世界最難関ミネルバ大学、社会人コースが日本上陸。仕掛け人が考える「2022年のリーダー像」とは?【前編】

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合格率2%未満、ハーバード大学を蹴っても入学したい人がいる世界最難関校「ミネルバ大学」。2014年秋から全オンライン授業で開校した同大学は、科学的に組み立てられた斬新な学習方法で、世界の注目を集めています。

2019年には最初の卒業生も輩出。近年は彼らの活躍も目覚ましく、ますます注目の度合いを高めています。本メディアでも以前、在学生を取材し反響を呼びました

この独自の学習方法から派生して生まれた社会人向けコースがこの春、日本に上陸。10週間で、単にスキルだけではなく、新しい思考習慣を徹底的に身に着けることで「自分をアップデート」できる内容になっているといいます。

同プログラムの講師を務める黒川公晴さんに、ミネルバが考えるリーダー像や、それを育成するプログラムの内容について、前編・後編の2回でお話を伺います。

教えない大学

ミネルバの斬新な教育法が注目されていますが、特徴を一言で言うと?

一言で言うと、「実践的な知恵」を世の中につくっていく教育機関ですね。ミネルバのミッションは「Critical Wisdom」を世界に届けることです。直訳すると「真に必要とされる知恵」。教室で学んだことを超えて、いろんなケースで実践的に思考する習慣が身に着くような教育法です。

学習を徹底的に科学してカリキュラムに反映していて、いわゆる講義型の「Teaching」ではなく、生徒自身が能動的に学ぶ「Leaning」の環境をつくっています。

具体的にはどんな学習方法なんでしょうか?

授業中には何もインプットしないというスタイルを取っています。学習者はまず、授業の前に必要なセオリーをインプットして、それと自分の体験を紐付けてアウトプットする活動があります。

そして一度学習したことがちょっとずつ間を開けながら戻ってくるカリキュラムなので、放っておいても知識が脳に定着する仕組みになっています。

ほかにも、学部では全授業オンラインでキャンパスがなく、その代わりに各々の学生が世界7カ国を転々としながら、多様性のある現場で実践的にセオリーを学んでいくスタイルも注目されています。

日本でも知名度が上がってきていますね。

はい。日本でも一部の企業の採用担当者の間で、少しずつ出てきたミネルバの卒業生がとても優秀、というイメージが広がりつつあるようです。「ミネルバ大学ってそういえば聞いたことあるぞ……なにかあるに違いない」ということで、人材会社の人なども大学のことを調べたり、広めたりしているらしいですね。

管理職も自分をアップデート

ミネルバ大学は社会人向けにもプログラムを提供しているんですね。

はい、ミネルバプロジェクト社が提供しています。学習すること自体をアップデートしていく中で、大学生だけを対象にするのはあまり自然じゃないと思うんですね。

30歳、40歳と、管理職になっても学んで、自分をアップデートして実践していく、というエッセンスは同じです。

社会人はOJTなど、日々の仕事の中で実践的にいろいろ学んでいると思いますが。

そうですね、仕事の中で経験を積んで、暗黙的にいろんなことを身に着けているとは思うんですけど、それを整理して体系的に現状を把握して、伸びしろを理解して、改善して成長していく……というサイクルは回っていない気がします。

僕らは組織開発、人材開発をうたって、いろんな会社に研修を提供しているんですが、それを受ける余裕がないという声を聞くこともあります。

一方で、スタートアップなどは、会社の成長のために実践力のある人材を採用してきましたが、今は採用できる優秀な人材が減っている中で、自社で人材を育成する重要性に気づき始めています。それはいろんな企業の人と話して感じますね。

そんな中、ミネルバの社会人コースが日本に上陸。

はい、これまでも個別の企業がミネルバ式の教育を社内研修として取り入れる例はあって、そこに、ミネルバの職員ではない私が外部講師として招かれたのがきっかけです。そこからいろんなご縁がつながって、僕ら(合同会社こっから)がパートナーとして事業提携して、日本で社会人コースを開講することになりました。

基本的に対象は管理職、あるいは日々複雑性に直面している方々ですね。10週間で人・自分・課題に向き合うための思考習慣をインストールしていく、というプログラムです。

講座内容は日本人向けにローカライズされていますか?

言語を日本語にローカライズしていますが、コンテンツは本国とほぼ同じにしています。とはいえ日本人に馴染みのないケースもありますので、それは日本人がよく知っているケースに変えたりしています。

人種や宗教を直接扱うコンテンツは全くなくて、根源的な人間のモチベーションや行動原理にフォーカスしているので、日本人にも違和感なく取り組める内容になっています。

1クラス10~15人ぐらいで、単独で社員を派遣される会社もありますが、4社ぐらいが混ざって受講するクラスもあります。スタートアップと大企業が混ざるとか、刺激があってとても面白いです。領域も業種も全く違う人たちが学び合えるようなコミュニティをつくっていきたいと思っています。

「奉仕型リーダー」から「適応型リーダー」へ

ミネルバが考えるこれからのビジネスリーダー像とは?

複雑化する世の中で、変化をうまく乗りこなす「アダプティブ・リーダーシップ」、つまり「適用型リーダーシップ」というのを大上段に掲げていますね。

リーダーシップって本当にいろんな変遷があって、一昔前は、報酬と罰で強力に人を引っ張っていく「トランザクショナル(取引的)リーダーシップ」が理想とされていました。しかし、2018年ごろからは、人に寄り添うことにフォーカスする「サーバント(奉仕型)リーダーシップ」が潮流になりましたよね。

傾聴する「サーバントリーダーシップ」はもう過去のものなんですね。なぜこれでは足りないのでしょうか?

アダプティブ・リーダーシップにはコンパスになぞられて、東西南北(East・West・South・North)の頭文字「E・W・S・N」の4つの素養があるとされていますが、僕の印象では、先ほど挙げたスタイルを全部含んでいるような形です。

「E」は「Empathy」。人の感情に向き合い、共感する。

「W」は「Win-Win」。自分の組織を超えて、ビジネスを通じてより大きな視点で、社会やコミュニティと良い関係を築ける素養ですね。

「S」は「Self-Correct」。自己修正できるという素質。

そして、「N」は「Navigate」。やることを指示せずに大きなビジョンや方向性を示して、その中で仲間たちがコラボレーションする土壌を作るというニュアンスです。

サーバントリーダーシップに比べると、アダプティブ・リーダーシップは「N」の要素が強いかもしれません。「S」も特徴的ですね。

「E・W・S・N」の4つの素養を示す図表
「E・W・S・N」の4つの素養を示す図表

ビジョンや方向性を示す「N」がフォーカスされるようになってきたのはなぜですか?

僕らのビジネス環境が複雑性を増しているという背景があります。

複雑性には3つの定義があって、1つは多様な人がたくさんいるという「社会的複雑性」。

2つ目は「物理的複雑性」といって、いろんな因果が複雑に絡み合うというもの。近視眼的にひとつの物事に局所的に対処しても、それは全体効率を悪化させたり、自分の予期しない結果を生み出したりする。

そして3つ目が「生成的複雑性」。これはもう何が起こるか分からない、コロナのような状況です。

まずは、この複雑性を理解するということが、ミネルバの教育コンテンツの大前提ですね。

見えないものが見えるようになる

ミネルバ式の教育を受けると、そうした複雑性が見えて視野が広がるのでしょうか?

はい。過去の卒業生にヒアリングさせてもらった時、「自分ではなく、周囲にきちんと目を向け始めたことによって、それまで見えていなかったものの存在に気づくようになった」というコメントが多く聞かれました。どんな職種の、どんな仕事に就いている人からも聞こえる声なんですよね。

優秀な人って、我流でいろんなことを力技とロジックでグーっと動かしていますが、どこかで物事が動かなくなる瞬間があって、躓くんですよ。そこには自分にビジョンが足りていないとか、バイアスがすごくかかっているとか、人の感情を無視し続けてきたとか、いろんな要素が絡まりあっている。そこに気づくようになる。

物事を決めるプロセスにしても、そのテーブルに載っているビジネスの課題とか、テーブルについている人が抱えている事情とか、周辺のことに目を向け始めると、目の前に存在していないいろんなことが自覚できるようになるんです。

具体的にはどんな事例がありましたか?

エネルギー系企業のあるプロジェクトマネジャーからは、プラントを作るためにいろんな反対に遭遇した時の話を聞きました。

地元の住民やコミュニティを、これまではいかにロジックで説得させていくか、という世界で彼は生きてきたんですけど、反対している人たちの周りにもいろんなステークホルダーがいることに気づいたり、彼らが何を根幹の価値観として生きているかに共感できるようになったり、システム全体をとらえるという視点ができたり……。

この複雑性を理解した上で、関係者にどういうメッセージを伝えていけばいいか、ようやく腹落ちして実践できるようになったと言っていました。

それは「社会的複雑性」と「物理的複雑性」の話ですね。「生成的複雑性」についてのエピソードはありますか?

あるバイオ系企業の方は、前例のない領域で日々戦っているので、生成的複雑性に複合的に直面していると思います。

起こる事象にその都度適応していく素養については、「Self-Correct」に一番直結します。自分をいかに修正していけるか。1回決めたらやりきるというのは、美しく結果をもたらすこともあると思いますが、こだわらずに自分の勝ちパターンや固定観念を手放して、修正していくほうが大事だよね、ということも授業で扱います。

彼はこれまで投資してきた研究分野で、最近自分たちのやり方が正しいのかどうか、分からなくなった瞬間があったそうです。もっと効率的にできるんじゃないかと。

これは物理的複雑性にも当たると思いますが、その時に事業との紐付きの中で現れるのが「損失回避バイアス」ですね。「これだけ投資してきたんだから後戻りすべきでない」という雰囲気が社内に充満する。そこもミネルバで学んだツールを活かすところです。

複雑じゃない課題はない

ずっと前から同じ事業をやってきて、多様性の低い日本の企業でも、アダプティブ・リーダーシップは適用可能でしょうか?

僕は可能だと思います。特に今の時期は、日々生きているだけで複雑なシステムを体験しているはずなんですよね。

今日のチームの状態や売上高だけでも、複雑なシステムの特徴を挙げていくと、いろんな因果関係が絡まりあっています。ビジネスで解いていく課題って、複雑じゃないものはないんじゃないかと思います。

複雑性の低い仕事もありそうですが。

レベルの違いはあると思います。例えば、アメリカで「マクドナルド」の店舗をどこに作るかといった課題を考えた場合。これまでのデータに基づいて、どれぐらいの人口のところにどのくらいの大きさの店舗をつくれば、これぐらいの売り上げがある、というシミュレーションができるので、複雑性はあまり高くない。

でも、その中でいかに従業員に気持ちよく、エンゲージメントを高めて働いてもらえるかというのは、とても複雑性の高い話です。

「自転車を売る」といったアクティビティを捉えても、その周りにどんな人やモノ、事、ルールなどが存在しているか、そのシステムを分解していくと、複雑性が見えてきます。

なるほど。これまでは手探りでやって気づいてきたことが、ミネルバのコースを受ければ見えてくるわけですね。

はい。切り口をちゃんと考えるという思考習慣が身に着きます。

これからやろうとしていることについても、なにを考慮しないといけないかが考えられるようになる。

事業をつくる手続きも行き当たりばったりで考えるのではなく、物理空間や時空を超えて、周りにどんな影響があるのかという、派生効果が見えてくるんですね。

切り口を考える習慣をないがしろにしてきたから、今いろんな業界がそのしっぺ返しを受けている、とも言えます。

それでは次回、具体的なカリキュラムの内容、そしてミネルバが徹底して行っているという「学習の科学」についてお話いただきましょう(後編に続く)。

ミネルバの社会人コースについての詳細はこちら

合同会社こっから 代表社員 黒川公晴
2006年外務省入省。2009年米国ペンシルバニア大学で組織開発修士を取得後、外交官としてワシントンDC、イスラエル/パレスチナに駐在。帰国後は日米安保、国際法等様々な分野を手がける傍ら、首相・外相の通訳を務める。国益や価値観がぶつかり合う交渉に携わる中で、個と個が生み出す可能性、個と組織の在り方に強い関心を持ち、2018年独立。ファシリテーター・コーチとして国内外の企業・団体の人材開発・組織開発を支援。内省を通じたリーダーシップ育成、ビジョン・バリュー策定、自律型組織作り、事業開発、紛争解決等のサポートを行う。一般社団法人Brain Active with代表理事|一般社団法人ALIVE理事|米国ミネルバ講師|ペンシルバニア大学組織開発学修士

[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 小金丸和晃

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