プロフェッショナルとして社外へ飛躍させてくれた「情報発信」―小川卓さん

2019/12/19

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PROFILE
小川卓さん
株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役

ウェブアナリストとしてマイクロソフト、ウェブマネー、リクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパンなどで勤務後、独立。ウェブサイトのKPI設計、分析、改善を得意とする。ブログ「Real Analytics」を2008年より運営。全国各地での講演は500回を突破。HAPPY ANALYTICS代表取締役、デジタルハリウッド大学院客員教授、株式会社UNCOVER TRUTH CAO、株式会社Faber Company CAO、株式会社日本ビジネスプレス CAO、SoZo株式会社 最高分析責任者、ニフティライフスタイル 社外取締役を現任。ウェブ解析士協会顧問、ウェブ解析士マスター。著書に『入門 ウェブ分析論』(SBクリエイティブ)、『現場のプロがやさしく書いたWebサイトの分析・改善の教科書』(マイナビ出版)、『あなたのアクセスはいつも誰かに見られている』(扶桑社)など多数。

前編はこちら

アクセス解析ツールが片手で数えるほどしかない黎明期からウェブアナリストとして活動し、第一人者としてのキャリアを築いてきた小川卓さん。この分野で数々の大手企業を経験し、独立後の現在は複数企業のCAO(Chief Analytics Officer)を兼任しています。小川さんが社内だけでなく社外でも知名度を獲得し、個人の名前で勝負できるようになったきっかけは何だったのか。そこには、キャリアのすべてを通じて大切にしている「信条」がありました。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん キャリアストーリー

情報を発信する人のところに情報が集まる

私がブログ「Real Analytics」を立ち上げたのは2008年のことでした。

当時はリクルートに在籍していて、グループ内の150ものサイトの運用サポートや、アクセス解析ツールの大規模リプレイスにあたっていました。

それらの仕事はとてもやりがいのあるもので、学びも多かったのですが、私は次第に「運用だけではなく、自分自身でも分析がしたい」と思うようになりました。解析ツールの設定や運用のお手伝いはするけど、自分が直接分析に携わるわけではない。設定や設計をしても、自分で結果を追いかけられるわけではない。そんな状況を変えたいと思っていたんですよね。

だから自分のブログを立ち上げました。学んだことをアウトプットしながら、どんな記事を書けば読んでもらえるのか、自身で分析する実験の場だったんです。

2008年頃の私は日々の運用業務に追われながらも、「アクセス解析のプロフェッショナルである」という自負を持っていました。しかし同分野に同じようなプロは少なく、アクセス解析をテーマにしたブログもほとんどなかったと記憶しています。別に孤独感を持っていたわけではありませんが、社外での新しい出会いも求めていたのかもしれません。

私には、インターネットと出会って自分でサイトを作り始めた高校時代から信条としていることがあります。それは「情報を発信する人のところに情報が集まる」ということ。どんなテーマであれ、自ら情報発信をすることではじめて、興味を持っていることが人に伝わるんです。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

例えば、会社に無類のラーメン好きとして知られている人がいるとします。その人はおいしいラーメン屋さんに詳しくて、社内でもよく知識を披露してくれている。もしあなたが旅先などで、たまたまおいしいラーメン屋さんを見つけたら、思い出すのはきっとそのラーメン好き社員のことではないでしょうか? 会社に戻れば「自分もおいしい店を見つけたんだよ」と教えてあげることでしょう。

情報というのはそうやって、発信する人のところに集まってくるものなのだと思います。

私の場合は、社内でも社外でも「この人はアクセス解析のプロなんだ」と認識してもらうことが大切でした。そうすることでアクセス解析に関する最新情報が集まってくるからです。たくさんのプロフェッショナルがいるような分野でも、一つ抜きん出る要素があるとすれば、それは「発信しているかどうか」だと思っています。

ブログを始めたことで、私には大きな転機がもたらされました。2009年には最初の著書を出したのですが、きっかけはブログを見た出版社から連絡をいただいたことでした。

また、当時はブログに「アクセス解析の団体が日本にもあったらいいのに」と書いていました。アメリカにはすでにアクセス解析のプロが集う場があったからです。すると、「ちょうど立ち上げを考えているんです」という人から声をかけていただきました。そうして「アクセス解析イニシアチブ」という、アクセス解析の人的交流と効果的な活用方法を広める協議会の立ち上げに参加することができました。現在も毎年登壇して、講演をさせてもらっています。

現在では、発信すること自体のハードルが下がっていますよね。SNSやブログなどのツールも豊富にあります。だからこそ、「思っているだけ」ではもったいない。少しでも世の中に価値があると思える情報なら、誰でも積極的に発信すべきだと思います。

情報発信は大事ですよ。発信することで妻と出会った私が言うんだから、これは確かです(笑)。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

「会社員としてやりきった感覚」を持っていた

リクルートを卒業してから、私はサイバーエージェントにアマゾンジャパンと、それぞれ異なる業種を経験しました。アクセス解析を軸にして、まだ自分が知らない分野の知見を得たかったからです。

リクルートはいわゆる「BtoBtoC」の事業。売り上げは基本的に営業が獲得してくるので、ウェブサイトの集客やコンバージョンを改善しても50倍、100倍になることはありません。分析や改善が直接売り上げアップにつながる仕事をしてみたかったので、BtoCの多様な事業を手がけるサイバーエージェントへ行きました。

アマゾンジャパンへ転職した理由もシンプルです。リクルートでもサイバーエージェントでも、ECを経験できなかったから。単純にECの中でも自分がよく使っているアマゾンを選びました。

その頃にはすでに書籍を何冊か出していたので、アクセス解析人材としての知名度はそれなりにあったと思います。自分がやりたい領域へ移りたいと思えば移れる。それはとてもありがたい状況でした。もちろん「LinkedIn」などを使って、自分のキャリアを発信することも怠りませんでした。

そして2015年、37歳のときに、私は独立という選択をしました。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

副業可だった企業に属していたこともあり、在職中から個別コンサルティングや執筆、講演などの外部の仕事がどんどん増えていました。現在も務めているUNCOVER TRUTHやFaber Company でのChief Analytics Officerの話もいただいていました。「会社員としてやりきった感覚」も持っていました。

もちろん家族がいるので、無条件にリスクを取るわけにはいきません。身近な人からは「え!? アマゾンを辞めちゃうの?」といったことも言われました。外部の仕事が増え、当時の会社の給料が1とすれば、自身のフリーランスとしての当時の収入は0.5くらい。しかしフルでフリーランスに取り組めば1.5くらいは見込めていました。そこで、十分に食べていける目処がたった上で、ソフトランディングで独立したんです。

どんな企業でも、どんなサイト規模であっても、アクセス解析の専門家としてやるべきことは本質的には変わりません。さまざまな大手企業や業種を経験してきたことで、私の中には確固たる自信も生まれていました。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

社会への貢献度合いを高めるために、自分を効率化する

一個人で数々の企業の案件と向き合っていくのは、当然ながら限界があります。すべてのご依頼を受けきれるわけではないので、独立前の段階から「いかに自分を効率化するか」を考えてきました。

もともとは、何でも自分でやるのが好きというタイプなんです。例えば出張時のホテルを予約するときには、「素敵な大浴場があるホテルがいいな」と検索サイトをあたります。でもそれだけではなかなか深いところまで情報が得られないから、該当のホテルについて書いている個人ブログを探して、「実際のところはどうなんだ?」と分析を始めちゃうんですよね。気づけば2時間が過ぎていた、なんていうことも(笑)。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

これではいけないと思って、フェイスブック上で「秘書をやってくれる人はいませんか?」と募集しました。するとリクルート時代に一緒に働いたことがある人が手を挙げてくれました。現在はスケジュール管理やメール返信、それこそ出張時のホテル手配など、純粋な分析に関わること以外の業務はほとんどお任せしています。

私自身のサイトには料金表をダイレクトに載せ、写真やプロフィール文なども自由に使っていただけるように公開しています。プロフィール文は388文字バージョンと243文字バージョンを用意しました。これによって、仕事のご相談が来る段階ではある程度、精度が高い状態になっているし、講演や取材のご依頼時にも不必要なコミュニケーションが生まれないようにしているんです。

また、自分が仕事をしているときのPC画面を録画して、後から振り返り、「ここはもっと効率化できるね」といった分析もしています。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

なぜここまでやるかというと……。実は独立後の一時期に、仕事を増やしすぎてプライベートを大切にできなくなった時期があったんです。私は20代前半からずっとアクセス解析一筋でやってきて、どんなに忙しくても仕事が嫌いになったことはありません。でも家族と過ごす時間や、自分自身の学びの時間が削られる状況になって、「これは本気で効率化しなきゃいけない」と考えるようになりました。

ちなみに私は蝶ネクタイをトレードマークにしているのですが、これは妻が選んで、いつも用意してくれています。服選びも効率化。すべて妻にお任せしているんです。翌日に取材や講演の予定が入っているときは、前日のうちに蝶ネクタイ付きのコーディネートを用意してもらっています。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

現在の業務時間は年間1800〜2000時間といったところ。Salesforceで時間単位の報酬なども集計しています。ありがたいことに収入自体は伸び続けていて、会社員時代の給料+個人収入と比べて、昨年は売り上げベースで3倍近くになりました。法人化して株式会社HAPPY ANALYTICSとなったのは、身も蓋もない言い方をすれば税金対策です。個人のフリーランスのままでもお仕事はいただけるし、「小川卓」という名前でブランドを作ってきたつもりなので。

この仕事は在庫を抱えないし、経費も対してかかりません。だから自分自身の実稼働の単価をどこまで高めていけるかが重要だと思っています。自分がどれだけ実稼働できるかによって、社会へ貢献できる度合いも変わっていく。そのためには効率化が必要なんです。

ブログをきっかけにして出会いや機会がもたらされて、世界が広がっていったときには、「これまでよりも大勢の人にアクセス解析の価値を届けられるんだ」ということが純粋な喜びとなりました。

それからは、アクセス解析ができる人材を増やしていくことを自分のミッションとして意識しています。中小企業でも、ある程度の社員数になれば必ず「経理担当者」がいるじゃないですか。同じように、データを見られる人材がどんな会社にも1人はいるような状態にしたいんです。だから今は大学院の教壇にも立っています。

会社規模や、運営しているサイト規模には関係なく、どんな会社にもアクセス解析のできる人材がいる。そうしてアクセス解析が当たり前の世の中になれば、インターネットはもっともっと面白く、ハッピーになっていくと信じています。

株式会社HAPPY ANALYTICS 代表取締役 小川卓さん

 

 

小川卓さんに聞いた“キャリア形成で大切なこと”

  情報発信
[編集・取材・文] 多田慎介 [撮影] 稲田礼子
2019/12/19

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