「ロマンとそろばん」で企業を見極めよ。ベンチャー・スタートアップ転職のプロが語る手引き

2022/08/02

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近年、転職を検討する際に、ベンチャー・スタートアップ企業を候補に入れる人が増えています。それでも、30、40代とキャリアを重ねれば重ねるほど、知名度や企業の将来性、その先のキャリアを考えると、実際に飛び込むには勇気がいるものです。

では、内情をよく知らない、名前すら聞いたことがない企業を紹介されたり、見つけたりした際、転職して良いかどうかを見極めるにはどうしたら良いでしょうか。また、転職先のベンチャー・スタートアップ企業で活躍する人の条件とは?

ベンチャー・スタートアップ転職のプロ株式会社キープレイヤーズ代表の高野秀敏さんから、企業を見極める技術と転職を成功させるためのマインドセットを学びます。

PROFILE

高野秀敏さん キープレイヤーズ
高野秀敏
株式会社キープレイヤーズ 代表
東北大学卒。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者からの採用に関する相談にこれまで乗ってきた。55社以上に投資し、5社が上場、そのうち2社は役員として上場に貢献、そのほか149社の上場を支援してきた実績もあり。バングラデシュで不動産会社、商業銀行の設立からの株主、渋谷のバーのオーナーなども務める。

10年で投資額は10倍に。ベンチャー・スタートアップ転職が加速するワケ

ベンチャー・スタートアップ企業に転職するミドル世代のビジネスパーソンが増えています。どのような背景があると思われますか?

2009年で約700億円だったベンチャー・スタートアップ企業への年間投資額が、2022年現在、8000億円を超えています。それでもアメリカの50分の1ではありますが、この10年で約10倍の資金がベンチャー・スタートアップ企業へと渡り、積極的な採用が可能になりました。

また、転職者の目線から見て、ベンチャー・スタートアップ企業の「薄給で激務」といった印象は薄くなっています。逆に、大きなビジネスチャンスや昇格のしやすさ、ストックオプションなどの将来的な金銭メリットに魅力を感じ、ベンチャー・スタートアップ企業で働きたいと思う人が増えていると言えます。

さらに、ベンチャー・スタートアップ企業側の大きな課題はミドル層の人材不足です。自社内で育成するのが難しく、他の企業で経験を積んだ人材を採用したいという気持ちは強い。転職者と企業、両者のニーズがあいまってベンチャー・スタートアップ企業への転職は増えているんです。

今後も増え続けると思われますか?

昨今の世界情勢や経済情勢を見ると、そうとも言えません。採用は景気と連動しています。景気が後退するにつれて、採用や転職が難しくなるのは間違いないでしょう。

もちろん全ての企業が難しくなるわけではありません。アフターコロナで需要が増えるインバウンド系の企業などは伸びるでしょう。勝ち負けがはっきりするんです。

転職希望者は、短期と長期の両方の目線を持ちながら、転職先のベンチャー・スタートアップ企業を見極めることが大切になってくるでしょう。

投資家の観点で企業を見極める

高野さんは投資家としても活躍されています。将来性のある良い企業を見極めるポイントを教えてください。

企業を見極めるポイントは、市場の成長性や事業の収益性、マネジメントのタイプ、人事の評価方針など多岐に渡ります。特定のポイントを見るというより、全体的に確認することが大切です。

その上で、分かりやすいベンチマークの1つが「営業利益率+売上高成長率=40%」という指標。これは投資判断に用いるベーシックな基準です。低成長な企業なら利益率が高く、利益率が低いなら成長率が高い。合算で40%を超えていることがミニマムラインと考えています。

投資家的な観点で企業を見極めよ、と。

その通りです。とはいえ、これらの数字を開示していない企業もあります。その場合はサービス単価と契約者数を聞いて、ある程度の数値を予測します。また、面談で「御社のビジネスは利益率3割を超えていますか?」と質問するのもいいでしょう。面接官の反応によって、判断します。企業を見極めるには、開示されていない情報を引き出す質問力も必要になってくるんです

すぐに活用できそうなノウハウですね。ほかにも、企業を見極める際のポイントはありますか?

オフィスのロケーションも1つの判断基準になります。たとえば、創業間もない企業が業績に見合わず都心の一等地にオフィスを設けていたら、「人件費を削減しているかもしれない」という想像が働くはず。

一方、業績がいいのにある程度の立地にオフィスがある企業は、脇がしまった経営をしていることが想像できます。最終の利益をしっかり残し、社員に投資し、事業を成長させられる可能性が高いわけです。

僕が前にいた企業のオフィスは青山カナダ大使館にありました。非常に立派なビルで、エントランスは外資企業並み。しかし、中身は機能的で家賃もリーズナブルだったと記憶しています。企業のイメージを左右するエントランスにはお金をかけ、バックオフィスには無駄にお金をかけない。そうしたお金の使い方ができる企業だからこそ、今なお成長し続けています。

転職するかどうか迷っているベンチャー・スタートアップ企業があれば、オフィスやWebサイトにどのくらいお金を使っているか、合理的な使い方をしているかを確認してみてください。企業の実態が見えてくるかもしれません。

ビジョンを過信しないほうがいい

お金の使い方は大事なポイントですね。実態やファクトの大切さを話していただきましたが、一方、ベンチャー・スタートアップ企業らしく「ビジョン」も見極めポイントではないかと思うのですが。

企業が目指している未来に共感できるかどうかは大切な観点です。しかし、個人的には「ビジョンを過信しないほうがいい」とも思います。

なぜなら、そもそもビジョンとは人を雇用し、マネジメントするための経営ツールという側面があるからです。素敵なビジョンを掲げている企業には、多くの場合、優秀なブランディングコンサルが関わっています。プロのデザイナーとコピーライターがあなたの胸に刺さるように、メッセージを作っているんです。

素敵なビジョンを掲げている企業が、必ずしも素敵な企業ではないということは理解しておくといいと思います。

逆に言えば、素敵なビジョンを掲げていなくても、良い企業はあるということですね。

ええ。良い企業の定義はいろいろありますが、上場しているところを考えてみると分かりやすいですね。

上場するのはコンサル、受託、人材、不動産、M&A仲介、広告・営業代理など、いわゆる労働集約型のビジネスがほとんど。それらの企業は、必ずしも斬新なビジョンや新しいビジネスモデルを持っているわけではありません。どちらかというと、すでに確立している“固い”ビジネスモデルがあるからこそ上場ができるんです

この20年間で最も成功しているベンチャー・スタートアップ企業の1つ、サイバーエージェントさんに関しても同じことが言えます。当時、ネット広告こそ普及はしていませんでしたが、広告代理事業というモデル自体はありました。成長する方法が分かっているモデルで着実に利益をあげ、それを土台に他の事業を展開しているわけです。

こうした点から考えても、ビジョンだけで企業を選ぶのはお勧めしません。ピュアな人ほど、ビジョンへの共感で転職先を選んでしまいがちですが、選択肢を狭めることにもなりかねない。

大切なのは「ロマンとそろばん」です。自分がビジョンを重要視する側だと思う方は、あえて成長性や収益性、固いビジネスモデルかどうかなどの定量面を見るように心がけてください。良い企業を見つけられる確率が高まるかもしれません。

自分の「違い」を活かして活躍できるか

ここまで伺ってきた見極め方でいくつかの企業を選べたとします。その中から、「本当に自分が転職すべき企業」を決めるには、どんな考え方が重要でしょうか?

「自分が活躍できるか」が非常に重要なポイントです。良い企業に入ったとしても、自分が成果を出せなかったら意味がありませんから。

活躍できる企業とは、言い換えれば、すでにいるメンバーと自分に「違い」がある企業のことです。価値観にしてもスキルにしても、自分と同じようなものを持っている人たちばかりの環境で活躍するのは簡単ではありません。

野球で考えてみてください。自分がキャッチャーとして試合に出たかったら、古田敦也選手がいるヤクルトには入団しませんよね。優秀な人と切磋琢磨すれば成長できると考える人もいるようですが、そもそも仕事とは仲間と争うものではなく、「違い」を利用して成果を出していくものです。

たしかに。

たとえば、僕の投資先のテック企業に60代の元市長が転職したんです。その企業は行政向けのDXをしています。彼はテックについては詳しくないけれど、行政とのコネクションという「違い」を武器に大活躍されています。

いまのは少し特殊な例かもしれませんが、一般的なシニア世代の方も年齢の違いを活かせる可能性があります。

時々、喫茶店で、シニア世代の方がシニア世代の方に営業をかけているシーンを見ますよね。なぜ、若い人が営業しないのかというと、「人は同じ世代からアプローチを受けたほうが買ってしまいがち」からです。

つまり、シニア世代であるというだけで、シニア向けにビジネスを展開している企業にとっては貴重な人材なんです。このように、転職を考える際は自分の「違い」を活かせるかどうかを判断軸に入れてみてください。

キャリアに影響するのは、むしろ「転職期間以外」の過ごし方

良い転職先が見つかり、いざ働き始めるときに大事な心持ちはありますか?

「企業に期待し過ぎない」ことですね。どんなに慎重に選んで転職をしたとしても、少なからず期待とのギャップは生じます。とくに、優秀な管理職のもとで働いていた人がベンチャー・スタートアップ企業に転職すると、上司に不満を感じることが多いようです。ベンチャー・スタートアップ企業には、マネジメント経験が豊富じゃない方もいますから。

そこで必要なのは、前職で身につけた価値観や考え方、もっといえば偏見やプライドを一度捨て、上司が求めていることに応えようとすることです。夢がないように聞こえるかもしれませんが、会社員である限り、「自分が昇進したいなら、まずは上司を昇進させる」というルールを受け入れましょう。

丁寧に目標をすり合わせ、上司の成果が上がるように貢献すれば、転職先で昇進していく可能性は高まるでしょう。あまり上司や組織に期待し過ぎず、自分がやるべきことをやるという意識がベンチャー・スタートアップ転職を成功させるマインドなんです。

他にも、ベンチャー・スタートアップに転職する際に注意すべき点はこちらの記事にまとめました。

多くの転職者を見てきた高野さんだから言える、リアリティのあるアドバイスだと感じました。ベンチャー・スタートアップ企業への転職に不安を感じている方は、アドバイスを活かして一歩踏み出していただきたいですね。

そうですね。一度転職に失敗したからといって、キャリアが終了するわけではありません。

大手からベンチャー・スタートアップ企業に転職して、他の大手企業に転職する人もいます。一度安定した環境から踏み出した行動力が評価される場合があるからです。つまり、選択肢は常にあるんです。

だからこそ、転職をしている時期以外もキャリアについて考えることが大切だと、最後に強調しておきたいと思います。転職活動期間よりも、その他の過ごし方のほうが、キャリアに影響を与えるのは言うまでもありません。

日頃から企業や組織を見る目を育て、自分のスキルを磨き、自己の客観性をあげることで、どんなタイミングでも、満足いく転職がしやすくなります。直近で転職を考えているという方も、将来的に考えているという方も、記事を読み終わったらすぐ、準備を始めてみてはいかがでしょうか。

[取材] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之
2022/08/02

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