平日は会社員、週末は宇宙開発。リーマンサット・プロジェクトで拓けたキャリアの可能性

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テレワークなど柔軟な働き方が少しずつ広がる中、新たなスキルの習得や趣味でキャリアの可能性を模索できるチャンスとして、社外での活動を始めるビジネスパーソンが出てきました。

株式会社インテージヘルスケアに勤務する三好彩子さんもその1人。本業で医薬品のマーケティングリサーチに従事しながら、週末や夜には民間宇宙開発団体の「リーマンサット・プロジェクト」で、人工衛星の開発と運用にボランティアで携わっています。

本業以外の場所で宇宙開発に関わることになった三好さんの経験を伺いながら、社外での活動の魅力や始め方、選び方のヒントを探ります。

週末は人工衛星開発

―本業のお仕事は?

リサーチ会社で医薬品を対象とした市場調査をしています。

お客さまは製薬会社のマーケティング部の方々で、どのようにしたら医師・薬剤師の医薬品の処方が伸びるのかをインタビューやWebアンケートなどで調査し、得られた結果を分析して、レポーティングやプレゼンをするという仕事をしています。

いろんな領域のいろんなフェーズの製品と関われるのが楽しいですね。

―本業とは別に、宇宙開発に携わっていらっしゃると聞きました。

2019年の夏ごろから「リーマンサット・プロジェクト」に参加しています。このプロジェクトは、普段は宇宙開発に関わっていないビジネスパーソンが立ち上げた団体です。

「宇宙=NASAやJAXA」というイメージがあると思いますが、「100円ショップ」で売っているようなものを使って、宇宙開発をだれでもできる身近なものにしようとしています。

プロジェクト全体の人数は今1,100人ぐらいで、超小型の人工衛星を開発する「人工衛星チーム」と、月面車をつくる「ローバーチーム」がメインで活動しています。ほかにも宇宙服をつくったり、ドローンを開発したりするチームもあります。

私は人工衛星チームにいて、「RSP-01」という、すでに打ち上げが完了している人工衛星の開発に参加しました。このチームには100人ぐらいのメンバーが関わっていて、開発では電子基板系の人もいれば、システム開発を中心にやっている人もいます。

―その中で三好さんの役割は?

私は一部の電子基板の「はんだづけ」を担当しました。

本業がエンジニアと全然関係なくて知識がないものですから、どういう関わり方ができるのかな、と思ったのですが、チームの方たちが優しく教えてくださって。江戸川区で町工場をやっているメンバーの工場で、土日に開発をしていました。

はんだづけは中学校の技術の時間に一瞬やったかも……と記憶にないぐらいで、ほとんど初めてでした。はじめはどういう服装でいったらいいのかも分かりませんでしたが、意外と火花バチバチみたいな感じではなくて、顕微鏡を見ながら息をのむといいますか、思ったより繊細な作業です。

打ち上げが完了してからは、人工衛星の運用メンバーとして活動しています。そのためにアマチュア無線の免許も取りました。本業がエンジニアという方ももちろん多いんですが、私のようにそうではない方も結構いるんです。

開発作業中の三好さん
開発作業中の三好さん

仲間と盛り上がる宇宙との交信

―直近ではどんなことに取り組まれているんですか?

RSP-01の音信が途絶えてしまったので、今はその原因を究明しながら音信を復活させるのが直近の課題になっています。

RSP-01は「自撮りができる人工衛星」になっていまして、地球をバックに人工衛星を自撮りすることを1つ目標にしていました。人工衛星から地球を撮った映像というのはよくテレビなどで見かけますけど、私たちがつくって打ち上げた衛星が元気に宇宙を飛んでいる姿を見たい、という思いがありまして。

実は撮影自体はもう成功していて、小さめのサムネイルで受信していますが、選んだ1枚を今度はフルサイズでダウンロードしようというところで、ちょうど音信が途絶えてしまいました。なので、今は音信を復活させて、フルHDの自撮り画像を受信するということが目標です。

―人工衛星が自撮りをするとは面白いですね。

人工衛星って気象の衛星など実用的なものが多いと思うんですが、もう完全にエンタメといいますか、私たちがただ「自撮りをさせたかったから」という理由でこの機能をつけました。人工衛星の通称も「セルフィッシュ」で、自撮りの「セルフィー」と私たちの「わがまま」をかけています。

世界最小、10㎝立法の四角い人工衛星から自撮り棒みたいなアームが伸びて、そこにカメラがついています。打ち上げのときは閉じていて、その後で蛇腹のアームが伸びる仕組みになっています。

メンバーが地上から衛星に「写真を撮影しろ」とか「送信しろ」というようなコマンドを送ると、衛星が日本の上空を通った瞬間にちょっとずつ画像を送ってくれるんです。

―打ち上げはどうしているんですか?

もともとはJAXAに依頼して、種子島からJAXAのロケットで打ち上げる予定でしたが、コロナの影響などで打ち上げがズレて、2月に国際宇宙ステーション(ISS)に物資を供給するアメリカのロケットに「相乗り」みたいな形で搭載していただきました。

ちょうど宇宙飛行士の野口聡一さんがISSにいる時期で、3月中旬に野口さんがISSから宇宙空間に放出してくださったという。

打ち上げの様子 ©NASA/Patrick Black
打ち上げの様子 ©NASA/Patrick Black

―打ち上げや宇宙空間への放出の瞬間を、チームのみなさんはどこで見守っていたんですか?

最初はみんなで現地に見に行きたかったのが、2月でコロナが落ち着いていなかったので、打ち上げの日は「NASA TV」を各自リモートで見ていました。

ISSからの放出のところでは、今まで衛星の開発をしていた工場に密にならない程度に集まって、みんなで見ました。

「相乗り」した同じ大きさの人工衛星が4つ、ところてんみたいに宇宙空間にポンポンポンポンと出てきたんですけど、その中に自分たちの青色をした衛星が見えたときに「これだ!」となって、すごく感動しました。

放出してから30分後にも、アンテナが展開して衛星と通信ができるタイミングがあって、そこでは本当に通信ができるのか、みんな心臓が止まりそうになりながら待っていましたね。「撮影」のコマンドを送った時は、最初の1枚目からきちんと背景に地球が写っていて、みんなでとても盛り上がりました。

人工衛星が撮影した写真
                                            人工衛星が撮影した写真

小学校時代の夢は宇宙飛行士と獣医

―宇宙開発への興味はいつから?

もともと宇宙が好きで、小学校の卒業文集では「将来の夢」のところに「宇宙飛行士」と書いていました。私が小学3年生ぐらいのころに、向井千秋さんが2回目の宇宙に行ったのを見て、「人って宇宙に行けるんだ!しかも女性が!」と思った気がします。

中学生ぐらいからちょっと現実的ではないという気持ちを持ちつつ、実は最後まで進路を迷っていて、高校は物理選択をしていたんです。でも大学で宇宙工学系にいくと、その後なにになれるのかな……みたいなことを考え始めて、やっぱり生物系を選択して神奈川の大学で獣医学部に進学しました。

今思えば、宇宙に関われる職業っていろいろあると思うんですけど、当時はあまり知らなかったというのもありましたし、動物がすごく好きで、小学校低学年ぐらいのときは「獣医さんになりたい」と思っていたこともありまして。

―ある意味、夢がかなったんですね。

小学生時代
小学生時代

はい、獣医科卒業後は東京都板橋区の犬・ネコ専門病院で勤務していました。実はそこには1年しか勤めていなくて、その後は転職して現職に就きました。

―その間は宇宙のことは考えていなかったのですか?

そうですね。大学がJAXAの相模原キャンパスと近いところにあったので、大学時代はオープン講義などを聞きに行ったりしていたんですけど。そのころにはまだリーマンサットも発足していなくて、趣味として関われるという概念がなかったので、あまり調べたりはしていなくて。リーマンサットについては、2019年にテレビ番組を見て偶然知るという形でした。

宇宙好きの5人が居酒屋で宇宙の話をしているところからプロジェクトが始まった、みたいな話だったんですが、宇宙にも興味がありますし、その居酒屋と勤務先がすごく近かったので、「こんな会合があったのか!」みたいな気持ちで食いつきまして(笑)。

RSP-00」を打ち上げたという話が出ていて、「趣味の団体なのに衛星を打ち上げられるんだ!」とすごく衝撃を受けました。

さっそくリーマンサットのホームページを見てみたら、これもまた趣味の団体なのにすごくかっこよくて、さらに興味を持ちまして、翌日入会のメールを送ってしまいました(笑)。入会して1週間後に定例会があったので、そこに直接参加してメンバーになりました。

メンバーの方々と
メンバーの方々と

―人工衛星チームに入るというのは、どうやって決まったんですか?

定例会で各部門の説明会があって、私としては開発に興味があったんですけど、やはり技術的なバックグラウンドがないので実際開発に関わるのは難しいのかな、とためらっていて。

難しそうだったら広報とか技術系でない部門のメンバーになろうかな、と思いながら説明を聞いていたところ、RSP-01のメンバーが「技術系じゃなくてもいいから見に来ませんか?」と声をかけてくださって、いきなりその翌々週ぐらいに工場を見学することになったんです。

「経験がなくても自分がやりたい気持ちがあれば大丈夫」みたいな熱い言葉をかけてもらいまして、技術系のメンバーとして参加しました。

「やりたいことをやっていいんだ」

―実際に社外での活動として宇宙開発を始められて、日常や仕事にはどんな影響がありましたか?

はじめは「経験がないから難しいかな」とか「なにだったら役に立てるかな」というような目線で見ていて、開発の現場に見学に行ったときにも「システム系をやるか、電子回路のほうに携わりたいか」というのを聞かれて、私は業務でもパソコンを使っているからシステムのほうが近いのかな……みたいな考え方でいたんですよ。

でも、そのときに「大事なのは自分がなにをやりたいかで、やりたいことさえあれば経験が全然なくてもまわりの人がサポートしてくれるし、できるから」と言われて。

本業ではお客さまのニーズに合わせて調査をしたりしますし、最近そういうふうに「自分がなにをやりたいか」みたいに考えることが少なくなっていたなあと思って、思い切って一番本業とは遠い、システムでもないほうの開発を選びました。

リーマンサットでは、今まで出会ったことのない種類の方にも出会えました。たぶんエンジニアの中では普通だと思われる会話が飛び交っていて、それが全然分からなくて家で調べたりして(笑)。そういうのもすごく新鮮でした。

メンバー全員が本当に好きでやっているので、イヤイヤやっている人もまったくいない。本当にみなさん、自分の時間を犠牲にして、いいものをつくりたいという人ばかりなので、それが楽しいな、と思います。

―このプロジェクトに参加することで、ご自身の中で本業の位置づけも変わりましたか?

リーマンサットの活動は、リモートで夜10時からミーティングが始まったりするんですけど、全然つらくないというか、結構楽しんでできているので、本業の仕事でも最近ちょっとそういう気持ちを忘れかけていたかもな、と気づかされました。

やっぱり仕事上でももっと新しいことに挑戦して、いつも新鮮な気持ちで楽しみながらやれたら……という気持ちになっています。自分が新しく始めてみたいことを社内外問わずどんどんやっていって、結果的にそれも仕事の成果につなげられればいいな、と思います。

―これから社外での活動を始めたいと思う人にアドバイスがありましたら。

仕事が終わった後に帰って寝るだけ……というだけじゃなくて、「息抜き」みたいな感じで自分が今までできていなかった楽しい活動をすると、頭を切り替えてリフレッシュできるし、職場と家以外に充実した時間をつくれます。

家で宇宙開発のドキュメンタリー番組を見て楽しむというような方法もありますが、やっぱり自分がつくったもの、携わったものが実際に宇宙を飛んだり、世に出たりするというのは、家で完結するよりもすごく楽しいです。

普通の日常生活では味わえないことかな、と思うので、迷っていてやってみたいことがある方は、ぜひやってみたらいいんじゃないかと思います。もし宇宙に興味のある方がいましたら、リーマンサット・プロジェクトでは、いつでもメンバーを募集しています(笑)。

株式会社インテージヘルスケア リサーチャー 三好彩子
東京都出身。大学卒業後、犬・ネコ専門病院で獣医として勤務。その後、株式会社インテージヘルスケアに転職し、医薬品のマーケティングリサーチに従事。本業の傍ら、2019年から民間宇宙開発団体の「リーマンサット・プロジェクト」に参加。超小型人工衛星「RSP-01」の開発と運用に携わる。

[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 伊藤圭

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