「豊かな日本」を取り戻せるか? 元窓際族の社長が語る、中高年層に今求められる役割

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1990年代初頭のバブル崩壊以降、今に至るまでの日本経済の停滞は「失われた30年」と呼ばれています。真面目で勤勉だった国民性は過去のもの。日本人の仕事に対するエンゲージメント、転職起業の志望度はともに世界の先進国で最低水準※12になりました。

この状況を「僕たち中高年層の責任だ」と語るのが、フォースタートアップス株式会社代表取締役社長の志水雄一郎さん。成長産業の支援インフラの構築を目指し、数多くのスタートアップの人材支援を行っています。

日本経済低迷の根本的な原因とは。再び日本が豊かな国になる可能性はあるのか。今こそ中高年層に求められる在り方を、志水さんに聞きました。

※1…「国際労働比較2022」独立行政法人労働政策研究・研修機構
※2…「中小企業のライフサイクル」中小企業庁

「日本は豊かではない」という残酷な真実

「失われた30年」と言われるように、日本経済の停滞は続いています。志水さんは、日本の現状をどう見ていますか。

フォースタートアップスCEO 志水雄一郎さん

一言で言うならば、すでに日本は豊かな国ではなくなりました。2020年の経済協力開発機構(OECD)データによると、加盟38カ国の中で、日本の「1人当たり労働生産性は28位」。データ取得が可能になった1970年以降、もっとも低い順位となっています。同じくOECDの調査において「平均年収は22位」で、スペインやイタリアとほぼ同じ。仕事に対するエンゲージメント、転職・起業の志望度も世界最低水準と言われています。

また、日本はどの国よりも老後が長い世界最高齢国家です。消費税は上がり、年金の受給開始年齢は後ろ倒しになり、医療費の国民負担は増えていきます。日本は「生涯で稼げる金額は減り、生活に必要なコストは増えている国」なんです。

昔前は、年金なども考慮すると、サラリーマンとして定年まで勤め上げれば、ある程度の老後を送ることができていました。しかし、状況は変わった。年間500万円の生活を続けるのに必要なお金は、リタイア後の生活が30年と仮定しても1億5000万円。日本では高所得者側となる年収1,000〜2,000万円の人ですら、老後が安泰とは言えないのが現状です。

衝撃的な数字ですね。

こうした現状を見て、「若い世代に頑張ってもらおう」と言う人もいます。しかし、そんなに楽観的に考えることは、僕にはできません。10〜20代の人たちを対象にした調査によると、「未来に明確に希望を感じている若者は約2割」です。安全で食料も豊富な日本なのにこのありさま。未来を担う若い人たちを失望させている国が、勢いを取り戻すとは考えられません。

なぜ、このような状況に陥ってしまったのでしょうか。

僕たち中高年層が「日本が豊かではない」という事実から目を背けてきたことが大きいと思います。僕はそれを「知らない悪」と呼んでいる。経済成長を前提とした終身雇用や年功序列のシステムに疑問を持たず、「いい大学を出て、いい企業に入れば幸せ」というキャリア観を捨てきれなかった。世界に通用する事業や会社を作れる能力のある人すらも、知らない顔をして、普通に会社勤めをしてきたんです。

高度経済成長の発展は、戦後の国を再建しようと旗を立てたリーダーたちのおかげで実現しました。今こそ、そうしたリーダーが求められているのではないでしょうか。グローバルの基準を学び、日本が直面している現状と向き合い、失われた30年間を取り戻すこと。それが僕たち中高年層の役割だと思います。

日本復活は中高年層の活躍にかかっている

中高年層が日本復活の鍵を握っているのですね。

おっしゃる通り、中高年層が変わることで日本が立ち直る可能性は大いにあります。そのために大切なことは、グローバルの基準をインプットすることです。

例えば、キャリアの選択順位。グローバルエリートが選ぶキャリアは、1番が「起業」です。世界を代表するような企業を作り、社会的影響力と資産を活用して社会を豊かにすることに挑戦します。2番目の選択肢が、次のGAFAMになり得る「Pre-IPO スタートアップ」への就職。イノベーションを起こすやりがいや、うまくいけばもらえる株式報酬を求め、優秀な人が集まります。

その次が「GAFAM」。日本では、GAFAMへの就職をすごいことだと捉えがちですが、グローバルでは「ゆったり働ける場所」程度の認識です。4番目の選択肢は、基本的にイノベーションのチャンスも株式報酬も得にくい「コンサルティングファーム」。それも叶わなかった人が就職するのが、5番目「その他の産業」です。

優秀な人ほど、リスクもリターンも大きいキャリアに挑戦する。

重要なポイントは、この順位が年代とは関係ないということです。若いから起業のリスクを取っていると言いたいわけではありません。事実、アメリカで成功 ※3している経営者の「創業時の平均年齢は45歳」。20代での起業は、再現性や勝ち筋を見出すのが難しく、失敗に終わることもある。しかし、経験を積み40〜50代で花開く経営者が多いんです。

今や、新産業が国家価値の半分を作る時代。優秀な人たちが起業したりスタートアップで活躍したりしなければ、国の競争力はどんどん落ちてしまいます。日本人の平均年齢は48歳なので、まだまだ多くの方にチャンスがある。中高年キャリアの中盤戦だと捉えずに、新しいことに挑戦していく人が増えてほしいですね。

※3…本稿では「創業から5年経過した時点で、0.1%以上の成長率を有する企業」の意

フォースタートアップスCEO 志水雄一郎さん

「40歳で窓際族」だった自分を恥じ、生き方が変わった

志水さんは40歳で会社を創業されています。新しい挑戦をしたきっかけは?

偉そうに話してきましたが、40歳のころの僕は、日本を豊かだと勘違いしていた1人でした。パーソルキャリアの転職サービス 『DODA』を立ち上げ、サラリーマンの中では知識も経験も積んでいることにあぐらをかき、いつの間にか「窓際族」になっていました。

仕事の量が減って時間ができ、人生を振り返った時に、自分が国や社会について学んでこなかったことに絶望したんです。もちろん、事業にまつわることはインプットしてきましたが、日本が危機的状況に陥っていることは知りませんでした。

僕の中高の同級生には、堀江貴文や孫泰造がいます。本来だったら彼らとつながり、日本や世界の未来について学び、考えなければいけなかった。しかし、当時の僕は自分を肯定するために、無意識的に彼らの発信する情報をシャットアウトしていました。

動物でさえ、外敵のいない土地を探したり多くの子孫を残したり、生き残るために知恵を働かせます。それなのに、人間であるはずの僕が日本の衰退に無頓着に生きている。そう気づいた時に、自分の人生を心から恥じたんです。

自分の問題点と向き合ったんですね。

それから、僕は考え方の基準を変えました。「自分のもの」と思っていた自分の時間や存在を、「社会のもの」と捉え直すことに。社会や時代を良くするためになっていなければ、生きているのは「負」とまで思うようになりました。

必死になって成功者といわれる人たちから学ぶ機会を作り始めたのも、そのころです。たとえば、日本を代表するベンチャーキャピタリストの方と毎月ランチをして、テクノロジーやイノベーション、スタートアップのことを教えてもらいました。

また、ほぼすべてのスタートアップ系のカンファレンスに参加するようになったんです。しかも、誰よりも長く会場に居座り、講演を聞いて参加者と情報交換をします。周囲の方から「スタートアップの人たちと一番コミュニケーションを取っているのは、志水さんだよね」と言われるぐらい、貪欲に学んできたんです。

愚直にインプットをしながら仕事に打ち込んだ結果、8年前に窓際族だった僕は、上場企業の社長になっていました。負け犬だった僕でも、変わることができた。だから、どんな人にだって可能性があるはずです。学んで挑戦をする限り、誰もがより良い未来に近づけると、僕は信じています。

若者に希望を見せることが中高年層の役割

自分を変え、日本の未来を変えるために必要なことを教えてください。

大切なことは3つあります。まずは「知らない悪」を解消すること。日本が世界に負けていることや暗い未来が待っていることを知り、その上でどう行動するべきか、自らに問いかけてみてください。

次に、「視野・視座・視点」を変えるようなインプットをすること。そのためには、環境と経験と情報の基準を変える必要があります。営業をしている人なら、自分よりも営業がうまい人のいるコミュニティに飛び込んだり、MBAに行ってディスカッションでコテンパンにされたり、文献を読んで最新の営業手法を学んだりしてみてください。

そうやって行動をし始めると、必ず世界と自分とのギャップを目の当たりにします。

大切なことの3つ目は、そこで落ち込まずに、「自分の可能性にワクワクする」前向きな気持ちを持つこと。

この3つを掛け算できれば、社会に対しての貢献度合いも、人生のやりがいや経済合理性も変わるはずです。

繰り返しになりますが、日本を停滞させて若い世代が希望を持てない国にしたのは、僕たち中高年層が選択を間違ってきたからだと思います。同じ過ちを、次の世代の人たちに繰り返させてはいけません。今こそ中高年層が変わる時。社会課題に向き合い、一生懸命努力を続ける姿を見せ、「この国には可能性があるんだ」と若い世代に伝えていくのが、僕らの役割です。

言葉で伝えるだけで、いきなり全員が変わるとは思いません。しかし、この記事を読んでくれた人の一部が、明日からの行動を変えてくれるならば、もう一度、日本が「豊かな国」になれる可能性はあります。

フォースタートアップスCEO 志水雄一郎さん

フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長 志水雄一郎
株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)にて『DODA』立ち上げなどを経て、2016年に成長産業支援事業を推進する株式会社ネットジンザイバンク(現フォースタートアップス株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。2016年『Japan Headhunter Awards』にて 国内初『殿堂』入りHeadhunter認定。2019年より日本ベンチャーキャピタル協会ベンチャーエコシステム委員会委員に、2020年より経団連スタートアップ委員会企画部会/スタートアップ政策タスクフォース委員に就任。

[取材] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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