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フォロワー数約6万人、再生回数100万超のヒットも出している、「おじさんTikTok」が話題になっています。
兵庫県明石市を拠点とする金属部品加工の「三陽工業」が広報の一環として始めた試みで、平均年齢57歳の男性社員4人が日々動画を投稿。全国的な会社の知名度向上にもつながり、今や採用に応募してくる若者の7割が動画を試聴しているといいます。
このTikTokの仕掛け人となったのが、今年58歳の取締役・人材戦略部長の小杉義明さん。TikTokを始めるに至ったきっかけや、いくつになっても日々新しいことにチャレンジし続けるために必要なマインドセットについて、お話を伺います。
昭和世代が「テレビを見ない世代」の世界へ
「三陽工業」はどのような会社ですか?
今年で43年目。金属部品の研磨や塗装を主に行っているほか、モノづくりの会社に人を派遣するサービスも提供しています。
設立当初はほぼ単一の顧客との取引で成り立っていて、「町のモノづくり屋さん」といった規模だったんですね。それが「リーマンショック」でストレートに打撃を受けたので、もっと幅広く他の企業や業種にもお付き合いを広げていったという経緯があります。
広報という部署も、私たちのような製造業、製造派遣業が構えているケースはすごく少ないと思うんですが、2016年に立ち上げました。そのころから会社が右肩上がりに急成長したんですね。三陽工業の進取の精神が、業績により強く反映された時期なんだろうと思います。
大雑把にいうと、そのころから人員も売上規模も5~6倍以上に増えています。
リーマンショックを経て、新たな取り組みへの機運が高まったのですね。
はい。会社のキャッチフレーズは「日本の製造現場を元気にする」。そのために、会社では「やったことがないことをやってみよう」というのが合言葉になっています。
今の時代は不確実で変動性の高い「VUCA」の時代。こうした中で会社が元気になっていくには、やはりチャレンジ、積極的にやったことのないことにどんどん取り組んでいくこと自体が不可欠なんだろうと思っています。
そんな思いから「TikTok」も始めてみようと。
「今、若い人はどういうものを見ているんだろう」と、1年ぐらい前からTikTokを見たりしていたんですが、もっともっと踏み込んでみようと、ムクムクと気持ちが盛り上がってきたんです。
私は今年58歳で、本当に昭和世代の人間なんですね。そんな私からすると、今の世代、特に「Z世代」がテレビを見ないというのが、感覚的に理解できなかった。
テレビが話題の中心だった私たちの感覚とは違うんだろう、やはり少しでも彼らと接点を持たないと「始まらないんじゃないか」と思ってですね。理解できるとかできないとか論じる前に、飛び込んでいくしかないのかな、というところでしょうか。
社長に「ちょっとTikTokをやってみたいんだけど」というような話をしたところ、社長も大乗り気で「じゃあやろうじゃない」って。
1カ月以内に再生100万回超、採用の問い合わせも
「おじさんTikTok」は2021年2月から毎日更新。メンバー選定や毎回の企画・制作はどのように行われていますか?
メンバーは私のほかに、72歳の顧問・森本憲二さんと44歳の管理課課長・西広誠さん。最近は監査役の徳岡英樹さん(56歳)も加わっています。広報がメンバーを選んで、声をかけました。森本さんは社内の野球部にも所属していて、私より体力ありますんで(笑)。
どういうものが当たるのかは分からないので、とにかく流行っているものとか、「おすすめ」に載っているものとかをやってみよう、というスタートでしたね。
基本的に毎回、広報の若い人がネタ出しをして、朝会でそれを共有してもらって決めています。
始めた当初は「これ、面白いのかなあ?」と半信半疑ではあったんですよ。そんな中でも社内の人たちは結構温かく、「よく見てます」「面白いです」なんて言ってくれて。それはまだ閲覧数が少ない入口の段階で、励みになった部分ですね。そのときは「とにかくまあ続けよう」と、淡々と思っていました。
最初に手ごたえを感じた瞬間は?
本当にこれはたまたまなんでしょうけど、始めてからちょうど1カ月ぐらいで、100万回再生を超えたものが突然出たんですよ。
それまでは1000~2000回の再生が多くて、やっとその1週間ぐらい前に1万ビューを超えたばかり。まだまだ「いつかそうなれば……」なんて思っていたときだったので、本当にびっくりしましたね。
100万回再生は嬉しいですね。そのスマッシュヒットの企画はどのように生まれたのでしょうか?
これは広報の発案です。「小杉さん、黙ってこれをこう持ってください」……そんな感じで、クリームの入った皿を持たされました。明らかに何か引っ掛けられるんだろうけど、「これは何?」と聞いても「それは秘密です」って言われて。
最後に「バン!」と顔にクリームがついて、「世界が真っ白だ!」というセリフを言っているんですけど、それが的確に短く現状を表しているところがウケたんじゃないかと。
当時はおじさんがTikTokをやっているのは珍しかったし、若手社員が上司にドッキリを仕掛けるというのも面白かったんでしょうね。
440万回再生でトップの「壁にもたれかかるチャレンジ」
そんなヒット動画が出た後、御社に対する反響はありましたか?
その100万回再生があった直後ぐらいだったと思うんですけど、学生さんから「新卒採用は行ってますか?」という質問が来たんですね。
それに対して、私が動画上で回答させてもらったんですよ。そうしたら、またそれに対して反応があって、そういったやりとりが実際に採用につながりました。
当初「ゆくゆくはそんなことになれば面白いねえ」なんて思っていたことが、TikTokを始めて1カ月経たないうちに実現した形です。これまで一方通行だったところが、初めてオンラインでつながって会話して……ある意味、大きな1歩だったと思っていますね。
TikTokは若い人にとって就活のツールにもなっているんですね。
これは明らかに1つのチャンネルなんだろうと、実体験から認識しましたね。彼らにとっては「楽しむチャンネル」と「就活のチャンネル」は別じゃない、という印象を持ちました。
TikTokでは社員の顔が見えて、会社の雰囲気もなんとなく分かって、もしかしたら心理的安全性にもつながっているところがあるんじゃないか、と感じています。
実際、製造業派遣で日々エントリーしてくる中で、7割以上の若者が面接の際に「TikTok見てます」と言ってくれてますし、大卒の新卒採用では、TikTok経由でエントリーして内定した人が2人います。
年を重ねるごとにチャレンジは加速する
小杉さんはもともと、周りの人と比べて新しいものをすぐに試す「アーリーアダプター」なのでしょうか?
いえ、そういう意識は全く持っていないですね。「Facebook」も「Instagram」も「Twitter」も「YouTube」も全部10年ぐらい前からアカウントは持っていて、普通に閲覧していましたが、周りと比べて私が早かったということはないです。
ただ、私は人材戦略部で育成研修なども行っていて、若い世代と接することが多かったりするもんですから、日々刺激を受けているところはあるかもしれません。「小杉さん、これ面白いよ」「へえ、それが流行っているんだ」みたいなね。
それでも、そこから実際にTikTokをダウンロードして始めてみる、というのはなかなかできないことですよね。
「常に同じ位置にとどまっていてはいけない」というのはずっと思っていて、新しいことに躊躇なく踏み込んでいこうというマインドセットは、年を重ねるごとに強くなっているような気がします。
実は去年、中型のオートバイの免許も取ったんですよ。バイク動画も撮っていただいたりしたんですけど。
結局、なにか答えを求めて打算的にやるっていうことも、ときには当然必要なんですけれども、打算なしで「やってみたい」と思えるマインドを持っていることが結果的には近道になることもあるんだと、思っているところはあります。
普通は年を重ねるごとにチャレンジするのを億劫に感じると思うのですが、むしろ逆に強くなっているんですか?
年を重ねると身体が動きにくくなってくるし、とどまりたくなってしまうので、逆に自分の中で危機感が高まっている気がします。TikTokの楽しさと「危機感」って合わないかもしれないですが、私の根底にはそういうものも原動力としてあったりします。
それは、これまで社会人として30数年生きてきた中で得た感覚なんです。
営業などで結果が良かった後って、翌月も同じことをしようとするんですね。同じことをすればいい結果が出るだろうと。でも、同じ結果を続けようとしたら、なにかプラスアルファを持っていかないとダメだというのは、経験上、確信的に思っていることです。
TikTokについても今、ここからどんなチャレンジができるか、日夜、私のローカルな、オールドな頭で考えています。
TikTokでは目標はありますか?
フォロワー数は今5万8,000人ぐらいなので、10万人というのを1つの目標にしています。
あとは、広報が中心になって企画していますが、これまでは建物内での撮影がメインだったので、外に出て「外ロケ」をして、ほかのTikTokerさんとのコラボも考えています。
それには費用がかかったりもするので、広報でもなにかしら売り上げを作っていくために、最近、動画の販売サイトで、TikTokの加工前の元素材を販売したりもしています。
TikTok動画のマネタイズも行っているとはすごいですね。では最後に、新しいチャレンジに億劫になっている30代、40代の人たちにひと言。
言ってみると、私の世代でも「新人類」とかって呼ばれていたんですよね。それからは「ゆとり世代」とかって……それぞれの時代で「Y」だ、「Z」だっていろんな世代をカテゴライズしているわけですけど、そんなのは誰かが勝手に付けたものです。
「普通」という言葉も、「『普通』ってなんなの?」って。当たり前を当たり前と思わない、普通を普通と思わないで、自分自身の「特別」を探せるマインドがあれば、どんな世代ともつながっていけるんじゃないでしょうか。私自身、そんな気持ちを持ち続けたい、と思っています。
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