壁にぶつかる前に「ぶつかったらどうしよう」とは考えない。全力で、まずはぶつかれ──クレディセゾンCTO小野和俊さん

2020/05/14

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クレディセゾンのCTOを務める小野和俊さんは、シリコンバレーでの就業を経て若干24歳でベンチャーを起業。自社の買収に伴って関連企業の一員となり、現在は40代前半にしてクレディセゾンの取締役常務執行役員CTOに就任し、伝統的企業の変革を担う立場にあります。

大企業からベンチャー企業へと大胆にも転職を果たす人がめずらしい存在でもなくなりある中、その流れに逆行するように、ベンチャー起業家として成功を収め、その後、大企業の重要ポストへと転身を果たした小野さんは、「デジタル時代のロールモデル的存在」と言ってもいいでしょう。

大企業に本気のエンジニアリングチームができて、事業が大きく変われば面白いのではと考えたんです」と話す小野さんは、まさにいま、クレディセゾンのデジタルトランスフォーメーションを手がける最中。CTO就任1年足らずで大きな成果を出すなど、着実にその職責を果たしています。

海外と比較すると、デジタルトランスフォーメーションで大きく遅れを取る日本企業の中で、いかに理解者を増やし、組織・事業変革への行動変容を起こしていけばいいのか。小野さん自身の経験や、その根底にある信念を語ってもらいました(写真は2020年3月16日撮影)。

株式会社クレディセゾン 取締役兼常務執行役員 CTO 小野和俊
1976年生まれ。1999年慶應義塾大学環境情報学部卒業後、サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。米国 Sun Microsystems, Incでの開発などを経て2000年に株式会社アプレッソを起業、データ連携ミドルウェア DataSpiderを開発する。同ウェアでSOFTICより年間最優秀ソフトウェア賞を受賞。2007年~2010年日経ソフトウェア巻頭連載「小野和俊のプログラマ独立独歩」執筆。2008年~2011年九州大学大学院「高度ICTリーダーシップ特論」非常勤講師。2013年にセゾン情報システムズHULFT事業CTO、2014年 他事業部も含めたCTO、2015年 取締役 CTO、2016年 常務取締役 CTOを務め、2019年に株式会社クレディセゾンへ入社。取締役 CTOなどを経て、2020年3月より現職。

前編はこちら

日本企業のこれまでを否定することなく、その強さを証明したい

2019年にクレディセゾンへ来たのには、大きく2つの理由がありました。一つはそれまでいたセゾン情報システムズの変革にも弾みがつき、ある程度目算がついてきたこと。もう一つは日本の大企業の現況に対する危機感です。

よく言及されることですが、平成元年と平成30年の世界時価総額ランキングを比較すると、平成元年時点では日本企業は50位中32社がランクインしていた。平成30年になるとそれがトヨタ自動車の1社だけです。

せっかくシリコンバレーへ行ったのに、1年足らずで戻ってきたのは……やっぱり僕、日本が好きなんですよ(苦笑)。食べ物も美味しいし、飲んでうっかり電車で寝ちゃっても大丈夫だし、居心地いいじゃないですか。でもいまや、そんな日本を支えてくれた企業が軒並み勢いを失って、シリコンバレー発のデジタルディスラプションに飲み込まれようとしている。

僕が好きな日本を支えてくれた企業の……いちばん難しそうな金融という業界で、デジタルトランスフォーメーションを成し遂げる。評論とかじゃなくて、実際にやってみせる。そうすれば、これまでのやり方を否定することなく、まだまだ日本企業は戦えると証明できるんじゃないか、って。おこがましいかもしれないけど、野茂英雄投手がメジャーリーグで日本人が通用することを証明してみせたように、僕も日本の金融の大企業でも短期間でデジタルな変革ができることを証明したいと思ったんです。

もちろんそこには、クレディセゾンとしてもデジタルの力を手の内化することに意味があると踏んで、僕に打診してくれたところはありました。セゾンには3700万人を超えるカード会員がいて、クレジット事業だけでも年間5兆円近くのトランザクションをさばいている。ここに本気でデジタルの力を投じることができれば、間違いなく面白いことができるはずなんです。

大企業のスケールとベンチャーのスピードを融合する

入社してまだ1年経ったところですが、やっていてすごく楽しいですよ。だいたい思った通りにはやってこれている。もともとクレディセゾンにはコードが書けるエンジニアは一人もいなくて、一からチームを作ることになりました。

幸い、僕はずっとブログを書いているので、人事部を通さずブログのエントリーからメンバーを採用することができた。通常の採用プロセスだと考えられないでしょうけどね。その半数はベンチャーに勤めるエンジニアからの応募でした。

ベンチャーの勢いも一巡しつつあるというか、どんなに優れたプロダクトやサービスをリリースしても、うまくいって数十万、数百万人のユーザー規模。圧倒的なシェアを持っている大企業と比べると、ベンチャーの限界を感じる人も少しずつ出てきているようです。

とはいえ、大企業でエンジニアを積極採用しているところはそう多くない。採用しようとしたとしても、面接で「コミュニケーション能力がありそうだから、採用!」みたいな。適切にエンジニアの能力やスキルを評価できる人がいないんです。

ですから僕がブログで「もし大企業に本気のエンジニアリングチームができて、それで事業が大きく変わったら、面白いと思いませんか?」と呼びかけたら、かなりのエンジニアにそのメッセージが刺さった。「ベンチャーでプロダクトをリリースして、すばやく改善していく」のか、それとも「大企業でプロダクトを作り、より多くの人に届けていく」のか。そのどちらか、じゃなくて、どちらも選べる環境がここにあると感じてもらえたんだと思います。

応募を呼びかけるブログ記事
応募を呼びかけるブログ記事

2019年3月に入社して、最初の半年くらいでチームを作りながらプロダクトを検討して、2年目から本格的に開発しよう……なんて考えていたのですが、それを大幅に短縮して、3カ月でチームができて、さらに1カ月でプロダクトをリリースすることができた。それが「セゾンのお月玉」です。

プロダクトを開発するにあたって、これまでのクレディセゾンの歴史を振り返ってみたのですが、徹底してお客さま中心主義なんです。その最たるは2002年にはじまった「永久不滅ポイント」。クレジットカードのポイントなんて、みんなそんなに有効期限を気にしないじゃないですか。「ギフトカードに交換しようとしたら期限切れ」みたいなことがザラにある。それを「有効期限はありません。好きなときにポイント交換してください」って、まさにお客さま目線ですよね。

ですから僕らが新たにつくるプロダクトも、お客さまにとって喜びがあるかどうかを重視した。原点に立ち返ろうと考えたときに出てきたのが「毎月1万人の方に1万円、総額1億円が当たる」というアイデアです。だれだって、お金をもらえるのがいちばん嬉しい。しかも、当たった方にはポイント還元とかじゃなく、現金書留で送るんです(笑)。

普通、デジタルで考えたら「スマホのアプリにログインして、当選したら1万円分のポイントがもらえる」みたいな仕組みになってもおかしくない。「ビットコインで送ります」とかね。でも、いまの過渡期においては、「現金1万円が直接届く」ことに勝る喜びってないじゃないですか。そうやってとにかくカード決済という体験を楽しいものにしたかった。

結果として、公式ツイッターのフォロワー数は開始当初の10倍くらいになって、ハッシュタグ検索すると「ホントに当たった!」ってみなさん写真をアップしてくださって、大きな反響を得ています。

二者択一の「or」ではなく「and」を実現する

こうして僕自身のキャリアを振り返ってみると、性質の異なる二つのものをつないで、「orじゃなくてandを叶える」みたいな考え方が根底にある気がします。

アプレッソを創業したときにも、日本とシリコンバレーの良さを掛け合わせようとした。「DataSpider」も社内外に散在するシステムを連携して、スムーズにデータ共有できるツールを志向した。クレディセゾンでも大企業の安定感とスケールメリット、ベンチャーのスピード感を融合させようとしている。

でもそれは妥協の末でもなんでもなくて、自分の特性に素直だっただけなんですよ。思えば高校生のころ、陸上部で僕が選んだトラックは短距離の中で一番距離の長い400m。100mも3000mでもイマイチ良い記録を残せなくて、自分に向いている距離を探っていった結果、たどり着いたのが400mだった。この作戦がうまくいって東京都の400m走の決勝戦にも何度も出場しました(笑)。

だからある意味、「or」への違和感に敏感なんでしょうね。自分の置かれた二者択一の状況に対して違和感を覚えたら、もっと自分の居心地のいいところを探していく。そうやって探索しているうちにセレンディピティ(偶然の出会い)があって、より良い「and」な折衷案を見いだすことができるんです。

だからよく「小野さんはジジゴロシ、重鎮にうまいこと可愛がられるんだから」なんて言われるのですが、別に僕が得意なわけじゃなくて、他の人のやり方が間違ってるだけなんです。「上司から企画を決裁してもらえない」って悩んでいる人に話を聞いてみると、だいたいその反対理由をちゃんと聞いてもいなかったり、「あの人は分かっていない」って陰でボヤくだけだったりする。

単刀直入に「どうして反対なんですか?」と聞いてみたら、意外と理解できることが多いんですよ。確かにその懸念も憂慮も分かるし、その対策を講じる必要はあるな、って。だから反論されて萎縮するのではなく、淡々と相手の疑問や要望に応えていって、不安を一つひとつ潰していく。どんなことにも「確かにそういうところはあるかもしれない」といったん受け入れて、お互いに違和感のない答えを見つけていけばいいんです。

そういう意味では、大学時代に弁論部の部長を務めて、競技ディベートに勤しんでいたのもいい経験だったかもしれませんね。ディベートってテーマを設定して、自分が個人的にどんな考えを持っていたとしても、肯定派なのか否定派なのかをコイントスで決めるんですよ。だから個人的に賛同できないことだったとしても「こういう理由で多くの人に求められている」「こんな経済的利点がある」と論じなければならない。「自分はこうだ」と決めつけない、思考訓練ができていたんでしょう。

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全力を出せないのは人生を無駄にするようなもの

そういう特性だから、「中長期的にどんなビジョンを思い描いていますか?」なんて聞かれると、まずはいま取り組んでいることに、なるべく違和感のない状況をつくっていくこと、としか答えられない。というか、それが大切なことだと思っていて。

大企業で働く多くの人は上意下達で、言われたことはなにがなんでも成し遂げなければならない……みたいな状況に置かれているかもしれないけど、反対すべきところはきちんと反対する。「確かにおっしゃることは分かります。これはこのように対応しつつ、この点はこうするべきなのではないでしょうか」と、相手の意向を受け入れながら自分の意見も通していく。

そうやって、自分が違和感なく、目の前のことに全力で立ち向かえるような状況をつくって、120%の力で突撃してみる。それで「ゴーン!」と壁にぶつかったら、そのときにどうすべきか考えればいい。だって、先のことなんて誰にも分からないじゃないですか。20年後何が起こるか分からないし、そのときに自分が何を考えているかも分からない。

そもそも仕事に全力で立ち向かえない状況って、人生の大半を無駄にしているようなものだと思うんです。1日の大半は仕事しているか、寝ているか、自分の好きなことをしているかしかない。そのうち一つをただ漫然と過ごしていたら、それはもったいないし、後々大きな差にもなってくるはず。シンプルなことかもしれないけど、自分やまわりのステークホルダーにとって違和感のない状況をつくって、全力で取り組めば、毎日何かしら面白いことが起こる気がするんです。

そして、それはクレディセゾンでも実現していきたいこと。絵に描いたような中長期ビジョンじゃなくて、「何か面白そう」みたいなワクワクするようなことを、口にするだけじゃなくて、実際にやってみせる。それこそ、半年のスパンで立て続けに何かしらリリースするようなスピード感で、お客さまに喜びや驚きを届けていきたい。驚きが喜びを届けていくということ、それを日本の金融機関でもできるんだってことを証明したい。それこそが大きな成果にもつながると信じているから。

小野和俊さんに聞いた “キャリア形成” で大切なこと

違和感なく、目の前のことに全力で立ち向かえるような状況をつくる。そして、120%の力で突撃する。「ゴーン!」と壁にぶつかったら、そのときにどうすべきか考えればいい。

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
2020/05/14

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