東大合格者3倍、起業家輩出ーー次世代リーダー輩出校「聖光学院」の育て方

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世界の変化が激しくなり、誰もが正しい解を知らない問題に取り組まなければならない時代に突入するーー。そんな時代に価値を発揮できるリーダー人材の育成に取り組んでいるのが、聖光学院中学高等学校の工藤誠一校長です。

2004年の校長就任以来、東京大学を始め難関大学入学者を多く輩出(2016年の東大合格者は全国6位の71名、1990年ごろに比べて3倍超)。卒業生にオイシックス創業者の高島宏平さん、マクロミル創業者の杉本哲哉さんなど、現在活躍する起業家を世に送り出してきました。

改革のポイントは3つ、「脱・進学校」「生徒を学校に縛らない」「開かれた学校作り」。企業のマネジメント育成にも通じる「これからの時代に活躍するリーダー人材の育成」、その秘訣とマネジャーなど育成者に求められるマインドセットを伺いました。

学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長 工藤誠一
PROFILE
学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長 工藤誠一
工藤誠一
学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長

1955年横浜市生まれ。明治大学大学院政治経済学研究科修士課程修了。母校である聖光学院社会科教諭、同校教頭などを経て、2004年より校長。2011年より理事長を兼務。神奈川県立私立中学高等学校協会理事長も務める。

”昭和の人生すごろく”が終わっても変わらない組織体系

工藤先生が教鞭をとられてから校長に就任して以降、学校を取り巻く教育環境はどのように変化してきましたか。

教育の世界はどうしても、外の世界と比べると変化が緩やかな部分はあります。

ただ、歴然としているのは「みな同じような人生を送る ”昭和の人生すごろく” は終わっているにもかかわらず、それに対応しきれていない組織がある」ということ。いまだに製造業に勤める会社員がモデルケースとなっていて、学校のみならず、企業においても「同じ品質のモノをきっちり作ることのできる人材を養成する教育」から抜け出しきれていない

それに、日本では「学校の中だけで、進学に必要なことがすべて学べるのが理想」とされてきました。こうしたことは「日本の不幸」と言えるかもしれません。

学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長 工藤誠一

確かに、Eラーニングの導入など進歩はあるものの教育現場の変化は時代の変化を考えると遅いですね。

変化の良い面でなく、悪い面ばかりを見てしまうのです。つまり、「少しでも子どもたちに悪影響をおよぼすものは、断じてまかり通らぬ」という姿勢。実際、親御さんの中にも校内へのスマホの持ち込みをご心配されている方はいます。

ただ、今の現実社会は、普通の会社員がマルチデバイスを駆使し、インターネットを活用している。海外と英語でやり取りするのも通常業務の範囲内です。それなら、教育も変わらなければなりません。

工藤先生は「脱・進学校」「生徒を学校に縛らない」「開かれた学校作り」という3つの軸で学校改革を推進してこられたのだとか。改革の必要性を感じたきっかけはあったのですか。

工藤先生に贈られた藍綬褒章の賞状
工藤先生に贈られた藍綬褒章の賞状

聖光学院も世間的に見れば、「進学校」かもしれません。けれどもこれから人口が減少していく中、相対的にいわゆる「エリート」の人数も減っていきます。

今まではエリートがいわば、企業や行政の中枢に入って、リーダー的役割を担って牽引してきたところが、ままならなくなってくる。これまで通りの教育を続けるのでは、国として持続的な成長が見込めなくなると考えました。

それを痛感したのは、校長就任してから間もなく、中国の大連に視察へ行ったとき。中国人はご存知の通り人口も多いので、積極的に自己アピールするのが当たり前。欧米人も自分の意見を通そうと、自信たっぷりに話しますよね。

日本人は「和」を尊ぶ国民性で、奥ゆかしさが美徳とされてきた。それは、農耕民族として集団生活を営むうえでは正しい摂理だった。けれどもグローバル社会の中で、「日本人らしさ」にばかりこだわっているようでは、負ける一方。「強い個」を育てなくてはならないと実感したのです。

これからの時代に必要な人材は「ファシリテーター」

工藤先生が取り組まれた学校改革について、具体的にどのような取り組みをされたのですか。

まず「脱・進学校」というのは、いわゆる詰め込み型、勉強に専念させるばかりで、部活や課外活動に重きを置かない教育方針からの転換です。と言ってもそれは、専門知識もない先生が監督になって、精神論で長時間練習させて、子どもたちを「学校に縛りつけておく」ようなやり方ではありません。

かつて、学校というのは、世界の知の先端を知ることのできる場所でした。地球儀があって、ピアノがあって、書物があって、あらゆる分野を知ることができたのです。けれども今や、学校の手に負えないほど、世界は広くなりました。

子どもたちも知りたいことをすぐにインターネットで調べられます。それなら、学校に留まらず、さまざまな世代や分野の方と関わり、交流できるような機会を提供しなくてはならないと考えました。

学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長 工藤誠一

そこで始めたのが、聖光塾と選択芸術講座といった「情操教育」。聖光塾では、外部からも講師を迎え、プログラミングや数学、天文学などさまざまな分野を題材に、実践に基づく講座を行っています。

これから人工知能(AI)が活用される世界が現実のものとなって、違う領域のモノとモノ、人と人を結びつけられるような人が求められます。そこで必要なのが、若いうちに多様な経験を得て、感性を磨くこと。表向きのデータだけを見るのでは、物事の本質や潜在的なアイデアを見いだせませんからね。

さまざまなことに興味関心を持っている子どもたちに、専門的な学習機会やプロフェッショナルとの接点を提供することで、個人としての幅を広げているのですね。

それに加えて、かつての「読み・書き・そろばん」に匹敵するものとして、特に「語学・プログラミング」に力を入れています。

プログラミング授業の様子
プログラミング授業の様子

授業のほか、オンライン英会話を中2から週3回30分、マンツーマンで行い、徹底的に英会話力を身につけていきます。短期留学も「語学学習と異文化理解が目的」というより、日本で身につけた英語が実際使えるかどうか、実践できるプログラムとなっています。

また、中3から週1回「探究」という時間を設置し、その基礎として「プログラミング・統計・英語論文・クリティカル(デザイン)シンキング」を学ばせています。高1・2ではそれを発展させて、チーム単位でテーマを設定し、共同研究・発表を行う。各チームにはメンターとして外部の指導者が入り、Skypeなどで指導を行うこともあります。

実社会で確実に役立ちそうですが、今までの教科の枠組みでは括れないものばかりですね。それを教える先生方にも、これまでとは異なる先生像が求められるのでは。

あくまで既存の教師に求められているのは、教育指導要領に基づいて教育を行うことですから、そもそも教員免許が正しいのかどうか、前提を疑う必要があるかもしれません。

本当に今、求められる教師を育てようと思ったら、履修制度も変えていかなくてはならない。一旦社会に出て場数を踏んだ人が、教師になってもいいかもしれませんよね。商社で海外を飛び回った人が英語を教える、とか。

私自身もオンライン英会話を受講していて、終業式には英語でスピーチしたのですが、今の時代はネットでいくらでも最先端の授業が受けられます。受講料を払えば、各教科で教え方のうまい「名物教師」の講義を受けられるし、福岡県のとある公立高校の先生が、YouTubeで世界史の授業を行っているんです。もちろん、無料ですよ。

果たして、いつまでも「中大兄皇子と中臣鎌足による大化の改新が行われて・・・」などと、小学校・中学校・高校と同じことを何度も教わるような教育を続けていいものでしょうか。

極論を言えば、これからの教員は「ファシリテーター」としての役割を果たしていかなくてはならないのだと思います。教科の枠組みを超えて、校内外のさまざまな人と協力し、生徒たちに多様な経験を積ませてやれるような教員です。

学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長 工藤誠一

これからの時代、どんなにテクノロジーが発達しても、幼稚園の先生や保育士さんが職を失うことはないでしょう。なぜなら、一人ひとりをしっかり対面で見ていかなくてはならないからです。

逆に、これまで機械的に授業を繰り返していたような先生は、もしかしたら淘汰されるかもしれない。学校運営で50人の先生が必要だったのが、25人でも回るようになれば、その先生方にきちんと見合う報酬を与えればいい。そうすれば、きっと優秀な人が先生になってくれるでしょう。

今のままでは、なかなか教師になりたがる人材がいないんですよ。やらなければいけないことが際限なく増える一方で。けれども組織の論理として、時代を経れば経るほど硬直化してくる。ですから、テクノロジーを取り入れ、多様な人材を取り入れ、「開かれた学校作り」を行っているのです。

テクノロジーが発達して際立つ「対面」の大切さ

企業に置き換えて考えても、これからはファシリテーター的な立ち回りができる人材が活躍できるように感じます。お話を伺っているとますます、教育現場と日本企業の置かれた状況、抱えている課題が重なって見えてきます。なぜ、工藤先生は改革を実行することができたのでしょうか。

校長になる前は普通に担任としてクラスを受け持っていたのですが、教え子たちにはよく「やりたいことがあるなら、起業してみろ。やってみいや」と勧めていたんです。

そのせいか、『antenna』を運営している(グライダーアソシエイツの)杉本(哲哉 代表取締役社長)とか、オイシックスを創業した高島(宏平 代表取締役社長)とか、不思議と教え子に起業家が多いんですよ。

杉本さんと工藤先生。聖光祭にて
杉本さんと工藤先生。聖光祭にて

「近くに来られることがあったら、ぜひ会社に寄ってくださいよ」なんて誘われて六本木ヒルズに行くと、若い人たちが颯爽と働いていて、夢のような空間が広がっている。「なんだこの世界は!」と思うんです(笑)

で、翌日、お役所に行くと、まぁ経費削減で仕方ないんだけど、薄暗い古びた職場でみんな働いているわけ。金融業界だってかつては夢があったかもしれないけど、今はなかなかそうもいかないご時世で。

工藤先生の視点から、日本の企業はどのように見えていますか。

学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長 工藤誠一

以前なら、会社に忠誠を尽くせば、最後まで面倒を見てくれたんでしょうけど、今は「しっかり面倒を見ないのに、どうやって忠誠を尽くすんだ?」と社員から疑念を持たれている。

ある種、ネットによって既存体系が崩れたところがありますよね。SNSによって個人に光が当たって、会社がいくらピラミッド型の秩序を守りつづけようとしても、崩れてしまうのは当然です。

昔ながらのやり方にこだわるのもいいけれど、それにしがみついているのはダメでしょう。日本人は根性論が好きだから、なんでも「頑張れ」で済ませようとしてしまうけど、取捨選択する必要があります。

何が重要で、何が大切なのか・・・ それを選びとるには、自分の軸となる価値観が必要となります。それはどうすれば身につくのでしょうか。

もっと走りながら考えてみてもいいんじゃないかと思うんですよね。

日本企業はどうしても用意周到に準備しないと、いつまでも動けないようなところがあるけど、これだけ目まぐるしく変わる時代なのだから、目標を決めて、それに向かって走っていって、「やっぱり違うな」と思ったらまた別の道を探せばいいんですよ。「これしかない」というのは思い込みなんです。

よく、熱心な親御さんで、子どもの成績をエクセルで管理している方がいるんですけど、これが不思議と逆効果なんですよ。会社ではよく数値目標を設定して予算管理していますけどね。

でもやはり、すばらしい上司は単に数字ばかりを追うような人じゃない。普段のコミュニケーションや振る舞いから、信頼関係を築いています。結局、どんなにテクノロジーが進化しても、「人と人」というのが原点にあって、だからこそむしろFace to Faceの大切さがより際立ってくるのだと思います。

学校法人聖マリア学園 理事長/聖光学院中学校高等学校 校長 工藤誠一

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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