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今の自分の市場価値を確かめてみましょう。
時代の変化が激しく、個々人に求められる専門性が深化するにつれ、異なるバックグラウンドを持つ相手に自分の考えを「伝える力」はますます重要になるでしょう。
特に中間管理職、マネジャーにとっては必携スキル。顧客担当者や上司、部下と対峙するマネジャーは、各人の意思を「伝えることが仕事」と言っても過言ではないからです。
そこで今回は、「伝える」のプロフェッショナルにお話を伺います。
日本マイクロソフトで「エバンジェリスト=伝道師」の肩書きを持つ大西彰さん。サービスの価値を社内外に発信するチームを率い、業績向上やビジネスモデルの転換に大きく貢献。
そんな大西さんに、良い伝え方、伝える力の磨き方など尋ねました。が、しかし・・・ 冒頭から「意外な答え」が返ってきましたーー。

PROFILE

- 大西彰
日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム総括本部 ISVテクニカル エバンジェリズム 部長 - 大学入学と同時にIT業界の仕事に携わり、29年目に突入。プログラマ、SE、コンサルタント、サポート、プリセールス、国際化アーキテクト、さまざまな経験を経て、「開発者を勇気づけたい」という思いを形にするために、2005年9月にエバンジェリストとして日本マイクロソフトに入社。約10年間のエバンジェリスト経験を活かし、エバンジェリストのマネジャーとなり約2年。座右の銘は「踏まれてもなお立ち上がる道の草」
「うまく伝えられる」だけではもうプロとは呼べない
—大西さんは「エバンジェリスト」として、どんな仕事をされているのでしょうか。
最新テクノロジーをどんどん発信していくスポークスパーソンのようなものを想像されている方が多いかもしれませんね。ただ、その業務は相手や領域によっても異なります。
私自身は2005年に日本マイクロソフトに転職して以来、一貫してエバンジェリストを務めています。あるときはデジタルマーケティング支援の仕組みを作り、またあるときは社員にインタビューして技術力を社外に発信したり・・・TPOに応じて装いや伝え方も変えます。
よく、スライドを前に「さぁ、私に注目してください」みたいなプレゼンテーションをしているようなイメージがありますけど、最近はもうあまりそういう場面は多くありません。お客さまの前でもPCを開きはしますが、資料さえ出さないこともあります。
なぜなら、まずは相手の関心事や注力している事業、課題感はどうなのか、じっくりと「聴く」ことから始めるからです。

—まさに、スライドを使ってプレゼンテーションをしたり、製品を分かりやすく説明したりする仕事をイメージしていました。ですから、今回は伝えるプロであるエバンジェリストの視点から、「伝える力」について伺おうと考えていたのです。
なるほど。確かに、かつては「伝える」ことに主軸を置いていました。けれども今はお客さまのバックグラウンドもさまざまですから、求められることも違います。
われわれエバンジェリストのチームがやっていることを一言で言えば、「お客さまとともに未来を描く」こと。アイデア出しから開発を伴うような作業まで含めて、お客さまの思い描く未来を具現化する手助けをします。

未来、と言っても実現不可能な絵空事ではありません。お客さまと同じ視点に立って、何を成し遂げ、それによって社会がどう変わっていくかを一緒に理解しながら、スケジュールを引き、最善の手段やパートナーを考えます。
—もはや「伝える」だけではないのですね。エバンジェリストが会社に期待されている役割とはどんなものでしょうか。
マイクロソフトのテクノロジーやプラットフォームがうまく活用されていくことで、結果的にお客さまとの深い関係性を築き、ビジネスとしても成長させていくことは起こりえます。それは会社にとっても歓迎すべきことです。
ただ、あくまで重要なのは、エンドユーザーであるお客さまが達成したいゴールを見極め、そのために何ができるかを考えること。それが曖昧なままではうまくいかないし、ただこちらが話をしただけで、聞くべきことが聞けていないということも起こりがちです。
例えば、ユーザーエクスペリエンスの重要性は多くの方に認識されているかと思いますが、それが「見た目の美しさばかりが追求されている」などと技術者目線になってしまってはいけない。あくまで、カスタマー・オブセッション=顧客志向が大切です。
最終的にアプリケーションを使うお客さまの視点で何を成し遂げたいのか・・・お客さまの、そのまた先にいるお客さまのやりたいこととは一体何だろうかとブレークダウンして、お客さまの達成したいゴールを明確する、つまり「導く」のです。

顧客が自身のニーズが分からない時代にどう導くか
—ゴールを明確にするためには、相手の考えていることを最大限に引き出す必要があると思います。どのような対話を心がけていますか。
どんなに長年付き合いのあるお客さまでも、「はじめまして」の気持ちというか、まっさらな状態で話すということです。
対話、というとなんとなく向かい合う印象がありますが、究極にはマイクロソフトとかお客さまとか関係なく、白紙の前に横に並んで座って、「ここにこんな山があって、谷があって、ここに目的地があって・・・」と一緒に指差し確認しながら、探し当てるような感じです。
変に自分を大きく見せるのではなく、私は一人の人間で、会社員で、分からないことだってある、ということを開示します。けれども、「あなたの力になりたい」という熱意が変わらずそこにあります。

お客さまのやりたいことは往々にしてモヤモヤとしています。ですから、それをそのまま引き出すだけではあまり意味がありません。
エンドユーザーが朝起きてから寝るまでにどういう行動をして、その過程で何が期待されているのか・・・ということを時系列で捉える視点が必要です。
以前だったら、オフィスにデスクがあって、その上にPCがあって、部屋の隅にプリンタがあって・・・というのが定型としてあったし、画面解像度もCPUもメモリにも制約がありましたから、誰かが作ったテンプレートを説明すればよかったわけです。
けれども今は、お客さまから来る要件もフワッとしていて、やろうと思えばどこまでも自由にできる世界。目の前にある白紙を受け入れて、そこに何を置いていくかを発想することが私たちの重要な活動となります。
—定型があった状態から、何を描いていいかもわからない白紙状態を受け入れることは、0から1を発想することが苦手な人にとっては、難しいことのように感じます。
それに戸惑っている人が多いかもしれませんね。確かに、変化に対して腰の重い人と、新しいことを難なく受け入れられる人の2タイプがいるでしょう。
ただ、実際にテクノロジーは飛躍的に進化し、顧客自身すら自分のニーズが分からないレベルにまで来ています。ほんの1年でもその人が前者のタイプか後者なのかどうかで、そのパフォーマンスに圧倒的な差がつきますよ。
例えば、ビックデータを例に挙げても、店舗からのPOSデータで導き出される売上予測なんて、どの企業もやり尽くしています。それだけでなくターゲットや商品、あるいは店舗への経路や環境など、考えうる要素は多岐に渡ります。
受け入れる、というよりは、現に変化していることを直視する、ということでしょうか。一つのことにとらわれ、縛られていると、まわりが見えなくなってしまいます。自分の考え方が固定化されていないか、それ以外に着目すべき点はないか、常に意識しておくべきです。
—そのように白紙の状態から発想する力を鍛えるためにはどうすればよいでしょうか。
発想の起点がわれわれエバンジェリスト側になくてもいいと思っています。

連想ゲームのように、お客さまから出てきた言葉を他の言葉と置き換えてみたり、アイデアをマクロや俯瞰で見たり、会社や日本、アジア・・・などと視点を切り替えてみたりします。具体と抽象を行ったり来たりしながら、アイデアを否定せずに発展させていく。
マイクロソフトの製品やサービスばかりにこだわらず、あらゆる可能性を考えた上で視野角を広げます。直接的に関わっている人だけでなく、さまざまな立場の人からアイデアをもらうことも、視点を変えるには有効ですね。
そしてどんどん広げていって、最終的にぐっと現実に戻ってくる道筋を立てるのです。その際、しっかりとしたロードマップを引いて、期日通りに実現できるような形にまで落とし込むことが重要です。
マネジャーは情報を編集し、チームのプロトコルをそろえよ
—お客さまとの関係性や向き合い方が大きく変化しているのですね。すると、マネジャーとしては社内のチームメンバーとの連携の仕方も変わりますか。
エバンジェリストに限らないかもしれませんが、職人気質で「自分は専門性を持っている」と自負する人が以前は多かったと思います。けれども今、大前提として必要なのは、「お手本はない」「自分の持っている知識だけでは足りない」という意識を持つこと。
今までにない新たなことを始めるには、自分一人ではできない、社内外のパートナーと協力し、ゴールを明確にした上で、それぞれが意志を持って実行しなくてはならない、ということを受け入れなければなりません。そうすれば、仕事の進め方も変わってくるはずです。
お客さまからの技術的な問い合わせメール一つ取っても、それまでなら完璧な回答を伝えるために自分一人で熟慮して、1週間後に返信していたかもしれないけど、それよりは知識を持った人にすぐ相談し、お客さまの参考になるようなURLを2、3個つけて、すぐに返答するべき。
それで足りないのなら、またすぐに追加して返せばいい。ビジネスでのコミュニケーションツールとしてもクラウドベースのチャットやグループウェアが浸透してきましたから、その感覚でこまめにやり取りしたほうが、お客さまにとっても誠実です。
—チームメンバーと包括的かつこまめにコミュニケーションを取る必要があるということですね。メンバーを動かす上で気をつけていることはありますか。
「伝える」上でよく起こりがちな失敗が、自分が話をしていれば、相手が理解しているものだと思ってしまうことです。
「この技術領域はAさんが優秀だから」とまかせてみると、自分が想定していないものができあがってしまうことがあります。これは、きちんと「プロトコル」を合わせないまま話すことで生じる失敗なのです。

例えば、「コンセプト」という言葉が指し示すものって全然違うんですよ。エンジニアやマーケティングなど職種でも異なるし、国籍によっても変わってきます。私の上司は海外出身で、チームには私を含めて28名いますが、英文で一斉にメールをすると微妙なニュアンスや解釈の違い、あるいは思い込みによって、理解度にもグラデーションが生じます。
そこで一つひとつの言葉を正しく理解できているか、知ったかぶりしていないか・・・と確認する必要があるのです。変に気を回しすぎて仕事を進めても、「お客さまはそこまでは望んでなかった」ということが起こりえます。
—そのプロトコルを揃えるにはどうすればいいのでしょうか。
単なる翻訳やスルーパスではなく、しっかりと情報を解釈、編集し、それに責任を持つということです。そうやって「自分」というフィルターがブレていなければ、チームのプロトコルはそろうはずです。
言語の違いはなくても、よく中間管理職であるマネジャーは上司からの指示をそのまま部下へ、そして部下から言われたことをそのまま上司へ・・・となってしまいがち。けれどもそれが冗長で細かすぎるものであれば、その真意は双方に伝わりません。
ときには情報を切り捨てるくらいの勇気を持って、より重要な課題にフォーカスが当たるように、自分で解釈して、伝えるべき人に伝えて、次へのアクションへつなげる。そういう編集力は、チームのダイバーシティが進んでいく中で、今後ますます問われると思います。

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之
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