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リモートワークが浸透した現在、オンライン会議におけるファシリテーションに難しさを感じているビジネスパーソン、特にマネジャー層が増えているようです。
画面越しでは相手の感情や状況を把握しづらいうえに、カメラオフの人や初対面の人が参加する会議も珍しくなく、ファシリテーター側の負荷が大きくなっています。
そこで、ひろゆき氏や大物政治家など、個性豊かなゲストが多数出演する人気の報道番組『ABEMA Prime(以下、アベプラ)』で司会として辣腕を振るい、話題のビジネス書『超ファシリテーション力』の著者である平石直之さんに、オンラインに特化したファシリテーションの極意を伺いました。
リモートワーク時代におけるファシリテーションの重要性。そして、オンライン会議でよくある「お困りシチュエーション」の具体的な解決策についても語っていただきました。
分断の時代だからこそ、「ファン」を増やす場づくりを
リモートワークが一般的になるにつれて、オンライン会議のファシリテーションに注目が集まっています。平石さんはそうした時代の変化を、どのように捉えていますか?
まず、そもそもパンデミックが世の中にもたらした変化は2つあります。
1つは、コミュニケーションの機会が減ったこと。それに伴って、人が集まることの価値が高まりました。機会が少ないからこそ、1回の場の効果を最大化させたり、お互いの関係性をより深めたりする役割が求められるようになっています。
もう1つの変化は、社会の分断が加速していること。SNSなどオンラインコミュニケーションでは、無意識のうちに、自分と同じ考え方の人と接する頻度が増えます。つまり、分かり合えない価値観の人と接する機会が減る。これは社会全体においても、会社内においても同じです。
この分断を解消するためには、考えの違う人たちが「ここまでなら共感できる」という点を探ることが必要です。そうした背景があって、ファシリテーションの重要性が高まっていると考えています。
ファシリテーションは会議のみならず、社会にも必要とされている、と。平石さんは著書で「3つの極意」を紹介されていますね。
ファシリテーションの役割は、ひとことで言えば「場を円滑に回すこと」です。会議を淡々と進めていく「進行役」とは違って、その会議の成果を最大化することが「ファシリテーター」に求められています。
そのための極意を、私は3つにまとめました。
1つ目は「準備力」。なにごとも準備が9割と言われるように、自信を持ってファシリテーションをするために欠かせないものです。準備には「人の準備」と「テーマの準備」があります。
人の準備とは、場の参加者を事前に下調べすることです。SNSや著書を読み、プロフィールやテーマに対する主張を認識することはもちろん、人間性や話す際の雰囲気も掴んでおくと良いでしょう。特に大事なのは、新しく参加する人への配慮です。その人が言いたいことをしっかりと言えるように、寄り添う姿勢を意識しています。
テーマの準備とは、テーマにまつわるさまざまな論点や階層、最新動向を把握し、この場で話すべきことの優先事項を整理することです。議論が始まったら、なるべく早く深いところに参加者を連れていくことが大事。
「このテーマに関しては◯◯ということまで分かっています。今日はみなさんで◯◯の点について話していきましょう」と話を振ることで、会議の滑り出しが良くなります。
前提や議論の方向性を提示するんですね。
おっしゃる通りです。しかし、会議が始まったら準備したものを一旦捨てます。事前に調べた内容をなぞるような会議をしても意味がないからです。
そこで大事なのが、2つ目の極意「聞く力」。
準備で得られることを超える、より深い考えを場に出し、議論の新しい展開を生み出すためには、参加者の本音を聞き出すことが不可欠です。ファシリテーターが意識的に話を聞くのはもちろん、時には、「◯◯さんのご意見は後で伺います。まず、△△さんのお話を聞きましょう」と、発言者の話を遮ろうとする人を抑えることもします。
部下と上司という関係性が存在するビジネスシーンにおいては、特に、部下側がきちんと本音で話せるような聞き方をするのが重要でしょう。
もちろん議論が広がりすぎた場合は整理が必要です。しかし、準備した内容に固執した会議をしていては、人と人との化学反応は生まれません。それでは集まっている意味すらなくなってしまいます。
人と人との化学反応を起こすには、なにが必要でしょうか。
極意の3つ目にあげた、「場を作る力」。参加しやすく、つい話してしまう雰囲気作りが大事です。
「意見が違えども、お互い人としてリスペクトしましょう」と前提を共有したり、序盤から否定的な意見が出過ぎないように立ち回ったり、誰か1人が長く話しすぎていたら、相槌をうまく使って話を引き取ったりします。
この場を作る力は、目の前の会議の効果を最大化するだけではなく、中長期的に見ても必要です。
というのも、一度の会議で結論が出ない場合は、同じメンバーで複数回話すことになるでしょう。その時に、前の会議の雰囲気が悪かったり、関係性が深まるどころか分断が深まったりすると、二度と参加したくないと思う人が出てきてもおかしくありません。会議を「点ではなく線」として捉えて運営することが重要なんです。
私が司会をしている『アベプラ』でも同じことを意識しています。出演者や視聴者に、もう一度この場に参加したい(視聴したい)と思ってもらう。つまり、ファンが増えていくような場を作ることが、ファシリテーターには求められているんです。
オンライン会議の鍵は「双方向コミュニケーション」
「ファンを増やす」という観点でファシリテーションを捉えると、工夫できることがたくさんありそうです。そのうえで、特にオンライン会議で意識すべきことを教えてください。
オンライン会議のファシリテーションは、対面と比べて難度が高い。なぜなら、場を作る上で重要な、参加者の表情、呼吸、間合いを受け取りづらいからです。
また、参加者が「気が散りやすい状況にいる」ことも原因の1つでしょう。2時間ほどのオンライン勉強会に参加した際、私も手元のスマホが気になったり、少しでも気を抜いたら話に追いつけなくなったりしました。オンライン会議では、参加者の「参加意識」を維持し続けることが、特に重要だと思います。
「参加意識」を維持するためにできる工夫はありますか?
10人くらいまでの会議なら、「今日は必ず、みなさんからのご意見を伺います」と冒頭で共有します。発言する機会があると思えば、人は前のめりに参加してくれるものです。事前に共有するのは、「不意打ち」をしないため。いきなりミュートを解除することを求めたりすれば、それこそ嫌な思いをさせてしまいますから。
また、対面の時よりも「意識的に発言を拾う」ことも大事です。「すばらしい質問をありがとうございます!◯◯さん、今の意見はどうでしょうか」と話を展開させていくことで、議論は盛り上がります。さらに、質問者も肯定された気持ちになって、どんどん会議にのめり込んでくれる。
あとは、「1人の話が長くなりすぎないようにすること」も効果的です。たとえば、プレゼンをインタビュー形式にすることや、資料を事前共有して説明の時間を省くなどの工夫ができます。参加意識を維持するためには、なるべく早く人を巻き込み、「双方向のコミュニケーション」を作ることが大事です。
お困りシチュエーションを解決する「ファシリ術」4選
では、ここから応用編として、オンライン会議によくある「困ったシチュエーション」を4つご紹介します。平石さんならどう対応されるのか教えてください。
①『初対面の人たちとのオンライン会議』
私がファシリテーターなら、会議の冒頭に30秒程度の自己紹介タイムを設けます。当たり前のように聞こえますが、その「自己紹介の聞き方」がポイントなんです。
大切なのは、内容だけではありません。話すスピード、発言の具体性、積極的に発言するタイプかどうかなど、参加者の雰囲気を掴むこと。「人となり」を把握しながら、議論をどう展開していくかをイメージします。
たとえば、積極的に発言してくれそうな人に話を振ってから、あまり主張しないタイプの人に感想を聞こう、など。誰にどういう順番で聞けば、発言者が気持ちよく話せて、議論が深まるのかを見極めるんです。会議の参加者意識を高める意味でも、序盤に全員が発言することは非常に有効だと思います。
②『カメラオフやアバター設定で、顔の見えない参加者がいる』
もちろん会議の性質や目的にもよりますが、私がファシリテーターなら、顔出しを強制するのではなく、どんな参加の仕方もその人の個性だと受け止めて会議を進めるでしょう。「カメラオフでも、アバター参加でも構いません」と発言して、他の参加者にも受け入れてもらうようにします。
ファシリテーターは極めて「受け身」な仕事です。その場にある素材をそのまま活かすイメージを持つといいと思います。
③『接続不良や音声遅延で、参加者の1人が離脱してしまった』
この状況は、海外からの出演者もいる番組ではよく起こりますね。うまく対応するには、「ファシリテーションと運営を分ける」必要があります。
接続が途切れたら「運営役」が再接続のフォローをして、ファシリテーターは参加メンバーとの議論に集中する。離脱者が戻ってきたら、いなかった時の議論を共有したり、意見を求めたりなど、速やかに場に戻してあげるんです。
運営とファシリテーターを一緒にやるのは難しいので、事前に役割分担を決めておくといいでしょう。
④『立て続けにオンライン会議があり、メリハリがつきにくい』
会議終わりの5〜10分で、「議論の進捗を再確認する時間」を作ります。
その際大切なのは、ファシリテーター1人でまとめようとしないこと。「残り◯◯分です。ここまでの議論で分かったこと、今後やっていくべきことを1人ずつ順番に聞かせてください」と話を振りましょう。すると、参加者たちも自分の考えをまとめようとしますし、全員が共通認識を持つこともできます。
意思決定ができなかった会議でも、次に何を議論すべきかが明確になり、全員すっきりとした気持ちで次の予定に向かうことができます。終わりを意識することで、連続する会議の中にもメリハリが出ます。
議論に取り残された経験が、ファシリテーションの武器になる
具体的にお答えいただき、勉強になりました。ファシリテーションの極意をさまざまな角度から伺ってきましたが、そもそも、ファシリテーターに向き不向きはあるのでしょうか?
向き不向きを語る前に、それぞれの人に得意なファシリテーションの形があることを理解してもらいたいです。ファシリテーターは、サッカーでいう「ボランチ」にあたります。攻めが得意なボランチもいれば、守りが得意な人もいる。
会議の目的や集まった人によって最適なファシリテーターは変わると思います。そういう意味で、誰をファシリテーターにするかを考えるところから、会議の設計、そして、組織作りは始まっているんです。
誰もがファシリテーターになれるという前提を踏まえて、あえて素質をあげるとすれば、それは「議論に取り残される人の気持ちが分かる」ことです。
一見ファシリテーターに向いているのは、プライベートでもいつも集団の中心にいて、話を回すのがうまい人と思われがち。でも私は、そうとは限らないと思っています。会話に取り残された経験がある人こそ、参加者たちの表情など機微を汲み取り、参加したいと思える場づくりができるんじゃないでしょうか。
「話を回すのが苦手」と思っている人の方がファシリテーションがうまい可能性もある、と。勇気が湧きますね。最後に、ファシリテーション力を鍛えるために、日頃からできるトレーニングを教えてください。
自分が参加している会議をよく観察することから始めてみてください。その会議があまり盛り上がっていないとしたら、その原因が準備力にあるのか、聞く力にあるのか、はたまた場を作る力なのか客観的に分析します。
逆に、円滑に進んでいる会議があれば、誰かが良いファシリテーションをしているはずなので、仕草や発言を真似てみるといいでしょう。その繰り返しで、徐々にコツをつかめるはずです。
最後に、ファシリテーターはとても勉強になる役割だと思っています。
なぜなら、準備の段階で組織の情報を整理し、参加メンバーのことを理解しようと努めるので、会社へのコミットが自然と深くなるからです。しかも、その経験で得たスキルは別の場面でも活かせます。
私は、いろんな方がファシリテーターに挑戦できたらいいと思うんです。今回話したことが、微力ながら、そうした方々の助けになることを願っています。
テレビ朝日アナウンサー/『ABEMA Prime』進行 平石直之
1974年、大阪府松原市生まれ。佐賀県鹿島市育ち。早稲田大学政治経済学部を卒業後、テレビ朝日に入社。報道・情報番組を中心に『地球まるごとTV』『やじうまテレビ!』などで司会を務め、『ニュースステーション』『スーパーJチャンネル』『サンデー・フロントライン』『報道ステーション』などでは、キャスターおよびフィールドリポーターとして全国各地を飛び回る。2019年から新しい未来のテレビABEMAの報道番組『ABEMA Prime』の進行を担当。“論破王"と呼ばれるひろゆき氏との軽快なかけあいや、ジャーナリスト・佐々木俊尚氏との熱い議論など、アナウンサーという枠を超え、ファシリテーターとしての役割を存分に発揮。個性が強い出演者たちを巧みにまとめ上げる、“アベプラの猛獣使い"として番組を大いに盛り立てている。Twitterアカウント @naohiraishi
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