本業のスキルを地域で活かす。新しいつながりと発見を呼ぶ「地方副業」のリアル

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副業が解禁され、リモートワークも日常化してきた今、実は「地方副業」を始める人たちが、若い人たちだけでなく、ミドル世代でも少しずつ増え始めています。

しかし、「自分もやってみようかな」とは思うものの、実際にどのぐらい忙しくなるのか、また縁もゆかりもない地域との関わりについて不安を感じ、一歩踏み出せない人も多いのでは?

そこで、本業では大企業の中間管理職として活躍しながら、「とっとり副業兼業プロジェクト」を通じて地方副業を楽しんでいる2人のビジネスパーソンに、「2足のわらじ生活」の実際や、副業を始めて気づいたことなどについて、お話を伺いました。

※とっとり副業兼業プロジェクトの詳細については「こちら」

本業と副業、2つの役割とスケジュール

お2人の本業は?

市川竜さん(以下、市川):ベネッセコーポレーションで、人事の仕事をしています。人事制度、働き方改革、労務管理全般の課長で、今は部下のマネジメントが中心になります。コロナ禍でのテレワークや、働き方改革の一環としての副業を、会社の中で推進する立場です。

Sさん(以下、S):製薬会社の管理部門のマネジャーです。労務管理も含めて個人の裁量にまかされている部分は大きいと思います。

副業の内容は?

市川:鳥取県の「モリックスジャパン」という会社で、人事制度の改革支援をしています。県内を中心に企業や官公庁向けにOA機器の提案販売をしたり、システム開発をしている会社で、70年以上の歴史のある企業です。

2022年10月から新しい人事制度を導入するのをゴールにしていて、今、経営層などから社員に求めるスキル・役割などについてヒアリングを行って、そこから新しい等級制度を作っているところです。

鳥取県の「モリックスジャパン」で地方副業中の市川竜さん

S:私が現在携わっているのは、鳥取県の「うえだイベント」です。法人としては10年ぐらいの会社で、従業員数は1ケタ台。ワクチン接種や地元イベントの会場設置などをしています。

私の役割は、メインは社長の「壁打ち役」。コロナ禍でイベントがなくなって、売り上げが下がってどうしましょう……というところを、外部の目から見て一緒に考えていく。

お客さんをどう増やすかが直近の課題で、まずは会社の強みを整理して、提案先に持って行けるような会社案内を作りましょうと。それがある程度形になってきたところです。

Sさんが副業中の「うえだイベント」

1週間のスケジュールや仕事の進め方は?

市川:副業先との打ち合わせは月2回ぐらいです。オンラインで、本業の時間外に行っていまして、そこで聞いた課題感をもとに、人事制度に関して企画提案をします。

資料作成は本業が終わった後や土日を使って、平均すると週3時間ぐらい。1カ月で10~15時間かけています。

S:本業のほうは完全フレックスなので、調整はしやすいです。会議があるような日中の時間は外して、朝イチとか夕方に副業先とミーティングをするようにしています。

私も副業の打ち合わせは、平均すると月に2回ぐらい。資料作りや調べものについても1カ月10~15時間ですね。

どうやって今の鳥取県での副業を見つけましたか?

市川:2021年の6月ごろに副業したいなと思って、漠然とLoinoなどの副業求人サイトを見て、「自分がやってみたい、役立てそうだ」と思ったところに応募しました。そこでご縁があって、7月から副業を始めています。

S:私も今年6月ごろから副業の求人サイトで探して、応募しました。エリアは絞ったわけではなくて、たまたま自分のやれそうなことが鳥取県で募集されていた、というところですね。副業を始めたのは私も今年7月からです。

会社の外で広がるチャレンジの幅

なぜ副業をしようと思われたのでしょうか?

市川:大きく2つ理由があって、1つは人事の担当者として2021年度から会社で副業を解禁したので、自分でもやってみたかったというのがあります。

副業って会社から見たときに、メリットとデメリットがあるといわれていますよね。メリットは社員が主体的に成長して、それが本業のパフォーマンスに反映されるというものがありますが、一方で転職のリスクとか、本業への集中力の低下とか、デメリットも懸念されます。でも実際はどうなのか、自分がやってみないと分からないな、と思って。

あとは自分が管理職になって、メンバーの支援とか、管理業務の比重がどうしても高くなってしまって、自分がプレーヤーとして打席に立つ機会がだんだん減ってきたなあという思いもありました。新しい課題に直接取り組んで、自分を伸ばせるような機会を社外に求めたいと思ったのが2点目ですね。

S:コロナ禍でテレワークが週5になったので、浮いた通勤時間をどう有効活用しようかな、というときに1つの選択肢として出てきました。

副業は3年ぐらい前から考えていて、これまでにも経験はありました。1つの会社で同じような仕事をしていると、やっぱり自分の知識とかノウハウみたいなのが固まってくると思いますし、接する人もなんとなく自分と似ていたりするので、世界が狭まってくるようなイメージを持っていたんですね。

コンサルティング会社で働いていた経験もあるし、本業の仕事をする一方で、別のこともやっていけるといいな、と考えました。

お2人とも社外に新たなチャレンジを求めたようですが、なぜ転職とか、本業の中でなにかを変えるとかではなかったのでしょうか?

市川:転職はそもそも頭にはなかったですね。本業に特に不満があるわけでもないので。

新しいチャレンジについては、本業の中でももちろんできるんですが、やっぱりそこは会社が求めるものと自分がやりたいことを会社の枠組みの中でマッチさせる、ということになると思います。

一方で、副業は自分に不足していること、やりたいことを幅広い選択肢の中でマッチングさせることができる。

先ほどSさんも仰っていたように、1つの会社だけで「自分の幅」というものが狭まっていないだろうか、という漠然とした不安感はあるんですよね。それで、他社でも通用するような再現性のあるスキルを身につけたい、という課題感があったと思います。

S:私も副業と転職を天秤にかけるようなイメージは持っていなくて。本業は本業でまだやりたいこともあるし、続けていきたいな、と思っています。

本業の中でもチャレンジしていますが、今、副業をする環境が整っているので、外でもプラスアルファでやっていく、と。「AかBか」みたいな感じではなく、両方やるっていう形が、今の自分には適していると思います。

時間、体力、コミュニケーション――副業をやってみて気づいたこと

実際に副業をやってみて、本業とのギャップや難しさを感じられたことはありますか?

副業先の従業員の方々とビデオ会議を行う市川さん

市川:本業の仕事内容やスキルを生かしているので、そんなにギャップを感じることはなかったですね。

はじめのうちは、副業先の会社の風土とか課題感などの文脈が分からない中で、リモートでコミュニケーションを取る難しさを感じることはありましたが、実際にお会いする機会を設けたりして、徐々にスムーズになっていきました。

S:私の場合、副業と本業は内容的にまったく違うものです。本業はあくまで、組織の中での一部の役割という形ですけど、副業ですと、自分の看板で営業から経理から法務から全部やる、みたいなところがある。

本業では触れることのないような業務もするので、それがいかに重要か気づくことがあったりして。それが副業の楽しい部分でもあると思っています。

市川さんは、先ほどおっしゃっていた「副業のメリット・デメリット」について、以前より理解が増したと感じますか?

市川:今までの経験を他社にも提供できるレベルにバージョンアップできた、という感覚もありますし、自分の担当領域を広げて課題解決をするという点でも、確実に能力開発になるな、と思いました。

中長期的には、課題意識を持って副業をしている人とそうでない人の差がすごく開いていくだろうな、とも感じています。

そうはいっても、副業をやるって結構大変なんですね。今働き盛りでバリバリ仕事して、課題意識を持って副業をやるような人って本業もすごく忙しい。その中で副業することの体力的なキツさはやっぱりあるなと思って。

会社って、たとえ社員の副業を認めていたとしても、社員に対してどうしても本業への「フルコミット」を求めるところがあると思うんですけど、今後副業する人が増えていく流れは変えられないと思うので、そこは会社としていかに社員が「この会社で働きたい」と思えるような環境を作っていけるかが大事なのかな、と思っています。

Sさんは実際に副業を始められて、仕事やネットワークの幅が広がったと感じられますか?

S:そうですね。いい刺激を受けていますし、それが自分のスキルアップにつながっていると感じます。自分の知らない領域に触れたり、バックグラウンドがまったく異なる方たちと知り合うことができました。

うえだイベントの会場設営の様子

会社勤めをしていると、経営者と話す機会ってなかなかないと思うんですけど、やはり経営者の目線というのは、会社の規模の大小にかかわらず面白いものがあるといいますか。

中小企業の経営者は、ある意味、命を懸けてやっていらっしゃるような方々がほとんどだと思うので、大企業のサラリーマンとはどこまで行っても違います。コロナ禍で、場合によっては身入りがゼロになるという世界なので、モノごとに対する真剣度合いが違いますよね。

副業によって家庭生活や収入には影響がありましたか?

市川:テレワークで通勤時間が浮いた分を副業にかけているので、時間的に家庭の部分を侵食していることはないですし、収入面もちょっとお小遣いが増えるぐらいですので、それほどのインパクトはないですね。

副業については家族に「え、お父さんどうしちゃったの?」と驚かれましたが、妻も刺激を受けたのか、ミニチュア製作の講師を始めたりして、家庭内でもちょっとした副業ブームになってます(笑)。

地方副業を始めたことで家庭にも変化が

S:仕事時間が多少増えた部分はあるかもしれませんが、私個人としてはすごく楽しく副業をしているので、そういう意味では生き生きとしていいんじゃないかと思います。

「お父さんはいろんなところで仕事しているんだ」という話ができて、子どもとの会話も楽しいですね。

東京にいながら鳥取県に貢献、知らなかった地域との縁も

お2人とも鳥取県の会社で副業をされていますが、それぞれ地元は?

市川:東京出身で、今も東京に住んでいます。岡山に4年勤務していたことがあって、そのときは鳥取に何回か足を運んだことはありましたが、基本的に鳥取には縁もゆかりもなかったです。

S:私は奈良県です。副業以前に鳥取には行ったことがあって、他県の人を呼び込むことにすごく注力されているな、という印象がありました。

副業を始めてから鳥取県の印象は変わりましたか?

市川:鳥取のイメージといえば「砂丘」しかありませんでしたが(笑)、すごく愛着を感じるようになりましたね。

2021年に伺ったときには、地元の美味しい料理屋さんに連れて行っていただいたり、いろいろ歓迎してくださって。先日も段ボールいっぱいに柿を送っていただきました。副業ではありながら、一員として扱ってもらえたのは非常に嬉しかったですね。

S:鳥取県でこういう活動をするようになってからは、地域の危機感を身近に感じるようになりましたね。本気で取り組まれているな、と思います。

そうやってこれまで縁もゆかりもなかった地域と交流が生まれるのは楽しそうですね。

市川:一番やりがいになっているのは、自分が今まで積み上げてきたスキルを本当に求めてくれる地域社会や人がいるということ。「貢献実感」みたいなものだと思います。

地方の企業は、実務経験のある40代ぐらいの方に、事業の中核に携わってほしいというニーズも多いと思います。

働き盛りの人は本業で忙しいと思いますが、やりたいことに共感できる地域とか、貢献したいと思える会社さんとのいいご縁を見つけてほしいな、と思います。

S:うえだイベントではまだオンラインでしか仕事をしていないのですが、以前副業していた場所の中には、家族で半分旅行を兼ねて行ったことがあるところもあります。

たぶん副業をしていなければ行かなかったであろう土地に行けたり、生まれなかったであろう会話が生まれたりして、家族にもプラスに作用すると思います。

地方を探索するような気分で携わってみると、自分があまり知らなかった地域の中で、新しい発見や人のつながりが得られます。それが結果的に、キャリアや人生観の広がりにつながるんじゃないかと思います。

落ち着いた場所で仕事中のSさん

「人生100年時代」のキャリア選択

副業をやることで、本業の位置づけは変わりましたか?

市川:本業である会社員がいかに恵まれているか、というのをすごく実感しました。会社員は風邪を引けば有給休暇が取れるし、ほかの人が代わってくれる部分もある。

今は本業でも自分は成長できていると思うし、本業をなにか崩すという気はないですね。副業という仕組みを自分も他の社員もうまく使っていくのがいいのかな、と思っています。

S:今、副業でやっていることを本業にすると、それはそれですごく大変だなというのを、副業をやりながら感じます。

それがものすごく大きく育ちそうだというのが見えれば、今副業でやっているコンサルタントの仕事をする可能性もありますが、現時点では副業として携わるぐらいがすごくいいバランスなのかな、と考えています。

キャリア観や展望には変化がありましたか?

市川:キャリアに関する視野と選択肢がすごく広がったなと感じますね。副業という外の世界でこれだけの機会があるのを実感したことで、明確にキャリアというものを自分で選び取ることができると感じました。

今はまだまだ余裕がなくて、副業は1社だけですが、例えばスタートアップ企業の人事機能を立ち上げる支援とか、「もっとこういうこともやってみたいな」というのはいっぱいあるので、余力があればチャレンジしていきたいと思っています。

S:キャリア観は広がったと思います。ある程度の年齢になってくると、新しい分野へのチャレンジってどんどん難しくなってくると思うんですね。社内でもまったく違う分野への異動が難しくなるし、転職も似たような業界の似たような職種になってしまう。

そういう意味で年をとればとるほど、先の道筋が狭まってくる印象があったんですが、副業をすることで、それを自分なりに広げられるという実感があります。

「人生100年時代」みたいな話があちこちでいわれてますが、サラリーマンをやっていて、どこかで給料もやりがいも減っていく……というタイミングが来たときに、「自分で仕事を作っていける」という経験をしておけば、本業を辞めるという選択肢も取りやすくなる。

副業というのは、個人の長い人生という観点で、キャリアにプラスに働くと思います。

 

※地方特化型副業マッチングプラットフォーム「Loino」とは?
「Loino」は、移住・転職せずにリモートでも貢献できる“地方副業”を支援する地方特化型の副業マッチングプラットフォームです。都市部に勤務する経営企画、マーケティング、新規事業開発、人事、IT・Webをはじめとした企画系の専門人材をメインターゲットに“地方副業”のマッチングを目指しています。詳細はこちら

[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子

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