『伝え方が9割』佐々木圭一さんに聞く「部下の自発性を引き出す伝え方」とは?

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多くの上司・マネジャーが悩むのが、部下とのコミュニケーション。自分が若手だったころは、上司から「やれ」と言われればやるもの。反論しても「しのごの言わずに結果を出せ」。しかし、今の時代にそのやり方を踏襲すれば、パワハラと言われかねません。

かと言って、部下に優しく接して仕事が前に進まず、チームのパフォーマンスが低下してしまっては本末転倒。「何を考えているのか分からない」部下たちを上司・マネジャーが理解し、自発的な行動を促すためにはどう「伝えれば」よいのでしょうかーー。

今回は、著書『伝え方が9割』シリーズが累計100万部を超えるベストセラーとなり、「伝え方」を伝えることがライフワークというコピーライターの佐々木圭一さんに、上司やマネジャーが身につけるべき「伝え方のレシピ」についてお話を伺いました。

コピーライター/株式会社ウゴカス 代表取締役 佐々木圭一

PROFILE

コピーライター/株式会社ウゴカス 代表取締役 佐々木圭一
佐々木圭一
コピーライター/株式会社ウゴカス 代表取締役
上智大学大学院を卒業後、1997年博報堂に入社。もともと伝えることが得意ではなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され苦しむ。ストレスから1年間で体重が15%増、アゴもなくなる。あるとき、伝え方には技術があることを発見。そこから伝え方だけでなく、人生ががらりと変わる。日本人初、米国の広告賞「One Show Design」でゴールドを獲得するなど受賞歴多数。2014年クリエイティブブティック「株式会社ウゴカス」を設立。日本のコミュニケーション能力をベースアップさせることをライフワークとしている

伝える前に・・・コミュニケーションにおいて「最も大切なこと」

ー日ごろビジネスパーソンと接する中で、「伝える」についてどのような課題感を持った方が多いでしょうか。

「いい製品、いいサービスを作っているはずなのに、うまく伝えられていない」と考えている方ですね。

成熟した市場では差別化が難しく、情報を発信してもすぐに埋もれてしまう。受け手のことを考えず、企業の言いたいことだけを言って終わってしまっている広告は数多くあります。

けれども、独りよがりになってしまえば、お客さまに手に取ってもらい、買ってもらうという本来の目的を果たすことはできません。

そのような「独りよがり」は、会社の中、つまり上司と部下の関係についても同じように起こっているようです。

『伝え方が9割』

以前なら上司が手本となって、「背中で語る」みたいなことがよくありましたけど、今は「若手がちっとも学んでくれない」と苦言を呈す人が多いですね。

けれどもコミュニケーションの方法は時代によって変わるもの。上司が若手のころは「背中から学ぶ、盗む」方法が成立したかもしれないけど、今はこれだけ情報があふれている。

分かりやすさや効率性が求められる中で、いちいち「上司の一挙手一投足を見て学べ」というのは、時代背景も可処分時間も違いますから無理な話です。

若者とベテランのルールが違うのなら、若者のルールのほうに合わせるべきでしょう。「伝わらない、最近の若者は…」とぼやいても、状況は変わりませんから。

コミュニケーションにおいて最も大切なのは、「相手が何を考えているか、何を望んでいるかを想像すること」です。

そのために必要なのは、相手を深く理解すること。当たり前のことのようですが、本当の意味でそれをできている人は多くありません。

しかしこれは、生まれつき身についている人だけができることではなく、誰にでも「トレーニング」できることなんです。

誰でも伝えられるようになる「伝え方のレシピ」

ー客観的に相手を理解するためのトレーニングとはどのようなものでしょうか。

「相手になりきってみる」ということです。

コピーライター/株式会社ウゴカス 代表取締役 佐々木圭一

例えば、好きな女性がいると仮定して、その人を食事に誘いたいのなら、快く「いいですよ」と言ってもらえるような誘い方を考えてみる。

その人との会話の中で、「新しいものが好き」「イタリアンが好き」という属性が見えてきたら、普通に「一緒に食事しませんか」より、「驚くほどうまいパスタを出すお店があるんだけど、今度行きませんか」のほうが、相手にとって魅力的な誘い文句になるでしょう。

こういったトレーニングは、広告業界の人だけでなく、おそらく優秀な経営者やビジネスパーソンはみなさんやっていることだと思います。

ー相手にとって、メリットのあることを考え抜くクセをつけるのですね。

相手が快く了承してくれるためには、漠然と相手のことを考えるだけでは足りません。

  • まずは、自分の「頭の中をそのままコトバにしない」こと
  • 次に、「相手の頭の中を想像する」こと
  • そして、「相手のメリットと一致するお願いをつくる」こと

この3ステップ・・・「伝え方のレシピ」に基づいて、相手に伝えるようにすれば、相手の行動は変わってきます。私自身も、最近こんなことがあったんです。

アマゾンで紅茶を購入しました。他と比べてレビュー評価も高かったし、リーズナブル。けれども実際、商品が届いてみると、ティーパックが個包装になっておらず、100個まとめてケースに入っていたんです。

湿気てしまうだろうし、「失敗したなぁ」と感じたのですが、パッケージをよく見てみると「個包装をやめたぶん、良い茶葉を使いました」と書かれていました。

その言葉を読んだ途端、「これは『失敗した』と感じるであろう、自分みたいな人のことを思って書かれたメッセージだ」と気づいたんです。

コピーライター/株式会社ウゴカス 代表取締役 佐々木圭一

「確かに、いちいち包装を開けるのも面倒だし、良い茶葉ならお得だな」と、それで定期購入することにしました。

「もう買わない」という気持ちを「また買おう」とまで思わせる。こういうことは世の中でもたくさん起こっていることでしょう。誰でも伝え方のレシピさえ知っていれば、できるようになることなんです。

スティーブ・ジョブズも「伝える練習」をしていた

ー社内のコミュニケーションに置き換えた場合、どのように部下の気持ちを理解し、コミュニケーションを取っていけばいいのでしょうか。

いくつか、伝え方のポイントはあります。例えば、「認められたい欲」というのは、誰しもが持っているものですね。

「〇〇の企画書、作っておいて」ではなく、「〇〇さんが作った企画書、よくお客さまに刺さるんだよね。また頼んでいい?」というのでは、部下のモチベーションが変わってきます。同じように、「期待してるよ」というのも短いワードですが即効性がある伝え方です。

「あなた限定」という伝え方もあります。「この仕事は難しいけれど、〇〇さんにしかできない。〇〇さんにやってほしいんだ」というものですね。

伝える場も、昔なら「飲みニケーション」だったかもしれないけど、仕事終わりに「じゃあ、飲みに行こうか」というのは、「え、これって実質、仕事じゃないんですか?」と思われるような時代。

となると、ランチのほうがある程度時間も決まっているし、タイミング的にはいい、だとか。

コピーライター/株式会社ウゴカス 代表取締役 佐々木圭一

私も部下とランチへ行くことがありますけど、仕事の話だけではなく、「最近何に興味があるのか」など、何気ない会話を大切にしています。

このように、ただ仕事を指示するだけではなく、相手の気持ちを考えて少し言葉を変えてみること。それだけで、相手は動きたくなりますし、仕事のクオリティも少しだけ上がる。それを実感してほしいんです。

ーそれまで叱咤激励したり、理詰めにしたりするマネジメントスタイルでやってきた人にとっては、照れくさい言いまわしかもしれませんね。

「なんだか照れくさくて、借りてきた言葉のようになってしまう」と感じてしまううちは、それは「練習不足」。

けれども、実際、伝え方に長けている人は相手のことを想像できる人なんですよ。そしてコミュニケーション能力の高い人の多くは、仕事もできる人です。相手を動かす力がある、ということですからね。

あのスティーブ・ジョブズだって、見事なプレゼンテーションの達人だと思われていますが、実際はプレゼンのために何時間も何日も時間を費やして、「この話をするときはこういう手のポーズをしよう」とか、練習していたそうです。

私も『伝え方が9割』という本を出して、伝え方が上手だと思われていますけど、テレビに出る前には、同じセリフを20回くらい練習しています。それでも噛んだり、緊張して失敗することはありますけどね(笑)

上司やマネジャーとして、相手を知ろうと努力すること。そして伝えようと努力することは、最低限必要な努力ではないでしょうか。部下に伝える前に口ずさんでみるだけでも違います。

「伝え方はセンスだから、しょうがない」と諦めるのではなく、「努力して、技術としてトレーニングすれば、誰でもできるものなんだ」と知ってほしいですね。

ー最後に、「伝え方が9割」だとすれば、「残りの1割」は何でしょうか?

残りの1割は、「愛情」です。相手のことを、愛情を持って考える。それによって、「それでもなぜか伝わらない」壁を突破できることもあると思うのです。

コピーライター/株式会社ウゴカス 代表取締役 佐々木圭一

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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