「Googleの目標設定術」で2018年を飛躍の年にーーピョートルさんに聞く

2017/12/11

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一年も終わりにさしかかり、社内で一年の振り返りや来年への目標設定の場を設ける企業も多いでしょう。けれども到底達成できないような目標を掲げたり、漠然とした抱負を述べるのみに留まったりと、その場が形骸化してしまっていることはないでしょうか。

果たして、「エクセレント・カンパニー」と言われるような企業では、どのような形で目標設定しているのか。そこで今回は、Googleで人材育成やリーダーシップ開発に携わってこられたピョートル・フェリクス・グジバチさんに、Google在籍時代、そして今でも実践されている目標設定の方法を伺います。

Google

PROFILE

プロノイアグループ株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ
ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイアグループ株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役
ポーランド生まれ。2000年に来日。ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年Googleに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年独立して現職。 プロノイア社では国内外のさまざまな企業の戦略、イノベーション、管理職育成、組織開発のコンサルティング・研修を行う。モティファイ社は社員とメンターが双方で使うユニークな人材育成プログラムや、働きやすい企業の環境作りを支援する人事ソフトベンチャー。『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』著者

会社・チーム・個人すべてに整合性が取れた目標設定

ーGoogleにおいて目標設定はどのようになされているのでしょうか?

プロノイアグループ株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ

Googleでは年初に企業としての「OKR(Objective & Key Result:目標と主な結果)」を設定します。

例えば、「今年はYouTubeだ」というふうに具体的なプロダクトのときもあれば、「今年はモバイル対応に注力しよう」など会社のリソースをどこに割いていくのか、ということもあります。

そしてそのOKRに対して、部長やマネジャーの個人レベルで、

  • それぞれ具体的に何ができるか
  • どんなことをすべきか

をアップダウン、ボトムアップを行き来しながらすり合わせをしていきます。

—Googleが全社的に掲げるOKRはどのように設定されるのでしょうか。

基本的にはCEOがObjective(目標)を出して、そこから具体的なKey Result(主な結果)が設定されますが、

  • まずはとにかく分かりやすいもの
  • そして世界にインパクトをもたらすような「ムーンショット」

であるということです。

自分たちが想定できる以上の大きな目標を7割でも達成すれば、きっとすばらしい成果が得られるだろう、ということ。

毎週金曜日に行われる「TGIF(Thank Google it’s Friday)」と呼ばれる全社ミーティングでは、サンダー・ピチャイ社長をはじめ、経営陣含めて全世界の全社員が参加し、現時点でのOKRの達成状況を率直に話し合います。

「これに関してはここまで達成できているけど、これはまだ達成できていない。なぜ達成できていないのかは、こういう背景があり、それに対してはこういうふうにアプローチしていく」・・・などと、CEO自らレビューを行います。

そこでOKRに対するパッションやアイデアを共有できますし、ムーンショットは意外とそういう個人的なパッションから生まれるものだと思うのです。

プロノイアグループ株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ

ー全社のOKRをチームや個人レベルに落とし込む際、どのような手順で行われるのですか。

Googleの働き方は非常に自由なものだと先日お話しましたが、それはひとえに緻密なゴール設定がなされているからこそ。

Key Resultは1つのObjectiveにつき多くても4つほど。チームと個人、それぞれのOKRをマネジャーとメンバーがそれぞれきちんと合議して、「このObjectiveは現時点で達成が難しい。設定し直したほうがいいのでは?」と、週次の1on1ミーティングを通じて随時変更することができるのです。

その1on1ミーティングで四半期ごとのゴール設定と進捗状況とを照らし合わせながら、次のアクションとして何をしていくべきかを話し合います。

具体的なプロセスは個人や所属するチームによっても異なりますが、

  • 全社的なOKRとチーム、個人のOKRの方向性が合致していること
  • そして進捗状況を常に共有し、誰でも分かっている状態にあること
  • それを柔軟に変更することが可能なこと

というのが前提です。

ーOKRの達成進捗状況はどのように共有されているのでしょうか。

毎週金曜日に個人がそれぞれどんなことを達成したのか、OKRの進捗状況をスニペット(要約)で可視化するのです。それが週明け月曜日にはまとめられ、シェアされます。

これは世界中の部署で行われていて、個人レベルだけでなくマネジャーレベルやチーム単位でも行われています。ですから、自然と建設的な競争が起こり、「うちも大きなことをやろう」というモチベーションにつながります。

目標は「上から降ってくる」ものではない、必要な対話とは?

—あまりに高い目標を課せられたり、目標が上乗せされたりして、かえってモチベーションを失ってしまうこともある目標管理法とは、どう異なるのでしょうか。

あくまでその目標がカスケードのように「上から降ってくる」ものではなく、上から下、下から上を繰り返しながら、マネジャーと個人、お互いの合議によって双方納得している、というのが前提だからでしょう。

まず、トップの掲げるミッションが共感できるものであり、それに基づいて設定されたOKRがあって、それをチームや個人に落とし込む際、徹底的にディスカッションして調整していきます。

例えば、営業の場合、レベニュー(収益)と今期担当するプロジェクトに関連することだけでなく、自己啓発の取り組みや「20%プロジェクト(コア業務以外で自分がやりたいプロジェクトを20%やること)」も含めて、個人のOKRに設定します。

マネジャーはそれに対し、個人のOKRがチームのOKRとうまく連動しているか、全社のOKRと関連性があるか、整合性が取れているか、1on1ミーティングの場でしっかりコーチングするのです。

ー「個人のOKRが全社のOKRとズレている」ということは起こらないのですか?

はい。マネジャーの立場で見ると、チームメンバーのゴールが自分のゴールにもなっていることが前提です。分かりやすく言えば、「部下が成功すれば、自分も成功する」ということ。

プロノイアグループ株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ

よく、部下に対して「あいつは仕事ができないから」と嘆く上司もいますが、Googleではそれはつまり「自分は仕事ができない」と表明しているようなもの。自分のためにも、部下が成功できるようにマネジメントするか、あるいはより適した部署への異動を促すなど、何らかのアクションを起こすべきです。

自分の部下を成功させるためには、去年と今年、四半期前のゴール設定と照らし合わせながら、本人の成長の手助けとなるよう、去年が100なら今年150に設定してもいい。けれどもその数値だけを単に丸投げするのではなく、それを実現するためにはどうすればいいのか、ともに考えていきます。

例えば、個人のがんばりでなんとかOKRを達成するのではなく、OKRを相互に共有した「コラボレーター(協力者)」や「コントリビューター(貢献者)」を設定するのです。それぞれのOKRが密接に影響しあい、もし誰かのOKRが変更されれば、他の人のOKRも変わる可能性がある

そうやって何らかの機会やコミュニティを活用することで、個人のOKRを達成しよう、ということです。

—マネジャーはあくまでOKRの進捗状況を把握するだけでなく、それをどう達成するか、「How」の部分もつぶさに見ていく、ということなんですね。

そうです。それこそがマネジャーの役割ですし、部下のバイアスを外してあげるのも重要な役割です。「なぜその仕事をしているのか」「仕事を通じて何を得たいのか」「それを得たいのはなぜか」・・・部下の信念を理解しなくては、適切なOKRは設定できません

また、以前もお話しましたが、「ムーンショット」なObjectiveを設定するためには、現実的に着地させるためだけの質問でなく、「予算や納期などの制限がなかったら?」「10倍のリソースがあれば?」など、可能性を最大限に広げるような質問を投げかけるのも重要です。

圧倒的に対話が足りない日本企業のマネジャー

ーチームメンバーと対話するにあたって、留意することはどんなことですか。

具体的な対話方法はGoogleの「re:Work」でも公開されていますが、

  • 「Emotional Intelligence(エモーショナル・インテリジェンス:感情的知性)」
  • 「Compassion(思いやり)」

をしっかり理解すること。

「re:Work」
「re:Work」

「Empathy(共感)」と「Compassion(思いやり)」は似て非なるものなのです。「共感」は、ただ相手の気持ちを理解し、「そうだね」と寄り添うことですが、「思いやり」はより踏み込んで、「何か困っていることがあれば、手伝ってあげたい」と働きかけることです。

マネジャーはこの「思いやり」の姿勢を持って、チームメンバーとの間に信頼と尊重の関係性、心理的安全性を構築していくのです。

ーそれにしても、Googleのマネジャーは非常に難易度の高いことを要求され、それをやってのけているように感じます。

いやいや、「どうせGoogleの社員は優秀だからできるんでしょ」と諦めるのは早いですよ(笑)そもそも、日本企業のマネジャーは対話が足りていないのでは?

プロノイアグループ株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ

よく「部下とコミュニケーションするにはどうすればいいのか」と聞かれますけど、まずは飲みに行くなりランチに行くなり、交流を深めてください。楽しいことをせずに、チームが良くなるはずはないんです。

問題だと思うのは、日本企業の目標管理の多くが、半ば「部下を説得する」形になってしまっていること。

何の根拠もなく「前年比110%」みたいな目標が設定され、「こんな数字はおかしいのでは?」と部下は声を上げることもできない。「チャレンジ、チャレンジ」と言いながら、それを実行する現場にはまったく情報がないんです。

ーそれが仕事の「やらされ感」にもつながっているのかもしれませんね。

それを打破するには、やはり部下が喜んで達成したいと思える目標を設定する、ということです。

確かに、すべての仕事が楽しいと思えるようになるのは難しいかもしれませんが、一つでも楽しいこと、面白いことを見つける。いきいきと働ける目標を設定するには、やはり部下がどんなことで喜ぶのかを知ること、「信念」に関する対話が必要なのです。

OKRはミッションドリブンな社風でないと機能しないところがあります。まず会社としてミッションを決めれば、そのミッションに共感し、積極的に関与しようとする人材を採用することにもつながります。

Googleの場合は「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」というものですが、他の企業だって優れたミッションを掲げることは可能だと思いますよ。

おそらく、仕事においても同じようなことが言えるでしょう。どんな目標設定なら、心から「やりたい」と思えるか。それを全社、チーム、個人に落とし込んで、対話に対話を重ねて、みんなが納得したうえで設定する。それが、Google流の目標設定術です。

プロノイアグループ株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影協力] ヤフー株式会社オープンコラボレーションスペース「LODGE」

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