大ヒット下着を開発、クックパッドで食育改善。課題解決トップランナーに聞く「VUCA時代のキャリア」

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コロナ禍でますます先行きの見えない今の時代、自らのキャリアを考え、持つべきスキルを磨こうとしても、そのスキルは今後も必要とされるかどうか、確証はありません。そもそも所属している企業の将来性や行く末も、なんら約束されていることはありません。

そんな将来の予測が困難な「VUCA」の時代(※)に、自分の納得のいくキャリアを築くために大切なことはなんでしょうか。自らの強みを見いだし、支えとなるスキルをいかに磨いていけばよいのでしょうか──。

そうした現代のビジネスパーソンにとって指針となりうる、ある種 ”ロールモデル” とも言えるようなキャリアを築いてきた一人が、クックパッド株式会社(以下クックパッド)コーポレートブランディング部部長を務める横尾祐介さんです。

大手電機メーカーから下着メーカーのトリンプ・インターナショナル・ジャパンへ転職し、男性社員でありながら女性向けのヒット商品を開発。その後、異業種のクックパッドに転職し、今はフードロスの削減や食育などに取り組み、課題解決を通じて企業理念の達成を目指しています。

「営業→マーケティング→コーポレートブランディング」と、業界も職種も異なるキャリアを歩みながら活躍を続けてきた横尾さんに、この変化の時代におけるキャリア形成のヒントを語っていただきます。

※VUCA(ブーカ)とは…ビジネス環境や社会などあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難な状況を意味する造語

クックパッド株式会社 コーポレートブランディング部 部長 横尾祐介さん
大手電機メーカーを経たのち、トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社にて複数のブランドマネージャーとして活躍。コンフォート下着のブームの先駆けとなった「スロギー ZERO Feel」などヒット商品を企画。現在はクックパッドにて料理の価値のリブランディング活動を行う。中高校の食の授業やフードロスをテーマにした「クリエイティブクッキングバトル」や「クックパッドの家庭科」など、社会課題を料理の観点から捉えた企画を生み出している。

「これって楽しい?」で決めてきた

─クックパッドのオフィスは恵比寿から横浜にある「WeWork みなとみらい」に移転されたんですね。

普段、社外で仕事することが多いので、まだこのオフィスに慣れてなくて。360°フィードバックで社内メンバーに評価してもらうことがあるのですが、社内メンバーよりも社外メンバーのほうが一緒に仕事している時間が長いので、評価してもらう人に悩むくらいです(笑)。

─横尾さんが手がけているのは、チームでいかにフードロスを独創的に減らせるか競う「クリエイティブクッキングバトル」や中学校・高校で食に関する授業を行う「クックパッドの家庭科」など、対外的な仕事が多いですよね。

クックパッドでは「毎日の料理を楽しみにする」をミッションに、レシピサービスの他にもさまざまな事業を行っているのですが、僕の所属するコーポレートブランディング部では、まだ積極的に料理をしていない人に向けて、料理の価値を知ってもらい、「風土を耕す」ようなことをしているんです。

料理って、人にとっては欠かせないものであり、毎日食べるもの。食材の調達から廃棄まで考えると、さまざまな人が関わり、社会全体へ影響のあることですよね。これほど日常的な行為で社会にインパクトを与えられることって他にないと思うんです。それを「楽しみにする」ことで、社会や地球をよりよくできるのでは、という思いから、会社として料理にフォーカスしています。

フードロスを独創的に減らせるか競う「クリエイティブクッキングバトル」
フードロスを独創的に減らせるか競う「クリエイティブクッキングバトル」

中でも僕らが企画しているクリエイティブクッキングバトルや家庭科の授業は、まず「楽しそう」という感情から始まるというのが、ポイントになっています。

まだ料理していない人に、いきなり料理の話をしても、なかなか興味が持てませんよね。社会課題に興味がないのに、「今日はフードロスの話をします」と呼びかけても、聞く気にはなれない。それなら、相手が興味のある話から「実はこの課題につながってるんです」という順番にしたほうが、興味を持ってもらえる可能性が高いはず。

例えば、この間男子校で行った授業では、まず「自分好みのトマトパスタを作ろう」と、プランニングから食材選び、調理、振り返りとPDCAを体験してもらって、それから実際に使った食材に着目して環境問題について学んでもらいました。

「自分好み」だから、ゴールは一つじゃないし、100人いたら100通りのパスタができる。そこに自分らしさを表現する楽しさを体験してもらいたいなと思って。

横浜聖光学院で行われた「クックパッドの家庭科」の授業の様子
横浜聖光学院で行われた「クックパッドの家庭科」の授業の様子

─たしかに社会課題、サスティナビリティ、SDGs……話題にのぼる機会は増えていますが、自分ゴトとして考えられる機会は、まだそう多くないのかもしれません。

でも僕らのミッションを達成するには、まだ興味を持っていない人、まだ知らない人にも届くように伝えなければならない。一人でも多くの方に意識してもらって、世の中を自ら変えていこうというアクションにつながっていかなければならないんです。

企画を考えるときは、いつもそういった視点を意識しています。「これって、楽しい?」って。どんなにやる意義があっても、楽しくなければ全部やり直しだって思うくらい、大切にしていますね。

自身で開発した「下着商品の大ヒット」が転機に

─そういう考え方をするようになったのは、なにかきっかけがあったのですか。

前職の経験がやはり大きかったんですよね。ランジェリーのブランドマネジャーを務めていたのですが、機能性が優れているからといって、売れるとはかぎらない。デザインの美しさや、着ていて「アガる」かどうか、そのランジェリーが持つストーリーに共感できるかどうかも、とても重要なんです。

─前職で手がけた『スロギー ZERO Feel』はまさに、ストーリーが見えるランジェリーですよね。ストレスフリーで着心地のよさを打ち出した商品は、当時珍しかったと思います。

それまでにも快適性や着心地のよさを重視したランジェリーはあったのですが、売場の片隅にあって、購入されるのはわりと年配の方が多かった。デザインもベージュや黒など落ち着いたものばかりだったんです。

でも、そもそも快適なものって、年代や趣味嗜好問わずみんな好きなはずじゃないですか。おそらく機能的に「YES」であっても、それ以外の要素が「NO」だから、多くの人に受け入れてもらえてないんじゃないか、と。

オン/オフを切り替えて、オフのときには自分らしく、楽なものを身につけたい。でもだらしないのはNGでおしゃれを楽しみたい、という人にとって、快適な下着とはどういったものだろうと考えていった結果、生まれたのが『スロギー』だったんです。

そういった方々に訴求するために重要なのは、やはり機能性以上に「オフのときにどうありたいか」という価値観なんです。その人の生活やそのときどきの気分にきちんとフィットしてはじめて、機能が受け入れられる、という順番。これは今やっていることとも通じていますね。

アウェーで見いだした自分の強み

─お客さまも販売スタッフも女性がほとんど。なかなかアウェーな環境だったのではないかと思うのですが……。

前職、​スロギーのブランドマネージャー​時代
前職、​スロギーのブランドマネージャー​時代

一見難しそうな状況でしたが、そこで自分の強みを身につけられたんです。売場にいらっしゃるお客さまがどんなことを考え、どんな行動をしているか分からないから、とにかく観察して、スタッフにもたくさん話を聞いた。

ツイッターでさまざまな声を拾って、ターゲット層の女性がどんなことに関心を持っているのかを調べて、自分でジュースクレンズやヨガをやってみたりもして。どうすれば売れるのか……というより、どうしたらもっと喜んでもらえるのか、をずっと考え続けていました。

そうすると、自分が当事者ではないからこそ、見えてくることがあるんです。例えば、商品開発するとき、女性社員の多くは「ストラップは肩に食い込むのはあたりまえ」と思っているけど、「いや、それって食い込まないほうがよくない?」と、当事者ではないから感じたことを率直に話すと、「たしかにそうですね」って。

はじめのうちはやっぱり、気に留めてもらえないんですよ。「使わないあなたにランジェリーが分かるの?」って。

でもとにかくお客さまの声をたくさん拾いあげて、データを集めて、「お客さまがこう言ってるから」という視点で話すようになると、少しずつ耳を傾けてもらえるようになった。

僕の場合、性別も違いますし、自分の着用経験が参考にならないから、お客さまのデータを調べたり聞き込みをしたりしなければならない。自分の「これが作りたい」という意見より、「これがほしい」という声に真摯に応えるしかないんです。

でも意外と、そこまで徹底的に調べる人は少なかったみたいで、それが自分の強みになったんです。

見通しが立たない今こそ、支えとなる基礎を

─そこからヒット商品を世に送り出して、成功体験を積み重ねていた中、クックパッドへ転職を決めたのはなぜだったのでしょう?

13年勤めていましたし、0から1にするところはやりきったという思いはあって。そろそろ転職を考えてみようと企業を調べてみるうち、紹介してもらったのがクックパッドでした。

人が生きるのに必要なのが「衣・食・住」だとして、ブラジャーがなくても人は生きていけるかもしれないけど、食がなければ生きていけない。ただ、「食」といっても、出されたものを食べるだけでは、作る人と食べる人の関わりは一方通行。

でも、「料理をする」なら、作る人と食べる人がいることで、自分のため、相手のためという視点が生まれる。食材選び一つ取っても、農家や生産者……さまざまな人が関わっていく。世界にインパクトを与えられるチャンスがあって、自分の目指す世界観に近いな、って。なにか面白いことができそうだなと、思いました。

─転職時になにか意識していたことはありますか。

僕の場合は、1回目の転職では「若いうちから仕事をまかせてもらえる」、2回目は「食やライフスタイル」みたいな、ざっくりとしたキーワードはありましたけど、逆にそのくらいの粒度で十分なのかな、と。

関心領域はそのときどきで変わっていくだろうし、働いていく中でまた新たなポイントや気になることが出てきて、その期待を満たせるような環境を探してみる。その繰り返しで、環境が変わっていくことで成長していけるのではないかと思います。

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─キャリアを通じて、支えになったスキルはなんだとお考えですか。

よく「T型人材」というけど、僕の場合ラッキーだったのは、たまたま上司に恵まれて、前職でマーケティングの基礎を叩き込まれたということ。そして、それは枝葉のスキルではなく木の幹とも言える基礎的なスキルだった。それがT型で言うところの縦軸になったんです。

今回、コロナ禍で予期せぬことがたくさんありましたが、基礎があれば状況が変わっても業界が変わっても対応できるんですよ。

多くの人は、これまでの手法を手放して、違う手法を試すことに恐れがあるかもしれない。でも、それまでやってきたことがうまくいっていたのは、お客さまに価値を感じてもらって、その価値をきちんと伝えられていたから、ということ。

もし変えることが怖いなら、自分たちが提供している本質的な価値に、自分たち自身も気づけていない、ということなのかもしれません。

自分の「強み」は社外に出て気づく

─不確かなときほど、基礎が大切になってくるわけですね。

でも、僕自身、その基礎に気づけたのは、転職してからでした。前職にいたときは、上司である社長や本部長が本当に優秀で、「自分はこの人たちみたいにできないな」って、自信を失うばかりだった。

それが、他の会社に行くと、「すごい、そう考えればいいんですね」「ちょっと教えてほしい」とか、客観的な評価をもらってはじめて「あ、自分の能力って武器になるんだ」と認識したんです。意外と社外に出てみると、自分の強みを分析できるかもしれません。

大前研一さんが「自分を変えるには、時間配分を変えて、住む場所を変えて、付き合う人を変えればいい」と話していますけど、本当にそのとおりだなって思います。

会社の外で自分の強みを認識して、それを活かして社内でも成果を出せるようになると、自信につながる。自分のスキルを客観視して、自分のウリがなんなのかを明らかにすることで、副業にもつなげやすくなると思います。

転職や副業をしなくても、社内異動だっていいと思うんですよ。そうやってできることから少しずつ変えていって、意図的に自分自身の変化を促すことが、自分の強みを磨くことにもつながるんだと思います。

[取材・構成] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [写真] 伊藤圭

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