんなが同じデータをセントラルで見ているという状況を作っておけば、あらためて情報共有をする必要はなくなります。そのぶん、組織の方向づけのための議論だとか、困っていることがあったら助けるだとか、そういう本来のマネジメント業務にフォーカスできる。将来像としてはそういう形にしていきたいと思っています。
道具の進化こそが人類の進化。10年前より仕事はずっと楽しくなっている
―あらためて加藤さんにとって「ツール」とは?
冒頭にお話ししたように、うちのミッションは「未来のツールを作ることで、人間の能力を拡張すること」。なぜこんなミッションにしたかというと、自分の仕事観が関係しているところがあって。

仕事って「生きる意味探しゲーム」のようなものだと思っているんです。一日中ゲームをして、一日中映画を見て過ごして、40年間経ったら10億円あげるよと言われたとして、まあ嬉しい人も中にはいるかもしれないけれど、僕はそれはつまらないと思う。やはり多くの人は自分の存在意義を探しているし、自分のおかげで助かったとか、誰かに「ありがとう」と言ってほしいと思っているだろう、と。
じゃあ自分は何をしたいかと思った時に、僕は何か消費されるものではなくて、人間の営みを前に進められるものをやりたかった。ちょっとしたことであっても、自分がやったことで人びとの暮らしが変わったと言えるものを残したい、と。まあ、「Smooz」というこのアプリが果たして100年後に残っているかは分からないですけど。でも、今僕らが前に進めたものを前提に、また次の人が進めてくれれば、それでいいと思っているんです。

ホモ・サピエンスの進化の過程は、考えてみればすべて、基本的には道具の進化ですよね。日本に人間がたどり着いたのも、船を作れるようになったから。その結果、ここにいた動物が絶滅したりというネガティブな部分もあるんだけれど、基本的には道具の進化が人間の進化を作ってきたと思っているし、そこはポジティブなところに目を向けて前向きに使える方法を探していくのが、道具を使ううえではすごく大事なことだと思っています。
こういうクラウドツールにしてもそれは同じです。こういうツールが生まれたおかげで、僕らは働きやすくなって、仕事はより楽しいものになっている。おそらく10年前の人の業務と比べたら、多くの人の仕事は断然楽しくなっていると思うんです。契約書を作って・・・ということに5時間かけるんだったら、それは5分で終わらせて、企画書を書いていたほうが楽しいじゃないですか。
そういうことをみんなでやっていったら、楽しいし、世界全体もよくなると思う。僕は、道具を作ることが一番崇高な仕事だと信じているんです。だから、自分たちでもこれからも道具を作りたいし、人が作った道具はとことん使わせてもらう。そうやって一番進んだ、一番気持ちのいい働き方をしたいなと思いますね。

[取材・文] 鈴木陸夫、岡徳之 [撮影] 伊藤圭
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