ビッグデータから導き出した、コロナにも負けないこれからの幸福な働き方。日立・矢野和男さんに聞く

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人はなんのために働くのか――。「お金を稼いで家族を養うため」「自身の成長を実感するため」「世の中に貢献するため」など答えは人それぞれでしょうが、そうした答えの一つひとつも結局は「幸福になるため」という究極的な目的を達成する手段と言えます。

では、日本人は働くことで幸せになっているのでしょうか。残念ながらそうとは言えないようです。今年3月に国連により発表された最新の世界幸福度ランキングで日本は62位。年々順位を下げています。日本は依然としてGDP世界3位の経済大国ですが、経済的な豊かさは必ずしも幸福につながっていない現状があります。

国主導の「働き方改革」を待たずとも、私たち一人ひとりが働き方を見直す必要があります。また、働く個人がそうやって自身の幸せに自覚的になれば、いい人材を集め、高いパフォーマンスを発揮してもらいたい企業としても無視はできないはずです。

そこで今回は、ビッグデータの解析により社会の幸福度向上を目指して先駆的な取り組みを続ける日立製作所・矢野和男さんにお話を伺いました。幸福な働き方とはどんなもので、幸福度とパフォーマンスにはどのような関係があるのか部下の幸福と向き合うために上司はどう振る舞えばいいのでしょうか。特に「Withコロナ」のこの状況で意識すべきこととは――

変化を前に揺るがないのは「目的」にコミットする人だけ

そもそもなぜ幸福に関する研究を始めたのですか?

インタビューは矢野さんのご自宅の書斎とZoomをつないで
インタビューは矢野さんのご自宅の書斎とZoomをつないで

いろいろなところで答えてきたのと同じ話をしても面白くないので、今回は新型コロナウイルスに絡めて話してみたいと思います。コロナウイルスが広がったことで、さまざまな環境要因が劇的に変わっていますよね。それまでのように自由に外に出られなくなった。食事に行ったり、旅行に行ったりというさまざまな行為が制限されている。でも、もちろんできることもあります。

興味深いことに、いろいろな会社の人と話をしていると、もちろん業績が厳しく苦しいというところもあるけれども、それほど変わっていないというところもあったり、「あまり大きな声では言えないが、実は需要が増えているんです」というところもある。

でも、こうした変化というのはコロナに限った話ではありません。常に起こっているのです。私は若いころからドラッカーを読むのが大変好きで、尊敬もしていますが、ドラッカーは「未来は今あるものとも我々が予測するものとも違う。未来は知り得ない。我々が未来について知っているのは『知り得ない』という事実だけだ。未来について最も有効なのは我々自身で作ることである」という趣旨のことを言っています。つまり、変化は不可避に起きるし、過去の経験から予測してみたところで、所詮は浅知恵だということです。

そういう意味では、私も過去に大きな変化に直面しました。会社に入って20年ほどは半導体の研究をしていたのですが、日立が半導体事業から撤退することになった。日立の半導体事業は20年間、技術としてもビジネスとしても世界を引っ張る立場にありました。私もその一員として毎日楽しくやっていた。それが一夜にして……というわけではないけれども、わりと短期間のうちに、ナンバーワンの地位から転落どころか、撤退ということになった。でも、こうした例は別に珍しいものではありません。未来はもともと不確実で、人生だってビジネスだって我々は読めない。

そうした変化に対して強い人と弱い人……いや、「人」と言うと語弊がありますが、強い力を持っている主体と、そうでない主体とがあります。両者を分けるのはなにか。変化が起きた時にまずダメになるのは、変化する前の状況に合わせて「手段」を提供している場合です。逆に変化を前にしても影響を受けないのは、簡単には変わらないような「目的」の達成にコミットしている場合。コミットしているのは「目的」だから、状況に応じて「手段」は変わっても構わない。そう言い切れれば、コロナがあろうとなかろうと、AI時代が来ようと来まいと関係ないわけです。

私の場合は20年間、心血を注いできた分野やスキル、そうした手段が一夜にして無に……いや、実は無になんてなっておらず全部使えているのですが、表面的に見ると使えなくなることを経験した。あるいははるかに遡って大学時代、私はジャズサークルに在籍していて、その中でもまずまず活躍するサックス奏者でした。でも、ある時自分なんかでは全然敵わない若い人が新人として入ってきて、「ああ、いくらサックスを上手に吹くことを追求したところで、もっと上手な人が出てきたら意味がないんだ」と気づかされました。いい音楽を届けて人を感動させることが自分の仕事だと思っていれば、誰が入ってこようとも、手段が変わるだけで、自分の価値は変わらないはずでした。けれども、当時の私はサックスを上手く吹くという手段にこだわっていたんですね。

こうしたいくつかの経験により、私は「手段にこだわることは、変化に対して極めて弱いのだ」と学びました。そこで、これからは手段ではなく目的にコミットしようと考えるようになったのです。

では、どんな変化にも揺るがない最も上位の目的とはなんでしょうか。それが「幸せ」です。古代ギリシャ時代にアリストテレスは、なんの説明もいらない唯一のもの、すべての活動の目的、それを幸せと呼ぶのだと言いました。「幸せのためにお金がほしいという文章はあるが、お金のために幸せがほしいとは言わない。したがって幸せのほうが上位である」と、『ニコマコス倫理学』という一番有名な幸せの本に書いてあります。つまり、最も揺るがない上位の目的、それを人類は幸せと呼んでいるのです。

半導体がダメになった後、今度はディスプレイだ、ハードディスクだとやっていたら、おそらくはなん年後かにまた、同じように世の中の変化に翻弄されていただろうと思います。私はそうではなく、より一貫して自分が心血注いだことが世の中に役に立つ状態を作るには、より上位の目的からスタートする必要があるし、それをカタチにするためのスキルやナレッジを持つ人、あるいはチームを作っていく必要があると考えました。

一方ではこの時期、データを扱うことの重要性も強く認識していましたが、機械学習をするにも統計分析をするにも、目的がなんなのかが定まっていなければ使うことはできません。だから、どんな変化にも揺るがない目的と、これからどんどん増えていくだろうデータ、それはデータを取ることもそうだし、解析することも、解析するためのエンジンであるAIを扱うこともそうですが、それらを掛け合わせることで、より揺るがない形で一生かけてコミットできるテーマを追求したいと思うようになりました。

これが先ほどの「なぜ幸せについての研究をするようになったのか」というご質問に対する私の答えであり、経緯です。

働くとは、実験と学習を絶えず繰り返し、成長し続けること

たしかに揺るぎない究極の目的という感じですが、「幸せ」と言えば、一般的には人それぞれ違うものというイメージ。扱いづらいところがあるのでは?

どうすればより良い状態になれるかという手段はたしかに人によって違います。ですが、幸せな状態になった時にどんな変化が起きるかという点では、私たちは極めて普遍的な体験をします

例えば、さまざまな物質の輸送網である血管と血液に変化が起こる。血管の収縮が起き、その中を流れる免疫物質などさまざまな物質の量が変わります。また、力学的なエンジンである筋肉が収縮したり弛緩したりして、内臓が変形する。別の意味のネットワークである神経網もいろいろと動く。このような生理的なフィードバックが起こります。

なぜそういうフィードバックがあるのかといえば、「これは良い状態なのだからもっと追求しなさい」、あるいは逆に「これは危ない状況だから一刻も早く逃げなさい」と体が教えているわけです。そういうフィードバックを持った種や個体のほうが生き延びられた。種の繁栄がなされていた。人間の体は何十億年という進化を経て、そういうフィードバックを持つに至っているのです。

それ以外に「なぜ我々に幸せという状態があるのか」という問いに対する合理的な説明はないと私は思っています。こうした意味で、このフィードバックシグナルを大いに活用し、発展させるというのは、極めて合理的な目的だと思っています。

今お話ししたのは幸せな状態とはなにか、その時に体にどんな変化が生じるかという話ですが、一方ではこの20年で並行して、心理学や経営学などの分野で幸せに関する科学的な研究が盛んになりました。その結果分かったのはまず、遺伝的に幸せになりやすい人とそうでない人がいるということ。「遺伝的に」だから、これは非常に変わりにくい部分です。

生まれながらに幸せになりやすい人とそうでない人がいる。

逆に変わりやすい部分もあります。その一つが、例えばボーナスをもらったとか宝くじが当たったとかいう、外から与えられる刺激です。こういう刺激が与えられると当然、良い気分になりますが、あっという間に元の水準に戻ってしまいます。極めて刹那的で、持続性がないのです。これもおそらくは進化の中で培われた知恵なのでしょう。「そんなことで浮かれていたらダメだ。いつまた状況が変わるか分からないのだから」と体が教えているわけです。

もう一つ、先ほどの宝くじが当たったようなスパイク的なものではないですが、極めて持続的な幸せというものがあることも分かっています。しかも、こちらは訓練や学習によって高められる。

それは、自分で自分の道を見つけて、行動を起こし、うまくいかなくてもめげずに立ち向かい、さまざまな複雑なことが起きても、その中でポジティブなストーリーを自分で組み立てられること。シンプルに言うと、前向きな心が大事だということです。心理学的には「サイコロジカル・キャピタル=心の資本」という尺度で測られるのですが、Hope(希望)、Efficacy(自信)、Resilience(耐難)、Optimism(楽観)の四つから成り、頭文字をとって「HERO with in」とも呼ばれます。これを高めることで、持続的な幸せを得ることができるのです。

実はこのHEROの概念こそが、21世紀に求められる人生の泳ぎ方であり、同時に働き方でもある。私はこれを「実験と学習」と呼んでいます。

20世紀の「働く」とは、例えば洗濯という誰もがつらいと感じる作業をしなくてよくするために洗濯機を作るというような、明らかなニーズを標準的に満たしていく営みだったと思います。ですが、いまやそうした欠乏はある程度埋まっているし、ニーズ自体が多様化し、変化に満ちている。そういう時代においては我々の働き方自体も、マニュアル化して横展開するという、ある種固定的なやり方では追いつかない。そうではなく、常に実験と学習を繰り返すことによって前進していく。人、組織、あるいはチームとして成長していくようなものでなければなりません。

ある事柄について、それまではどういうことか分からなかった人たちが、より先や周りを見通せる人へと成長していく。そのサイクル自体が会社にとっての資産です。20世紀における投資は工場や発電所を作るなど、お金を作るたびに箱ができるという類のものでしたが、先ほどのような理屈から考えると、そうした需要は下がっていく。重要なのはむしろ人に投資することです。

人に投資をするとは、ミッションや目的の追求のために主体的に実験をさせ、そこから学ばせるということです。しかも、確たる正解がない以上、いっぺんやったら終わりというのではなく、常に、継続的に行う。それこそが21世紀の仕事であり、人や組織をそのように仕向けることこそが投資である。私はそう考えています。

データが示す「いいチーム」の4条件

個人としては前向きに挑戦する心を持つことが大事だし、組織はそれを支援する必要がある、ということですね。

一方で、人は一人では生きていけません。社会的な関係の中で生きている。ですから、信頼できる、共感できる、助け合える人間関係があることも大事です。

これもこの20年くらいで、「心理的安全性」だったり「コレクティブ・インテリジェンス(=集団的知能)」だったりという概念が出てきて、例えばチームで働いた時のパフォーマンスは、個人のパフォーマンスの足し算とはまったく違うことが分かっています。

アメリカの大学が中心になってやったある研究では、お互いに協力しないと解けないような問題を何百チームかに与えて、パフォーマンスのいいチームにはどんな特徴があるかを調べました。すると、一つには、発言権が平等なチームのパフォーマンスは高く、逆に特定の人だけが発言しているようなチームはパフォーマンスが低かった。

また、相手の感情を読み取る力がある人が多いほうがいいということも分かりました。顔写真の目の部分だけを見せて「この人はどんな感情を持っていますか?」というテストを行うと、正答率の高い人が集まっているチームは、チームとしてのパフォーマンスも高かった。逆に、個人的な能力がどうとか、性格がどうとかは一切関係がないという結果が出ました。

同じ時期にグーグルも社内の100を超えるチームのパフォーマンスを研究していて、やはり優秀な人が集まっているからチームのパフォーマンスが高いということはまったくないという結果が出ています。それよりも、発言権が平等だったり、ちょっとバカっぽいことだろうと気軽に相手に質問できたりというような信頼できる関係、まさに「心理的安全性」と呼ばれるものを持っているチームのほうがパフォーマンスが高いという結果が出ています。

ですから、一人ひとりが前向きな心を持ち、常に実験と学習を繰り返すことでチームとして成長していく。これが21世紀の仕事になるということです。当たり前のように聞こえるかもしれないですが、そんなことはありません。業務というと、これまではマニュアルを作り、決められたことをきっちり回すということが大半を占めていました。そこには実験という概念がなかった。もちろん、意識の高い人は個人としてこうしたことを理解していたでしょうが、それが科学的に証明される時代が来たということです。

どういうことに気をつけて働けば幸福度を高められるのか、我々もスマホのアプリを使ってリアルタイムに計測し、フィードバックする仕組みを作りました。「ハピネスプラネット」という名前で非常に幅広い人たちに展開し、この2年くらいで4300人、83社の方々にご参加いただいています。このスマホアプリを3週間使うだけで、先ほどのHEROの値が33%上がるという実証実験の結果も出ています。ですから、先ほどから言っている持続的な幸せは、ちょっとしたことで、テクノロジーを使うことでかなり変えられるということです。

「ハピネスプラネット」
「ハピネスプラネット」

その「ちょっとしたこと」とは?

我々のデータからいうと、幸せなチームには非常に明確な傾向があります。

一つめは、人と人の関わりが平等であること。逆に言うと、ダメなチームは特定の人ばかりがいろいろな人とつながっていて、ほかの人は隣の人ともつながっていない。つながりの数に格差があると、幸せではないし、パフォーマンスも出ません。

二つめは、ダメなほうから言うと、チームミーティングが週に1回だけあって、そこで1、2時間かけて会議をやるけれども、それ以外の4日間は一度も会話がないというチーム。いいチームには、5〜10分でいいので毎日、あるいは1日のうちに何度も短い会話があります。1、2時間の会議は5〜10分の会話の代わりにならないことをデータは示しています。

これだけ確認できれば仕事が進む、あるいはこれが確認できないと進まないという時に、「でもこんなこと聞いたらバカだと思われるかな」とか「忙しいのに空気読めないやつと思われないかな」とか、そういう心配をせずにすぐに聞けるのが「心理的安全性がある」ということの意味です。それは5〜10分の会話が1週間にどれくらいの頻度で埋め込まれているかを見ることで定量化できます。

三つめは、会議なり立ち話なりで一緒になった時に、発言権に双方向性があるといい。逆にダメなのは、ある特定の人、キーパーソンだったりボスだったりが発言権を独占し、ほかの人にちっとも回らないというパターンです。

最後の四つめは、信頼とか共感を示す際に、我々はどうやってそれを表現するだろうかという話です。仮に相手を信頼していなかったとして、「信頼できません」「共感できません」などと面と向かって口にするようなことがあるでしょうか。あるいは信頼している場合だって、そんなにしょっちゅうは言葉にしないでしょう。では、どうやっているかといえば、体の動きとか声のトーン、目の動きや顔の向きなど、非言語の情報でそれを表現しているんです。

計測可能で非常に分かりやすいところで言えば、体の動きに同調性があるということです。我々は相手に対して信頼を示す際、体の動きを相手に合わせる回路を持っている。逆に相手に対して不信感や拒絶を示したい時には、あえて体の動きを合わさないことで表現しています。ですから、幸せな組織には体の動きの同調性が多く、うなずきも多い。アンハッピーな組織はそういうことが少ないのです。

こういうことは、組織を運営する以上は極めて基本的なリテラシーだと私は思います。誰もが知っているべきですが、少なくともマネジャーは知らないといけないし、そういう状況にどうやったら近づけるのかというノウハウや体験を積まないといけません。

コロナ禍のマネジャーにはより人間的な能力が求められる

コロナのようなテレワーク、リモートワークの状況ではやりにくいと感じることばかりです。

その通りです。やりにくい。だけれども、意識してやればかなりできる。だから、こういうことを知っていることが一層大事になります。いろいろな妨げや制約はもちろんあるけれども、それでもダメにならないようにいろいろな工夫をすることが、コロナ時代のマネジャーにとって極めて重要なことかと思います。

ありがちなのは、在宅だと相手の仕事ぶりが見えなくなるから、部下とたくさんコミュニケーションを取ろうとすることです。「どうなってる?」と逐次確認しようとする。そうするとどうなるか。先ほどの第1条件がどんどん悪い方向に行くのです。人のつながりの平等性がなくなって、マネジャーばかりがいろんな人とつながり、部下は隣の人ともつながっていない状態になる。それではダメだということです。自分だけが情報を独占して、という状況ではうまくいかない。

リモートになってもう一つ大事なのは、先ほどのコレクティブ・インテリジェンスの話です。先ほど紹介したのと同じ実験チームが、実際には会わずに、チャットしか使えない状況でのチームパフォーマンスについても調べているのですが、この場合もフェイス・トゥ・フェイスで行った場合と同様、相手の感情を推定するスコアが高い人が多いと、チームのパフォーマンスが高かった。

むしろ、リモートワークになるとインタラクションのチャネルが細くなってしまうぶん、人の感情を認識したり推定したりする能力はより重要になります。そういうことに長けた人たちは、往々にして発言権も平等にしようとする傾向にあるし、人のつながりを独占せず、いろいろな人の間につながりを作ってあげる人でもあります。

相手の気持ちを察する能力。そして、状況に合わせて行動を適応させ、変える能力。つまりは極めて人間的な能力が大事になるということなのです。

オンラインに移ることで人間的な能力の重要性が増すというのは面白いですし、納得感もあります。最後に、こうした状況になって矢野さんたちのチームが意識して取り組んでいることがあれば教えてください。

メンバーとZoom会議中の様子
メンバーとZoom会議中の様子

具体的で分かりやすいところでいうと、毎朝、10人くらいのチームメンバー全員で、Zoomを使って朝会をやっています。Zoomが便利なのは、ブレイクアウトルームの機能によりランダムにチーム分けができることです。3人ずつくらいのグループにランダムに分け、10分程度の雑談をしています。

我々のチームにはこの4月に入った新しいメンバーも何人かいます。こうした状況だから、リアルには会ったことがない人もいるわけです。そんな中でも先ほどの4条件を向上させるべく、つながりがなるべく平等になるよう意識してシャッフルし、チームの活性化を図っています。

4条件がうまくいっている人には特有の体の動きがあることも分かっているのですが、先ほど紹介した我々のアプリは、こうした非言語の動きを常時モニタリングして、フィードバックしてくれます。私はリーダーだから、放っておけば私だけが一方的に話すとか、あるいは私だけがみんなとつながっている状況になりやすいわけですが、そういうことをやっていると、ちゃんとスコアが下がるようになっています。我々自身の開発したこうしたテクノロジーを鏡のようにして、「あの日はああいう振る舞いをしていたな」「ああいうことをやったからスコアが伸びたのか」など、日々振り返りながら、変身を試みているところです。

実はこの7月に、我々のこうした試みをほかの組織にも広げていきたいと、新会社を設立しました。社名はアプリと同じくハピネスプラネットで、社員の幸福度を計測・分析する技術や具体的な働き方の改善策をお伝えしていくつもりです。より多くの組織が新たな働き方の正解に早く近づくためのインフラになると確信しています。

しかし、先ほど述べたように、こういう状況だからこそ自分を磨かないといけないのは、私たち自身も同じです。なにしろ我々は、心理的安全性を高めることを社会に対する一つの使命にしていますから。我々自身がそれをできないのは恥ずかしいことだと思っているんです。

日立製作所 フェロー 矢野和男
1984年早稲田大学物理修士課程修了後、株式会社日立製作所に入社。2004年から先行してビッグデータやAIを使った企業業績向上やウエアラブルによるハピネスの定量化で先導的な役割を果たす。論文被引用件数は2500件、特許出願350件。著書『データの見えざる手』がBookVinegar2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之

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