大人気ビジネスコラボツール「Notion」はなぜ広がった? 新しい”成長戦略”のアプローチ、ゼネラルマネージャー日本担当・西勝清さんに聞く

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アメリカ・サンフランシスコ発のビジネスコラボレーションツール「Notion」が、急速な勢いでグローバル市場に広がっています。

ドキュメント、メモ、プロジェクト管理など、これまでいろいろなツールで分散していたタブを1カ所に集めた「オールインワン・ワークスペース」で、独自に仕様をカスタマイズすることも可能。

その利便性から、2016年にリリースされて以来、全世界で幅広い人びとの支持を集め、2021年10月時点でユーザー数は2000万人を超えています。また、同社は日本を「最も重要な国の1つ」と捉えており、日本でもユーザーは増加中。

すでに便利なツールが豊富に存在する世の中で、Notionのユーザーが急増する背景にはどのような仕掛けがあるのでしょうか? 同社の日本人社員第1号で、日本市場の開拓に携わる西勝清さんに「新しい時代の成長戦略」のヒントを伺いました。

「Notion」
「Notion」

世界2000万人が使う「Notion」とは?

最近は身のまわりでもNotionを使う人が増えてきました。ユーザー数が急ピッチで拡大していますね。

2020年初頭のユーザー数はグローバルで400万人でしたが、2021年1月で1000万人それから10カ月後には2000万人に拡大しました。

デイリー・アクティブ・ユーザー(DAU)も、2020年8月から2021年8月までの1年間で4倍に増加。日本市場にかぎっても同様の伸びを示していますね。

最初にプロダクトマネジャー、エンジニア、デザイナーといった人たちの間で広がっていって、彼らが会社やチームに持ち込む形で、ユーザー層が他の職種にも拡大しました。

どんなところがユーザーに受けているのでしょうか?

ユーザーからのフィードバックで一番よく聞くのは、自分たちがやりたいようにカスタマイズして使うことができる点ですね。

既存の多くのツールのように「こういうふうに使ってください」と決まっているのではなく、ブロックをレゴのように組み立て、自分がやりたいことを実現するために、使いやすいツールを作っていくことで生産性を高められるのが、Notionの特徴です。

これは「Making software toolmaking ubiquitous」、つまり「誰もが思い描いたソフトウェアを自由自在に組み立てることができれば、世界はより多くを実現できる」というNotionのミッションに基づいています。

例えば、どんなシーンで利用されているのでしょうか?

大手企業では、例えば「サントリー食品インターナショナル」とデザイン会社の「グッドパッチ」は、法人向けヘルスケアサービス「SUNTORY+」の開発プロジェクトのために両社合同でNotionを使っていて、誰がなにを決めたかという議事録の管理や、今誰がなにをやっているかというタスク管理などの機能を共有しています。

スタートアップの事例では、ソフトウェア開発の「LayerX」で、入社したばかりの社員が社内ツールや社内ルールを学べる社内ポータルサイトをNotionで作成しているほか、会社説明会の動画やポッドキャスト音声などを詰め込んだ「LayerX EntranceBook」で、新たな人材を集めるためのツールにもしています。


個人ユーザーの間では、「家の引っ越しプロジェクト」みたいなのを最近よく見かけますね。「大変だった引っ越しもNotionでタスク管理したら完璧だった」とか、みなさん満足度が高そうでした。

日本市場に本腰、創業者も実は日本ファン

西さんは2020年9月に入社されて、現在は日本代表としてご活躍されていますが、Notionの中で日本市場の位置づけは?

日本はNotionの中でも明確に「最も重要な国の1つ」と位置づけられています。

理由は3点あって、1つはユーザーが多くて、すでに強いユーザーコミュニティがあるという点。

2つ目は、日本におけるエンタープライズ市場の規模ですね。Notionはドキュメント、メモ、プロジェクト管理などを一カ所にまとめたチーム内のコラボレーションツールなので、大企業の数が多くて、スタートアップもどんどん活況になっている日本は、市場として魅力的です。

最後は、共同創業者のアイバン・ザオとサイモン・ラストが非常に日本に愛着を持っていること。この2人に限らず、Notionの社員にはかなり日本好きが多くて、会社で旅行に行こうという話になると、日本は常にトップランクに挙がっているんですよ(笑)。

Notionの思想やサービスをつくるプロセスの中にも、日本的なものを感じることがありますか?

サービスやデザインに「どことなく日本を感じる」と、ユーザーさんからも言われるんです。

実は、創業者の2人はNotionの開発中に京都に移り住んだ経験があるんですが、そのときに日本で受けたサービスのクオリティに非常にいい印象を持っていて。

そういうホスピタリティの精神をNotionのサービスに反映させたいと言ってますし、デザイン面でも日本の職人気質みたいなところからインスピレーションを得ています。

日本拠点を作られるにあたっての課題はどこにあったのでしょうか?

私が入社する前、2020年5月ぐらいから日本のスタートアップのみなさんがNotionを使い始めていて、NotionのCOOであるアクシェイ・コターリが「Notion Tokyo」という日本のユーザー同士が情報交換を行うミートアップイベントに参加したりしていました。

それでも、当時は日本にはフルタイムの社員がいなかったし、やっぱり言語の違いから、日本のユーザーさんがNotionを使ってどう感じているのかを理解したり、「もう少しこうだったらいいのに」という要望を聞いたりするのに限界があったんですね。

そこで、西さんが日本のコミュニティからフィードバックを集められたと。

Notion Tokyo
「Notion Tokyo」

そうですね。私が入社してから、まずは日本のいろんなユーザーさんに私のほうから連絡して、意見を集めて、それを本社に共有していきました。

「ユーザーインタビューをさせてください」と言うと、みなさん喜んでいろいろ話してくださって。「私はこうやって使っている」と。

それは私にとっても初めての経験で、ユーザーさんが喜んで「見てください!」という製品があるなんてすごく面白いな、と思いました。

「コミュニティとともに成長する」という発想

既存のツールがいろいろある中で、ここまでユーザー数が伸びている背景には、どんな成長戦略があったのでしょうか?

「コミュニティ」というのは間違いなくNotionのキーワードになっています。

Notionはさまざまなユーザーコミュニティの人たちからフィードバックをいただいて、それに基づいてアイデアと解決策を考えて、必要なことを実践していくことを徹底しています。

そういう関係が土台になっているからか、コミュニティに所属しているユーザーさんたちがNotionとはなんなのか、どんなふうに使えるのか、以前と比べてどこがよくなったのかを、ソーシャルメディアなどでいろいろと発信してくださって。

このサイクルが、我々の成長の大きな要因であると考えています。

コミュニティからのフィードバックは、どのように組織の中でシェアされていますか?

まず、フィードバックをいただくために、「カスタマー・エクスペリエンス」というお問い合わせチャネルと、「Twitterアカウント」と、私のような営業職・カスタマーサクセス職が直接話を聞くという、3つの大きな入り口があります。

ここで得たフィードバックは、それぞれの入り口ごとに、その内容に応じてタグづけした上で社内のデータベースに登録するようになっていて、最終的に、タグごとのフィードバックが世界中で何件あるのかが可視化されるんです。

そのフィードバックに基づいて、製品開発時に各チームがやるべきことを決めていくという体制になっています。これは、Notionのユニークな点だと思います。

可視化されたフィードバックの一覧
可視化されたフィードバックの一覧

徹底して既存のユーザーの意見に耳を傾けているんですね。では、新規のユーザーを獲得するためのアプローチは?

ここでもやっぱりコミュニティが大切な役割を担っていて、「YouTube」などでみなさんが発信してくださっている「Notionの使い方」などを見た企業の方からお問い合わせいただくことがすごく多いんですね。

もちろんコミュニティ頼みというだけではなくて、例えば日本では、大企業がNotionと既存の導入しているシステムを連携させて使いたいケースなどがあるので、システムインテグレーターやITコンサルティング企業とのパートナーシップを強めていくというのもやっています。

なぜ、NotionのユーザーはそのようにNotionを他の人に広めるのでしょうか?

おそらく、自分が思ったことが実現できるという要素がすごく影響してるんじゃないかなと。

私自身も「こういうふうにできたらいいな」と思っていたことが実際にNotionを使ってできたら、誰かに見せたくなるんですよね(笑)。自分が困っていることが解決できたとき、それを共有したくなるのは自然なことだと思います。

それから、ユーザーの声を一生懸命聞いて、それを製品に反映するようにしている姿勢をご評価いただいているのかな、とも。

そうすると、まずは「コミュニティありき」となりますが、どうすれば最初の起点となるコミュニティを作れますか?

今よりもグッとユーザー数が少なかったころから、創業者も含めた早期のメンバーは、直接ユーザーさんと話すということに多くの時間を使っていました。

例えば、ソーシャルメディアで誰かがNotionについて話しているとき、積極的にフィードバックをもらいにいったり、自分たちが出張でシンガポールに行く機会があったときには、「今から行くので、現地にいる人お話しませんか?」みたいな感じで。

なので、製品だけ作って自然発生的にコミュニティができたというよりは、創業者レベルで積極的にフィードバックをもらう活動が奏功したという形です。

次なる一手は「ユーザー同士が関わり合う場作り」

コミュニティとともに成長するというのは、今の時代を反映した新しい成長のアプローチですね。

そうかもしれません。この流れを受けて、今後はユーザーさん同士が知見を共有し、関わり合う場を作っていければ、と考えています。

具体的には、Notionでは、自分が作ったソフトウェアをテンプレート化して、それを他の人に使ってもらうこともできるんです。例えば、「プロダクトマネジャー」職の人が仕事で使えるテンプレートが人気を呼んでいたり。

このように、ユーザーさん同士がテンプレートを共有する場を作り、それを促すことで、Notionというツールとその使い方がセットで広まっていき、日本企業の生産性が高まるといいなと思っているところです。

例えば、スタートアップが使っているテンプレートを大企業に持ち込むことで、いわゆるデジタルトランスフォーメーションに役立つこともあるでしょうし、その逆もあり得る。大企業同士とか、スタートアップ同士で共有してもいいですよね。

最終的には、日本の会社が作ったテンプレートや使い方が「Made in Japan」として世界中で使われて、それが世界中のナレッジワーカーの生産性の向上につながっていくといいなあ、という夢も持っています。

いいですね。いつか、「KAIZEN(カイゼン)」という考え方がトヨタ式の生産現場から世界に広がったように、日本発の仕事術が世界中に発信されると面白いですね。

そうなんです。Notionの使い方には、組織における情報共有のあるべき姿とか、使う人の思想が反映されていることが多いので、今までとは違う、新しい働き方が生まれる土台にもなり得ると思っていて……。

話は大きくなりがちなんですが、そういう世界観を目指しながら、一歩一歩やるべきことをやっているところです。

私自身の人生のミッションも「革新的なテクノロジーを日本に紹介することによって、日本の企業や社会の生産性を高め、グローバルな競争力を保っていくことに貢献する」というもの。まずは日本のNotionの立ち上げをしっかりやっていきたいと考えています。 

Notion ゼネラルマネジャー日本担当 西勝清
福岡出身、オランダ・エラスムス大学ロッテルダム経営大学院にてMBA取得。大学卒業後、シスコシステムズへ入社。セールス部門で多数の大手企業のグローバル展開プロジェクトに貢献後、社長室戦略チームにてアジア太平洋地域における事業企画や戦略策定を経験。2012年 LinkedIn Japanの立ち上げメンバーとして入社。人事向け法人営業部門を統括し、日本国内でのユーザー及び顧客層拡大に貢献。2019年WeWork Japanに入社し、営業シニアディレクターとして戦略と組織を構築。日本発の製品を開発し、事業拡大を牽引。2020年9月に日本1号社員としてNotionに入社。ゼネラルマネージャー日本担当として営業・マーケティング活動を始め、ビジネスオペレーション全般を担当。

[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子

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