「リモート3密」がカギ? チームワークをオンラインで高める秘訣、楽天大学学長に聞く

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コロナ禍の影響で、リモートワークへの移行を迫られている企業は多いでしょう。中には十分な準備ができないまま、リモートワークを始めざるを得なかった企業もあります。

オフィスとは違う不慣れな環境で、問題が生じることもあるようです。コミュニケーション不足や意思疎通の行き違い、「みんながどうしているのか」分からない状況がチームワークに影響することも。「やはり、リモートワークでパフォーマンスを発揮するのは難しい」と感想を漏らす人も少なくありません。

以前、当媒体でも取材した楽天大学学長の仲山進也さんは、さまざまな企業に対してチームビルディングプログラムを提供し、「自走型人材・自走型組織」の開発に取り組んでいます。仲山さんは今回の災禍を受け、「オンラインによるチームビルディング」のプログラムを開催し、リモートワークでのコミュニケーションやチームワークを支援しているといいます。

どうすればリモートでもチーム内での不和を防ぎ、チームワークを高めることができるのか。仲山さんにその秘訣を伺いました(写真は2017年4月28日撮影)。

準備なしで「リモートワークがうまくいかない」のは当たり前

これまでスタートアップやベンチャーなどを中心に行われてきたリモートワークですが、コロナ禍で急遽、大企業なども一気に導入せざるを得ない状況になっています。

先日、エール取締役の篠田真貴子さんとソニックガーデン代表の倉貫義人さんとお話ししたときにも「これまでさんざん、リモートワークできないと言ってた企業が、いざ準備もなく始めて『やっぱりダメじゃん』となるのはもったいないよね」という話になりました。

SNSを見ていると、「いつもよりはかどる」という人もいれば「一人きりでモチベーション保つのはつらい。寂しい」という人まで、いろんな人がいる。ただ、実際にやってみて、うまくいくようにチューニングしていけば、一気にリモートワークが進む契機になるだろうなと思っています。

チームビルディング研修を行ってきた仲山さんご自身にも、影響は出ていますか。

そうですね、もともと僕のやってきたプログラムは、体を動かすアクティビティをやりながら「みんなで一緒に試行錯誤しながら物事を成し遂げるプロセスを体感してもらう」というコンセプトで、ある意味、濃厚接触がウリなので、それがすべて封印されました(苦笑)。

ただ、僕がこれまでやってきたことの一つは、楽天市場に出店をしている商売人のみなさんと「リアル店舗での接客をいかにネットショップに置き換えられるか」を考えることなので、「リアルをオンラインに置き換える」ことについては経験値がたくさんあります。

プログラムのオンライン化を考える中で、印象的な出来事がありました。

4月頭にクラフトビールメーカーのヤッホーブルーイングの新入社員研修を行うことになっていたのですが、状況的に集まるのは難しいよねとなって。みんなで“わちゃわちゃ”と試行錯誤しながら意見をすり合わせていく、というアクティビティをやりたかったのですが、オンラインでどうやったらそうなるかがまだ分からない。

それで次善の策として、僕の本(『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』)を題材に読書会を行うことにしました。参加者で読むパートを分担して、全員で一つの本を読む「アクティブ・ブック・ダイアローグ」というやり方なんですけど、やっているうちにいろんなアクシデントが起こったんです。

みんな“Zoom慣れ”していないから画面共有の方法が分からなくて、「画面下の『画面の共有』をクリックして……」なんて教え合いが発生しました。でも、そのままだと時間が足りなくなりそうになってきた。そうしたら「Googleドキュメントで共有しましょう」と、とりまとめをする人が出てきたんです。

研修を始めるときに「チームビルディングをリモートでやるのは僕も初めてなので、うまくいかないものだと思ってください。みんなで“手探り感”を楽しみながら、何か気づいたことがあればどんどんアクションしてくださいね」と共有していたことも相まって、“わちゃわちゃ感”からの“一体感”が生まれました。期せずして、リモート研修自体がチームビルディングのアクティビティになったんです。

この体験からヒントを得て、オンラインのチームビルディングプログラムをつくることができました。この体験談で何が言いたいかというと、リアルでやっていたものをオンラインに置き換えるというのは、そんなに簡単なことではないということです。準備なしでやって、すぐにうまくいくようなものではないので、工夫が必要なんです。

リモートでチームワークを高めるコミュニケーションの秘訣

リモートワークするにあたって、どんなことがポイントになってくるのでしょうか。

「リモート分業とリモートチームワーク」の違いを意識することが大切だと思います。リモート分業というのは、マネジャーがあらかじめ決めた業務分担に基づいて、メンバー各自が仕事を進めること。リモートチームワークは、自分たちで試行錯誤しながら役割分担を決めて、随時連携しながら仕事を進めることです。

おそらく現状、多くの方がイメージしているリモートワークは、リモート分業に分類されるものだと思います。各自が担当業務を進めて、マネジャーに進捗状況を報告する……みたいな。

孤独なリモート分業だけをやっていると、職場で同僚とおしゃべりしていたときになんとなく貯まっていた「コミュニケーション量の貯金」が少しずつ減って、お互いの状況が見えず空気を読めなくなって、だんだんかみ合わなくなりがちです。

―「コミュニケーション量の貯金」……というと?

多くの人は普段、意識せずとも空気を読みながら、「今はこうしたほうがいいな」と判断して働いています。「あ、課長いまちょっと機嫌悪そうだから、話しかけるのは後にしておこうかな」とかあるじゃないですか(笑)。

直接会っているときはそういう非言語の情報や、雑談などの非公式コミュニケーションによる情報が自然と貯まっていくのですが、会えないと情報が更新されなくなります。お互いにどんな状況なのか、何に忙しくしていて、どんなことに課題を感じているのか、分からなくなって意思疎通が取れなくなってくるんです。

今回、こうして3年振りにこの媒体で取材してもらったのは、僕がSNSで「オンラインでチームビルディングをやっている」と発信しているのを編集部のみなさんが見てくれていたからですよね。

僕はこれを「オンライン生体反応」と呼んでいるのですが、近況がよく分からない人って話しかけにくいじゃないですか。だからSNSなどで近況を共有して、オンライン生体反応を消さないようにしています。そうすると、いろんな人が気軽に声をかけてきてくれるんです。

―でも実際、いまSNSを見てみると、ここ数年まったく更新していない知人や同僚も多いのですが……。

Facebookなんかは特に、仕事のつながりとプライベートのつながりが混じってしまうと、仕事とプライベートを切り分けるタイプの人は投稿できなくなりやすいかもしれませんね。それなら、社内のツールで雑談するなど、オンライン生体反応を出すための他の手段を考えればいいと思います。

ある会社では「オンラインFika(フィーカ)」という取り組みをしています。「フィーカ(Fika)」とはスウェーデンの習慣で「お茶すること」。多くの企業では、毎日10時と15時にフィーカの時間が設けられていて、15分くらいのコーヒー休憩があり、作業を中断して雑談とか仕事の話、といってもミーティングするほどじゃないけどちょっと話したい、という類の話をするそうです。

つまり「非公式コミュニケーション」のための仕組みです。リアルでミーティングしていたときを思い出すと、全員揃う前に早めに集まった人が雑談したり、会議室から自分の席に戻るまでに話したりするタイミングがあって、実はそこで交わされる雑談が大切だったりするじゃないですか。

オンラインミーティングの場合、時間になるとパッと集まって、終わるとそのまま接続を切るみたいな感じになるので、この非公式コミュニケーションを工夫するのがおすすめです。冒頭で一人一言ずつ近況を話してから本題に入るとか、最後に一言ずつ感想を言って終わるとか。

非公式コミュニケーションと言えば、職場での飲み会がなくなって、「オンライン飲み会」に移行しているところもあるようです。

そうですね。でもあまりに人数が多いと、つまらなくなるじゃないですか。ビデオ会議ツールの場合、常時一人しか話せないからコミュニケーション量が最も少なくなる形なんです。みんなの黙っている時間が多すぎることになってしまう。

人数が多い場合、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能などで4〜5人のグループに分けて話してもらうとコミュニケーションの総量が増やせます。そうやって、コミュニケーション量を最大化する工夫をしながら場を作ると、そのうちコミュニケーションの質が高まっていきやすくなるなと実感しています。

リモートの孤立問題はリアルの信頼関係が足りなかったから?

こうして話を伺うと、リモートワークの秘訣はオンラインでのコミュニケーションを意識的に設計することが大きなポイントになりそうだなと感じました。

設計、大事です。今回のコロナ禍で気づかされたのは、「3密」って信頼関係を構築するのに実によく考えられたシステムだったんだなってことです。「密閉」「密集」「密接」の3つですね。物理的に壁に囲まれた3密状態の職場で顔を合わせていれば、自然と雑談は起こるし、団結感も生まれやすい。それによって仕事がうまくいくという環境があったわけです。

その物理的な状況が取り払われたことで、みんながバラバラになって孤独を感じているというなら、それは実は、オフィスで顔は合わせていても心の結びつきまではなかったということの現れです。見せかけの団結感だっただけ。だから、急にリモートワークに移行してコミュニケーションが断絶しているようなら、実はもともとあった信頼欠如の問題が明らかになっただけなのかもしれません。

ここ最近のビジネスは「最適化」がテーマで、いかに無駄を省いて生産性を上げるのかが至上命題になっていました。でも、最適化しすぎるとデメリットがあって、変化に弱くなります。最適化って、「いまの状況」に最適化することですから、状況が変化した瞬間に「最適ではなくなる」わけです。

これまでオフィスに集まって、3密状態で働くことに最適化されていたけど、その大前提が変わったことで、コミュニケーションスタイルが全然最適化されていない状態になってしまった。それにも関わらず、「今までのやり方が常識なので基本的にはスタイルを変えない」となると、うまくいかなくなるのは当然です。

オフィスにいれば自然とみんなの生体反応が得られていたのに、急にそれが得られなくなって不安に陥ったマネジャーが「分単位で日報を書け」みたいなことを言い始めたという話も聞いたりします。そんな不毛なことにならないように、情報共有の方法を考えて、リモートでも「3密」を作る方法を考えたほうがいいと思います。

「リモート3密」を作ることで、信頼関係を構築するということですね。

大事なのは「お題が変わった」と認識することです。これまでは「顔を合わせながら信頼を得る方法を考えよ」というお題だったのが、「リモートで顔を合わせずに、信頼を得る方法を考えよ」に変わったということですよね。で、それをいまあるツールでどうするかをみんなで考えること自体がチームビルディングになります。

「目隠し」をするアクティビティとリモートワークは似ている
「目隠し」をするアクティビティとリモートワークは似ている

チームビルディングのプログラムで「目隠し」をしながらやるアクティビティがあるんです。目隠しをすると、他人の状況が分からないし、自分の状況すらよく分からなくなります。だから自分から声を発して、相手から返ってきた言葉で「あ、そうなっていたのか」と分かる。

リモートワークって、まさにそういう「目隠し」の状況だと思います。自分が声を出さなければ、自分が間違っていることにも気づけないし、存在にも気づいてもらえないし、いまいる場所が正しいのかも分からない。

だから、マネジャーこそ自分から発信するべきなんです。オンラインコミュニケーションやツールに関しては若い人のほうが知っている場合が多いわけですけれど、どんな「全知全能型」のリーダーでも、いまなら「オレ正直、ツールとかよく分からないんだよね」と言っても恥ずかしくないチャンスです。むしろ、自分の弱みをさらけ出すことで、みんなが本音を言いやすくなる「心理的安全性」を作るチャンスとも考えられます。

そうやって、オンラインであってもクローズド(密閉)のコミュニケーションツールで、みんなで時間を決めて「密集」して雑談したり、少人数で「密接」した話し合いの場を作ることが大切です。そうすれば、メンバーから情報をもらいやすい環境もどんどん生まれていくでしょう。ちなみに、次の写真は「オンラインの焚き火を囲む懇親会」の模様です。想像以上にいい感じでした(笑)。

リモートチームワークのスタートラインは、お互いに「今ちょっといいですか?」と言い合えること。新しいことって、この「今ちょっといい?」から始まることが多いじゃないですか。変化の激しい時代だからこそ、それが言いやすいように「リモート3密」を作る。

その手段として、オンライン生体反応で「いつでも話しかけていいよ」というサインを示す。何も話すことがない人は「いいね!を押す」とか「気になった記事をシェアする」だけでも生体反応になります。さらに、リモートフィーカやオンライン飲み会でたわいもないことを話しやすい場を作る。

チームワークは、チームやメンバーの状況に合わせてチューニングしていくものです。そんなに難しく考えすぎず、まずはチーム全員で「どうやったら『今ちょっといいですか?』って言いやすくなるかな?」などと、この「天から降ってきたお題」に楽しみながら取り組んでみてはいかがでしょうか。

仲山考材株式会社 代表取締役/楽天株式会社 楽天大学学長 仲山進也
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期(社員約20名)の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。2004 年には「ヴィッセル神戸」公式ネットショップを立ち上げ、ファンとの交流を促進するスタイルでグッズ売上げを倍増。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立、オンラインコミュニティ型の学習プログラムを提供する。2016〜2017年にかけて「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を探求している。「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。著書『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則「ジャイアントキリング」の流儀』(講談社)ほか多数。

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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