起業家を輩出するawabarとDMM.make、仕掛け人が語るメンタリングの秘訣

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東京・六本木に、日本のIT業界の発展に黎明期から一役買ってきた一軒のバーがあります。「awabar」です。そこはIT企業の経営者や若い起業家たちが集い、語り合う、「メンタリングの場」になっています。

本サイトで以前対談した、フリマアプリが好調のメルカリの山田進太郎さんと、EコマースサービスのBASEの鶴岡裕太さんも、メンター、メンティーとしてawabarで会い、それが事業推進につながっているのだとか。

もう一つ、ハードウェア系ベンチャーが居を同じくし、切磋琢磨することで、IT業界のさらなる発展の原動力となっている場所が、秋葉原にあるコワーキングスペース、「DMM.make AKIBA」です。

awabarとDMM.make AKIBAというこの二つの場所、実は同じある方がプロデュースしてきたのです。

その仕掛け人が、さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーであり、現在はフェローを務める小笠原治さん。メンタリングの場作りをしながら、自身も投資家かつメンターとして多くの起業家たちを育ててきました。

そんな小笠原さんに、メンタリングの意義と対話の秘訣についてお話を伺いました。

さくらインターネット株式会社 フェロー 小笠原治

PROFILE

さくらインターネット株式会社 フェロー 小笠原治
小笠原治
さくらインターネット株式会社 フェロー
1971年京都生まれ。さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、株式会社ネプロアイティにて代表取締役。2010年にオーナーを務めるawabarをオープン。2011年に同社代表を退き、株式会社nomadを設立。投資やシェアスペースの運営など、スタートアップ支援事業を軸に活動する。2013年より株式会社ABBALab代表取締役。同年、DMM.makeプロデューサーとして事業立ち上げなどを行う。2015年8月からエヴェンジェリスト。同年、さくらインターネットにフェローとして復帰。2016年4月より京都造形芸術大学顧問

2つのメンタリングの場を立ち上げた思い

ー「awabar」立ち上げの経緯を教えてください。

2010年にawabarを作ったときは、実はまったく違うコンセプトだったんです。普通に「女性が気軽に一人で立ち寄れるバー」という感じで。

awabarを立ち上げるまでは、さくらインターネットの社長である田中邦裕と1998年に会社を作って、そのあとモバイルコンテンツ制作や決済事業などをやってきました。

そのうち、ベンチャー企業へのエンジェル投資やシェアスペースの運営など、だんだんとスタートアップ支援を軸に活動するように。

そんなときに東日本大震災が起きて、「人とのつながり」が見直されるようになったころに、awabarのコンセプトをガラッと変えたんです。

awabarの壁にはITベンチャーのステッカーが貼られています
awabarの壁にはITベンチャーのステッカーが貼られています

自分が会いたい人に「飲もうよ」と声をかけたり、SNSに「今日はここにいるよ」と投稿したりするうちに、IT業界に近しい人が気軽に集えるような場になっていきました。

ーどのような方がawabarを訪れますか?

メルカリの山田進太郎(代表取締役)さんや小泉文明(取締役)さんは、彼らがまだニートみたいな感じだったころから(笑)、あと(Eコマースサービスの)BASEの鶴岡裕太(代表取締役)さんも来てくれましたね。

awabarがきっかけで投資話につながったり、僕自身も事業の相談を受けたりすることもあります。同年代でも異業種同士で話せることは限られていて、似たような性質の人同士が集まるからこそ話せることが、やっぱりあるんですよね。

メルカリの山田さん(左)とBASEの鶴岡さん(右)はawabarでも会い、その後メンター/メンティーの関係に
メルカリの山田さん(左)とBASEの鶴岡さん(右)はawabarでも会い、その後メンター/メンティーの関係に

最近は「ピッチイベント」とか「ハッカソン」とか若い人向けのイベントがたくさんあるけれど、それを自分でやる代わりにawabarを始めたところもあるかもしれないーー。

イベントには一気に熱を盛り上げる良さがあるけれど、実はバーでの「日常会話」からのほうが、活発なディスカッションや新しい仕事は生まれると思っていて。

ー自身がプロデュースされた「DMM.make AKIBA」も同じような考えから?

そうですね。シェアスペースで日常の中で困っている小さなことが「雑談」になるからこそ、起業家同士のインタラクションやベンチャー同士のコラボレーションも生まれる。

それが雑談じゃなくて、プレゼンのような「発表」となると、完成品でないかぎり、「よりよく見せよう」と、ちょっとしたウソが混じりやすくなってしまう。だから、なかなか本音の対話って成立しないんです。

DMM.make AKIBAには若い起業家たちが詰めています
DMM.make AKIBAには若い起業家たちが詰めています

小笠原さんが実践、若手を導くメンタリングの秘訣

—小笠原さんは若い人たちから相談を受ける際、メンターとしてどのような「雑談」をしているのでしょうか。

実はあまり「メンタリング」という言葉にはピンと来ていないのですが、ベンチャー界隈で言うところのいわゆる「壁打ち」をよくやります。「こういうことをやろうと思っているんだけど、どう思いますか?」と聞かれて、それに雑談のような感じで返したり。

—「壁打ち」とは具体的にはどのような会話でしょうか?

例えば、誰にでも「やらなくちゃいけないこと」ってあるじゃないですか。それをやっていると、できることが増えてくる。そうすると、お金や信用が増えて、さらにやりたいことができるようになる。そのうち、社会から求められるような「やるべきこと」が増えていって、またやりたいことができてくる・・・ これが理想的なスパイラルですよね。

—はい。

けれども雑談で、「やらなくちゃいけないこと」があるのに、話していると「やりたいこと」の話ばかり出てくる。他にも優先順位の高いことがあるのに、どうでもいいような「やらなくちゃいけないこと」の話ばかりをしている・・・ 相手がそういう「負のスパイラル」に陥っていたら、「ツッコミ」を入れるんです。

「やったらいいやん」「やらなアカンことが他にもあるのに、アホなん?」と。

—小笠原さんの一言で、相手が変わったように感じられたことはありますか?

うーん・・・ 「あの人のあの一言で自分は変わった」みたいなのが起こることには、僕はちょっと懐疑的なんです。

皆さんも心当たりがあると思うのですが、もし「自分の中で何か変わった」ように感じたなら、それはその人が「変わりたい!」と思っているときだったからだと思うんです。つまり、壁打ちでも、メンターは何か特別なことを言ったつもりはないけど、話している間にメンティーの中で、その言葉が「ストン」と腹落ちている状態ですよね。

それは仕事だけじゃなくて、恋愛も、あるいは宗教も要は一緒で。すでにメンティーの中では意志があって、それを後押ししてくれるような「自分の聞きたい言葉」をメンターから聞くために、実は相談をしている。僕は、そういう人の話し相手になるのは好きなんです。だから「壁打ち」も好きなんですね。

結局、メンタリングとか壁打ちのゴールって、「その人の中にあることを気づかせる」ことだと思うんです。それに気づいてもらえたら、あとはもう本人がやるだけ。だっていくらその人の中にないことを説教したからって、その人自身の欲求の「熱量」が高まらないかぎり、何を言われてもやらないし、やれないですから。

メンティーに内省を促すためのメンタリングのルール

—「その人の中にあることを気づかせる」ためのコツは何でしょうか?

これは、「見栄を張らないこと、ウソをつかないこと」、ですね。だいたい99%の人は小さい見栄を張るんですよ。例えば、人の話を聞いていると、「でも」と小さい言い返しをしている人っていませんか? 「でも」っていうくらいなら、相談しなきゃいいのに(笑)

「でも」ではなく、「それはこうなんです」と言い切れるんなら良いと思うんです。「でも」と言ってしまうのは、そこに小さいウソや見栄があるからなんですよ。それでは、メンタリングや壁打ちどころか、そもそも楽しい会話でなくなります。

あと、メンタリングされる側は、ちゃんと表情を出したほうがいい。メンターの言葉に納得していないのに「はい、そうですね」とか、分かっていないのに「分かりました」というのは「悪」だと思います。

相手の意見にハマっていようとなかろうと、何か違うことを考えているのなら、それを意見として出すべきだし、そうすることで「この人とは考え方が違うんだ」と気づいたほうがいい。

さくらインターネット株式会社 フェロー 小笠原治

あと、メンタリングはタイミングも肝心です。やはり「顔を上げるため」じゃないですけど、「やりたいことがあるとき」がいいんじゃないでしょうか。よりよい環境、行動に目を向けたときですね。

ただの「悩み相談」だと、だんだん愚痴になってくるので、メンタリングである必要はないと思うんです。確かにメンタリングは「しんどいところから抜け出す」「マイナス面を改善する」手立てにもなるかもしれないけど、それだったら話し相手は誰でもいいじゃないですか。相談を受けるメンターにとってもあまりメリットがないですよね。

そんな上っ面な会話をするよりは、メンター、メンティー双方が前向きになれたほうがいいと思うんです。

自分を導いてくれるメンターの見つけ方

—小笠原さんにも「メンター」はいますか?

たくさんいますね。孫泰蔵さん、DMM(会長)の亀山敬司さん・・・ 弊社の田中もそうです。泰蔵さんは社会に対するインパクト、亀山さんは商売とビジネス、田中は技術と経営という、それぞれ違った観点からいろんなアドバイスをくれます。

実際に会って話すだけでなく、「この人ならなんと言うかな」と自分の中で想像することが、僕の判断材料にもなっています。例えば、泰蔵さんなら「小笠原さんが考えているのは本当はもっと大きいことはず。なのに小さくまとまっているんじゃない?」と言ってくれるかな、亀山さんなら「それ、自分に嘘ついてないか?」とか。

「昔、こう聞いたときにこう言われたな」というのが蓄積されて、それも糧になっていきます。

—最後に、そのような素晴らしいメンターと出会うにはどうすればいいでしょうか?

率直なところ、「関係性のないところからメンターを見つける」というのは難しいと思います。「本やネット記事で読んで、面白いと思った人」といっても、それは幾重かのフィルターがかかっている。

やはり、自分が行動したり、いろんなところに出かけたりして出会った人、関わりのある人の中から見つけたほうがいいでしょう。僕自身のメンターも、日常の中でめぐり合った人たちです。

そうやって信頼のおける、尊敬できる人にメンタリングされるからこそ、「より良い方向に行こう」「そこへ向かうために、僕自身も動いていこう」と思えるのだと思います。

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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