本当にやりたいことは「社外コミュニティ」で。ゆるい連帯で学びとイノベーションを生む横濱OneMM

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「会社=キャリア」の時代が終わり、現在は個人の好きなこと、やりたいことが重視される「個の時代」に突入しています。しかし、個人的にやりたいことをどう実現すればいいか分からない、自分のスキルや知識を会社以外で活かせるところがない、学びを得るのに一人で座学はなかなか身が入らない、という人も多いのではないでしょうか?

そんな中、注目を集めているのが「社外コミュニティ」です。社外コミュニティとは、有志が集まってプロジェクトを立ち上げたり、学びの場を提供し合ったりと、会社と家庭以外で個人が人生を充実させるための「サードプレイス」となっています。

「横濱OneMM」もそんなコミュニティの一つ。義務なし、会費なし、というゆるいつながりから、数々のユニークなプロジェクトが生まれています。主要メンバーである高野俊行さん(日揮ホールディングス株式会社)、福島隆寛さん(NTTテクノクロス株式会社)、大辻羅さん(ルーデンス株式会社)に、このコミュニティの成り立ちや活動についてお話を伺いました。

横濱OneMMの参加者のみなさん
横濱OneMMの参加者のみなさん

餃子屋で始まった地域コミュニティ

―「横濱OneMM」が立ち上がったきっかけは?

高野:「ただの飲み会」からスタートしたような感じなので正確な「立ち上げ」というのは難しいんですが、始めは大企業の有志団体が集まる「ONE  JAPAN」で出会った横浜で働くメンバーが10人ぐらい、野毛の餃子屋でワイワイ集まったのがきっかけです。

日揮、NTTテクノクロス、富士ゼロックス、野村総合研究所などの社員が最初に集まって、「横濱OneMM(OneMinatoMirai)」、通称「おねむ」を結成。その後、みなとみらい周辺にも広がり、現在の規模になりました。

左から高野俊行さん、福島隆寛さん、大辻紗羅さん
左から高野俊行さん、福島隆寛さん、大辻紗羅さん

―メンバーは何人ぐらいで、どんな人たちですか?

福島:基本的にメンバー登録はないんです。でも「Slack」でやりとりしていて、その登録人数が今179人。30代がボリュームゾーンです。会社である程度経験を積んで、なにかをやりきれる能力とスキルがある年代なのかな、と思います。みなとみらいはR&D機関が多いので、技術職が多いですね。

高野:男女比率では7:3ぐらい、年齢的には大学生・新入社員から60代までいます。60代は1人、うちの親父です(笑)。メンバーになるには横浜にオフィスのある企業で働いている、または過去に住んだことがあるなど、なにかしら横浜とゆかりがあることを一応の条件としているんですが、父は自分の個人会社の登記を変えてまで参加してきて、若いメンバーと一緒に『おねむビール』作ろうか、みたいな話をしています。

大辻:自分にとって快適なコンフォートゾーンに収まらず、常にチャレンジしているかぎり「若手」と言っていいんじゃないかと。そういう意味での「若手」がすごく多いコミュニティだと思います。

―コミュニティというと、「興味」とか「テーマ」で集まるのはよく聞きますが、「場所」で集まるのはユニークですよね。

高野:地域をタグに集まるコミュニティはなにかあったときにすぐパッと集まれるんですよ。例えば、僕が午前11時ぐらいに「今から餃子食いに行こうぜ!」と言ったら、近くの店に来れる人が正午に集まって、食べながら仕事の話などをして、元気をもらって午後の仕事に戻る。この気軽さが、地域ハブの良さだと思います。

大辻:あと、みんな横浜が好きで、このエリアの社会課題に対して関心が高いというのもコミュニティの出発点としていいのかな、と思います。

福島:地域の人たちが応援してくれるのもうれしいですね。みなとみらいにはイベントスペースや大学もありますが、「協力したいのでなにかあったら声かけてください」と言ってくれる人が結構いるんですね。まわりから「頑張っているよね」「面白い取り組みだよね」と認めてもらえるのもすごくモチベーションになります。

「この指とまれ」で始まるプロジェクト

―これまでの活動内容やペースはどのようなものですか?

高野:「おねむ」は「この指とまれ式」のプラットフォームです。やりたいことがある人はプロジェクトマネジャー的にSlackにチャンネルを立ち上げて、そこに集まったメンバーでプロジェクトを始めるんです。例えば「小学生にSDGsを教えよう」とか「ビジコンに出よう」といったプロジェクトが立ち上がる感じですね。

横濱OneMMのSlack
横濱OneMMのSlack

そしてこれとは別に、毎月の全体セッションという形で30人前後が集まっています。コロナ以前は各社のホールを順番に借りてワークショップをしたりしていましたが、コロナ以降は全部「Zoom」でやっています。

―毎月のセッションはどのようなものですか?

大辻:「仲良くなる系」のイベントと、勉強っぽいイベントを毎月交互にやっているイメージです。例えば、『エクスポネンシャル思考』を出版されている斎藤(和紀)さんをお呼びして、「世界はこれだけ激しく動いている!」というプレゼンをやっていただいたりとか。

各自が10分間話せるネタを持ち寄る回もあります。例えば、「デザイナーが仕事をしやすくなる依頼の特徴」とか、「野毛の誰も知らないお店10選」とか。オンラインで部屋を4つに区切って、みんなが好きな部屋に行って10分間プレゼンを聴いて、10分間ディスカッションをして……というのをやります。素人だと侮るなかれ、みんな結構面白いネタや学びになるネタを持っているんですよ。

―一方、「仲良くなる系」のセッションは?

高野:6月は福島さん主催でリモートで餃子を作ろうというのをやって。本業で料理レシピ開発に携わるメンバーが本格的な餃子の作り方をライブ配信し、参加者はそれを聴きながら各自の自宅で見よう見まねで餃子を作り、最後にZoomの画面にお披露目して「はい、できました!」という、ただそれだけのイベント(笑)。だけどめちゃくちゃ楽しかったですね。

福島:だいたいみんな餃子作るのヘタなんですよ。ビジネスだったら「オレにまかせとけ」みたいなすごい人もめちゃくちゃヘタな餃子を作ったりとか(笑)。「あの人も苦手なことあるんだな」と、気持ちをフラットにする場づくりを目指しました。ただ餃子が食べたかったわけではありません(笑)。

「ゆるさの設計」がワクワクを生む

―「おねむ」の企画・運営はだれがどのようにしているのですか?

高野:リーダーは置いていないんですが、「サポーター」という盛り上げ役を務める有志メンバーが15人ぐらいいて、そのメンバーでなにをするか話しています。でも、そこで決めるのはセッションをいつにするとか、次のテーマとかぐらいですかね。メンバーのタスクも、会費とかもないです。団体じゃなくて「場」なんですよね。

―自由な集まりなんですね。

高野:僕らがすごく大事にしているのは「ワクワクしようぜ!」なんです。「おねむ」を始めたモチベーションも「社会を、会社を、変えてやるぞ」と燃えるよりも、とりあえずワクワクしていようよ、というのが最初にあったと思います。

なので、僕らがコミュニティをつくるときに一番大事にしていたのは、「ゆるさの設計」です。本当に気軽に、時間があるときに来てもらう。で、なにかやりたいことがあれば、手を上げて人が集まる。これを気兼ねなくできる雰囲気を作りたい、と。このゆるさを設計できると、各自がワクワク、自分がやりたいことをやろうという風になってくる。そのために「おねむ」の「ゆるキャラ」も作ったんですよ。

福島:ペンギンって冷たい海に飛び込むときに必ず最初に飛び込む勇気ある「ファーストペンギン」がいて、2匹目の「セカンドペンギン」が続くことによって3匹目、4匹目が続き、最後は爆発的に全員がバーッと飛び込むんですよ。

同じように僕らもなにかやりたいと思った人が手を上げると、それに対して「いいな」と思った人たちが立ち上がる……そんなイメージです。デザイナーの(大辻)紗羅さんが作ってくれました。

大辻:このキャラクターもゆるさを意識して作ったものです。 「おねむ」の「大切にしていること」や「こうありたいな」の象徴として、3匹のペンギンをデザインしました。地域性を出すためにみなとみらいにあるホテルの造形をモチーフにし、頭の上には横浜の歴史的な建物をあしらっています。『横濱3ペン物語』と名づけました。

「eスポーツ×ゴミ拾い」で社会課題を解決

―「ワクワク」を大事にしている、と。みなさんのワクワクはなんですか?

福島:「環境問題」とか「フードロス」とか、あまり興味のない人が知らず知らずのうちに社会課題を解決してしまうような、仕掛けを考えることがワクワクです。

ゴミ拾いイベントの様子
ゴミ拾いイベントの様子

今やっているのは、ゴミ拾いとeスポーツを掛け合わせたイベントです。友人がSNSで「ごみ拾いを始めた」と投稿していたのをきっかけに、eスポーツとかけ算できないかな、と思ったのが始まりです。「おねむ」やほかのところで話したら、ゴミ拾い活動をしている団体にもつないでもらえて。ある程度まとまったところでSlackに投稿して、参加者を募りました。

ゴミ拾いの前半戦と後半戦の間にeスポーツ大会があって、そこで勝つと、「横浜の地理に詳しい人」か、「ゴミ拾いを有利に進めるための道具」か、「ゴミ拾いのプロ」を選べる。その有利なアイテムを使っていかに多くゴミを拾えるかを競います。NHKに密着取材されたりとか、ほかの局の番組でも俳優の方たちが参加したりとか、雑誌や新聞にも取材されて結構注目されました。

当日は子どもたちが大勢来て、小学4年生ぐらいの子に感想を聞いたら、最初はやっぱり「ゴミ拾いは面倒くさい」、「やりたくない」と言っていたんですね。それで帰るときにもう1回聞いてみたら、「楽しかった。またやってみたい」というのがあったりして。参加した俳優さんたちもみんなで盛り上げてくれたので、すごく嬉しかったですね。

大会の公式Tシャツも製作
大会の公式Tシャツも製作

複数の会社でスキルを活用する「ミライスト」構想

―高野さんのワクワクは?

高野:僕のワクワクはまず、横浜で「組織の壁を超えて自由に働ける文化」をつくることです。

僕はプロジェクトマネジメントが得意なんですが、例えば火曜日は資生堂、水曜日は野村総合研究所、木曜日は横浜市役所で働いて、金曜日にまた日揮に戻ってくる……というように、複数の場所で自分のスキルを活かせるような仕組みを考えています。横浜は企業同士で戦うのではなくて、大きなエコシステムとして他の地域と戦っていくような、そんな文化をつくりたいですね。

―高野さんがそれを思いついた背景は?

高野: Slackの中のなんでもないやりとりだったと思います。僕が「インパクトのある名刺がほしいなあ」と言ったら、富士フィルムの開発の方が「じゃあ『チェキ』(その場で印刷できる富士フィルムのインスタントカメラ)の下地に僕の情報を入れておいて、そこにその場で撮った写真を合わせて名刺として渡せるようにしてみたらどう?」と。

そうしたらデザイナーの方が「じゃあ、私デザインやろうか」となって、「そしてプロトタイプ作ってみよう」と、本当にパパパパッとこういう会話が生まれたんです。こういうアイデアの重なりって仕組み化したら絶対面白いと思ったんですよ。

開発した写真つき名刺
開発した写真つき名刺

一つの会社だけでやると、視点が圧倒的に少ないですよね。やっぱり外の視点を入れながら生まれる事業やアイデアは全然違うなあ、と。そうした複数の場所で自分のスキルを活かせるような仕組みづくりを「ミライスト」という名前にして進めているところです。

これまで、横浜市立大学が主催した「横浜をつなげる30人」というプログラムの一環で「ミライストラボ」というイベントを2回やりました。だれかが持ってきた課題に対して、みんなで解決法を考えるという活動です。例えば、街のあるレストランで開発した新メニューをヒットさせるためにはどうすればいいか、というようなアイデアです。

この仕組みについて横浜市の林(琢己)副市長にプレゼンする機会もあって、これから横浜市役所とも連携しながらやっていくことになりました。横浜市が動けば、日本の会社もちょっとずつ動いていくはずです。最初にどこかを動かすのが重要だと思っています。

副市長へのプレゼンの様子
横浜副市長へのプレゼンの様子

「やりたいことはやっていい」

―社外コミュニティに参加したことで、みなさんのキャリア観は変わりましたか?

福島:私の父親世代は「会社=キャリア」だったと思うんです。それが会社も「持って30年」みたいな時代になってきたので、社外コミュニティは、自分はなにが好きなのか、自分はなにが得意なのか、をあらためて考えさせられる場所になっているんじゃないかな、と思っています。

大辻:会社だけでは数名としか話す機会がない。それが「おねむ」に所属することですごく世界が広がりました。みなとみらいって、こんなに面白い人がたくさんいたんだなと正直驚きました。人材も豊かですし、企画の編み方も個性的だな、と思います。

高野:一番大きな変化は「自分がやりたいことをやってもいいんだ」というところですね。僕は日揮の人と文化が大好きで、いつかは日揮の社長になりたいと思っているんですけど、一方で大企業の中ではできないことってあるじゃないですか。

例えば、僕は人生を『ドラクエ』にして、自分のスキルを数値で見えるような世界をつくりたいと思っているんですが、大企業の中でやるのはハードルが高い(笑)。そんなときに「おねむ」で「やりたい!」と言ったら、パッと人が集まってくれて、「じゃあやってみようか」となる。まだ話し合いをしているだけですが、目指すは土日副業での事業化です。

「本当に自分がやりたいことはやっていいんだ」ということが分かった、そう思えるようになった、というのが社外コミュニティの面白さかな、と思います。

それに、本業だけでは知り合えない人と知り合って、一緒にプロジェクトをやることで信頼関係が築けるという点も大きいです。「おねむ」のつながりで行政や銀行の担当者を紹介してもらうこともあって、それが本業で新規事業開発を進めるときも大きな助けになっているんです。

―そんなみなさんにとって本業はどういう位置づけですか?

高野:本業は僕にとって重要なハブですね。僕は日揮で海外経験もあり、プロジェクトマネジメントとか、チームビルディングとか鍛えられてきました。それがあるからこそ、「おねむ」で僕が貢献できることがあるのかな、と思っています。

大辻:本業と「おねむ」は「2本の柱」。会社で身につけたスキルを「おねむ」に活かしたいと思うし、逆に「おねむ」から得たものを会社にも伝えていければいいな、と思います。

福島:「おねむ」での活動は、自分の組織から飛び出して「越境」しているようなものだと思うんです。越境しただけでなく、戻るところがあるからこそ、自分を見つめ直すことができるんじゃないか、と。

2人が言うように、会社で鍛えられたスキルがあるからこそ「おねむ」に貢献できるし、「おねむ」で得たものを会社にフィードバックしていくという良いループ。それをどんどん循環させて、自分も会社も「おねむ」も世の中もより良くしていけたらいいな、と思いますね。

日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部プログラムマネージャー 高野俊行
プロジェクトエンジニアとして、海外プラント建設に15年従事、その後社内DX推進チームリーダーを経て、現在は新規事業として中小企業を対象にしたDXプロジェクトマネジメントサービスの開発を主導。趣味は宴会幹事と漫才。

NTTテクノクロス株式会社 デジタルトランスフォーメーション事業部 第四ビジネスユニット兼経営企画部 経営推進部門 福島隆寛
社内の実践コミュニティや横濱OneMMなど多数のコミュニティに関わりながら、組織の壁を超えてさまざまな人びとと協働。近年は “楽しさで人をつなぎながら、“楽しさの力を使った社会課題解決手法の開発に取り組んでいる。

ルーデンス株式会社 プロデュース1部 大辻
企業プロモーションの制作を行いながら、「LABOSARAHのさら」としてアーティストとしても活動を行う。表現の幅は広く、クリエイティブを通して地域・社会・人と新しいつながりを生み出したいと模索中。趣味はオフロードバイクと空手。

[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 伊藤圭

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