本人も知らない部下のポテンシャルを引き出す「メンター上司」の対話術 荻野淳也さんに聞く

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キャリアの悩みを解きほぐし、導く存在、「メンター」。しかし、多くのビジネスパーソンが社内、特に上司/部下の間で、メンター/メンティーの関係を築くことは難しいと感じています。

一方で、「今後、社内でメンター/メンティーの関係を築けないような組織では、優秀な人材から去っていくでしょう」。リーダーシップ開発、組織開発のトレーニング、コンサルティングを行うMiLI代表理事の荻野淳也さんは言い切ります。

果たして上司が部下のメンターになることはできるのか、そのためには何が必要か、そして部下をどのように導けばよいのかーー。荻野淳也さんにマネジメントの秘訣について伺いました。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

PROFILE

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也
荻野淳也
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役
リーダーシップ開発、組織開発の分野で、上場企業からベンチャー企業までを対象に、コンサルティング、エグゼクティブコーチングに従事。外資系コンサルティング会社、複数のベンチャー企業でのIPO担当や取締役を経て、現職。監訳に『サーチ・インサイド・ユアセルフ』(英治出版)。2016年10月にもSearch Inside Yourselfのパブリックプログラムを開催予定

Googleも挑む「社内メンタリング」

ー社内でメンター/メンティーの関係を築くのは難しいという声が聞かれます。

同感です。メンタリングとは、メンターに手伝ってもらいながら、感情をさらけ出すことで自分の価値観に気づく場所。戦略など「思考レベル」ではなく、本音で語る「感情レベル」の会話が欠かせません。

しかし、多くの組織には「仕事場では仕事の話だけ」「感情的になって話してはいけない」といった暗黙の了解がどうしてもあり、感情を表に出すことはむしろ「タブー」くらいに思われているのでは?

相手から感情を引き出すには、組織開発のキーワードでもある「信頼関係」が欠かせません。しかし残念ながら、多くの組織は「信頼関係」ではなく、「上下関係」で成り立っています。

本来はリーダーとしての資質が備わっている人がリーダーになるべきですが、実際はその逆のことも多く見られます。「課長」や「部長」という肩書きをもらった人がリーダーシップを学び始めるといったように・・・。

そうした“リーダー”が肩書きにしがみつき、「私が部長だから」と居直ることもしばしば。結果、お互いが「心の鎧」を着て、組織が硬直化していく。メンター/メンティーの関係など築けるはずがありません。

組織開発の主流は、「パワーマネジメント」から「フラット組織によるマネジメント」へと変わりつつあります。今までなら、週次ミーティングは進捗状況や予算達成を確認するだけ、上司から一方的に詰められるような場だったわけです。

けれどもこれからは、それを「ポジティブな感情をやり取りするような場」にしていくことが必要です。

ー「ポジティブな感情をやり取りするような場」にはどんな効果があるのでしょうか。

最新の研究から、部下がリーダーに対し、メンター/メンティーのように感情を表に出し合えるような信頼関係を築くことの重要さは明らかになりつつあります。

例えば、Googleは2012年から「プロジェクト・アリストテレス」という調査を行い、大きな成果を出すチームとそうでないチームの「ある違い」を突き止めたと言います。

それは、組織に「サイコロジカル・セーフティ(心理的安全)」があるか否か。部下がリーダーにいつでも何でも相談できる「安心安全」な雰囲気を作れるかが、組織のパフォーマンスを左右するのです。

これからは労働人口が減少し、ますます売り手市場となっていきます。リーダーと部下がメンター/メンティーの関係を築けず、従業員がパフォーマンスを発揮しきれない組織においては、優秀な人材から離れていってしまうでしょう。

それに、本来、人間というのは感情を率直に表明し、それを理解してほしいというのが根底にある。会社の中で「部品」としてではなく、「人間」として理解されたいんです。その思いをくみ取り、「何でも話していいんだよ」という上司の姿勢が必要です。

メンター上司に必要なのは「丸腰のリーダーシップ」

ーしかし、いきなり部下に「素直に話してくれ」と言っても、受け入れてもらえないかもしれません。

確かに、リーダーが心の鎧を脱いだからといって、部下もすぐに変わるわけではありません。チームビルディングにおいて、チーム全体、また、リーダーが部下と信頼関係を築くまでには、次の4ステップを経ることになります。

  1. フォーミング(形成期):チームが編成され、お互いが様子見する
  2. ストーミング(混乱期):個人の主張や意見がぶつかり合う
  3. ノーミング(標準期):お互いの役割や責任に気づき、チームの目標、ルールが形成される
  4. トランスフォーミング(達成期):同じ目標に向かって尽力し、達成感を共有する

どんなに優れたチームでも、メンバーが自分の価値観だけで意見することによる衝突、つまりストーミングは避けられません。そしてピラミッド型組織の場合、リーダーの声ばかりが大きくなり、いびつな構造になってしまいがちです。

そうならないために、2. ストーミング(混乱期)に際してリーダーのスタンスが重要です。

「丸腰のリーダーシップ」という表現を使っているのですが、リーダーが自らの弱みやもろさを認め、オープンにしながらリーダーシップを発揮すること。『スターウォーズ』のヨーダを想像していただきたいのですが、リーダーとして見られたいがために虚勢を張らない、部下に対しても攻撃、防御の鎧を着ないようなあり方です。

「部下からナメられる」くらいでも構わないと思うんです。「鎧を脱いでいいんだ」「この人なら話してもいい」と、部下が思えるまで、対話を重ねます。

今までなら、弱点を隠すために忙しいフリをしたり、部下から誤りを指摘されたら10倍返しにしたりする上司もいましたが、「人間なら誰しも弱点や欠点はある」と認め、チームが全体最適になることを考えたうえで各人の本質や強みに気づくこと。それがリーダーとしての役割だと思います。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

部下からして一人の人間として信頼できるかどうか、誠実であり、裏表がないか・・・ 「出世したい」というエゴはあっていいけれど、そこには「自分だけでなく、部下や仲間も」というバランス感覚も備わっているか・・・ 大切なのは、「やり方」よりもリーダーの「あり方」なのかもしれません。

読者の方も、職場でのご自身を振り返ってみてはいかがでしょうか。

上司は部下の「価値観教育」のパートナーたれ

ー「丸腰」のスタンスを理解したうえで、部下から本音や感情を引き出すためには対話をすればよいでしょうか。

仕事における「感情」とは、「内発的動機」と言い換えてよいでしょう。

人がはたらく動機には、「マネー(Money)」「メダル(Medal)」「ミッション(Mission)」という「3つのM」が挙げられます。そのうちもっとも内発的で持続性がある「ミッション」について話せるよう、対話を通じて部下を導きます。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事/株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役 荻野淳也

ミッションとは、「人生の目的は何か」「何のために仕事をしているのか」と問いかけたときに、部下の内面から湧き上がってくる使命感のこと。そういった問いかけは、大それていて、気恥ずかしささえ感じるかもしれません。けれども、臆することなく、部下と腹を割って話すことが大切。

「どんなことにワクワクするか?」など、感情の起伏が感じられるような問いかけをし、それに返答する部下の感情の山と谷を、表情や身振り手振りなどから確認するのです。

ーそういった問いかけは、部下の多くは考えたことはないかもしれません。

そうですね。学校でそうした問いをされる「価値観教育」を受けてこなかったこともそうですし、会社や上司がこれまで、部下を予算やタスク、あるいは給与、出世といった外発的動機で奮起させてきたからでしょう。

しかし最近は、「給与はそこそこでいいから、このまま出世せず自分のペースで・・・」という人も増えていますよね。外発的な動機づけはますます効かなくなってきているのです。感情、つまり「自分の人生の中で何を大事にしたいのか」「自分がワクワクするのはなにか」について、部下とひたすら突き詰めていきます。

注意したいのは、部下が心を開き本音を語り始めたら、それにかならず向き合うこと。「若手の言うことなんて・・・ まだまだ甘い」という上司の先入観は、たとえ本人が自覚していなかったとしても、表情や態度で部下に伝わってしまいます。普段部下に話しかけられても、目を合わせず会話を続けてしまうような人は要注意です。

対話の場は、1on1でもチームミーティングでもいいでしょう。ポイントは、「部下を評価する場」にしないこと。数字など厳しいことを一方的に言って評価してしまうと、部下はまた上司の評価に沿うような思考や発言しかできなくなってしまいます。

ー「評価」が安心安全な雰囲気を阻害するのですね。

はい。また、内発的動機について対話するためには、リーダー自身も「自分の価値観や強み、使命感は何か」という問いに対して日々振り返り、深めていく努力が必要でしょう。

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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