「誰かのため」をきっかけにキャリアを築く生き方もある―ユーグレナ永田暁彦さん

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PROFILE
永田暁彦さん
株式会社ユーグレナ 取締役副社長

慶応義塾大学商学部卒業。2007年、新卒で独立系プライベート・エクイティファンドの株式会社インスパイアへ入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年12月には同社の投資先だった株式会社ユーグレナの社外取締役に就任する。2010年4月、取締役事業戦略部長に就任。ユーグレナの未上場期より事業戦略やM&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門などを担当。財務・経営戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を務め、現在はユーグレナ取締役副社長のほか、株式会社ユーグレナインベストメント代表取締役社長、日本最大級の技術系ベンチャーキャピタルファンド「リアルテックファンド」の代表を兼任。

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36歳にして東証一部上場企業・ユーグレナの副社長を務める永田暁彦さんの歩みは、一見すると成功に彩られた道のりであるように思えます。新卒入社2年目で社外取締役となり、その後はユーグレナ経営陣の一員として上場実現に奔走。現在は強く関心を寄せる環境問題へのアプローチも先導しています。そんな永田さんの成功体験を探る取材で聞かれたのは、「今のこの立場になりたいと思って仕事をしてきた瞬間は一度もない」という言葉でした。ビジネスパーソンがキャリアを築くのは、何のためなのか。その本質を語っていただきます。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん キャリアストーリー

根拠も自信もない状態で社外取締役に

新卒でインスパイアに入社して2年目。僕は、投資先の1社であるユーグレナの社外取締役に就任することになりました。

なぜ2年目の僕が抜てきされたのかは、実は今でもよく分かりません。インスパイア創業者である成毛眞さんが決めたのかもしれません。疑問に思ったことは何でもストレートに聞いてしまう僕ですが、こればかりは聞けませんでした。

ユーグレナの代表取締役社長である出雲充は、当初はおそらく、この決定を歓迎していなかったんじゃないでしょうか。キャピタリストやコンサルタントとして、10年、20年と経験を積んでいるような人が来てくれたほうがうれしいに決まっていますよね。まさか2年目の若造が来るなんて思ってもいなかったはずです。

それが分かっていたから、社外取締役として、自分ができることを最大限にやろうと努力しました。

当時の僕に自信があったかというと、答えはノーです。自信のある人って、2種類あると思うんですね。「根拠があって自信もある人」と「根拠はないけど自信がある人」。その頃の僕は根拠もなければ、自信も持っていない状態でした。ユーグレナの社外取締役という器に、僕の自己評価はまったく追いついていませんでした。

だから努力するしかない。まず考えたのは、自分がどの分野でユーグレナに貢献すべきかということでした。

企業経営において、戦略やマーケティングなどの分野にはいくつもの解があります。そこに突然僕が割って入ってあれこれと意見をしても、簡単には受け入れてもらえないだろうと思っていました。

一方で、僕が大学時代に学んでいたアカウンティングや、リーガルといった分野では、解は一つしかありません。だからこの2つを徹底的に勉強しました。それが経営人材として最も早く成果を出せる方法だと思ったからです。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

この立場になりたいと思って仕事をしてきた瞬間は一度もない

出雲が月曜日に何かで困っていたら、火曜日の朝には絶対に答えになるものを届けるようにもしていました。

他の投資先の仕事も抱えたままそれを続けていたので、当然ながらハードな日々ではありました。それでも出雲に対して、そしてユーグレナを取り巻く人たちに対して、どうすれば価値を提供できるのかを常に考えていました。

一緒にやるからには、やっぱり好かれたいですから。

そして僕も、出雲のことがどんどん好きになっていきました。

脱帽させられるのは、その徹底力です。どこへ行っても「僕はユーグレナの出雲です」と伝わるようにコーポレートカラーである緑のネクタイを常に締めて、どんなことがあってもミドリムシだと言い続けて……。

「これは自分には真似できないなぁ」と思う部分がたくさんあります。もちろん出雲だって完璧な経営者ではないでしょう。100の事柄があれば1つや2つは間違うかもしれません。それでも、本質的な社会の課題をとらえる力は尋常ではないと思っています。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

僕が社外取締役となってからもユーグレナは成長を続け、「人と地球を健康にする」という理念に共感してくれる仲間が増え、僕自身は取締役に就任し、東証一部上場を果たすこともできました。現在はリアルテックファンドの代表も兼任し、強い関心と課題感を持っている環境問題へもアプローチしています。

ただ、今になって振り返ってみると、僕は36年間の人生の中で、今のこの立場になりたいと思って仕事をしてきた瞬間は一度もないんですよね。

このインタビューの冒頭でお話したことがすべてです。僕は大学に受かっていなければ保育士になっていたはず。

出雲を支えたいとか、ユーグレナの仲間のためにやりたいとか、ユーグレナに投資してくれる人たちに損をさせたくないとか、そんな思いで一つひとつのアクションを続けていたら、今の位置にはまっていたというだけです。

逆に言えば、そんな意識で仕事をしてこなければ、今とはまったく違う立場だったかもしれません。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

「上昇志向」や「成長意欲」だけが大切なわけじゃない

僕の中には、18歳の頃からまったく変わっていない価値観が存在しています。

最初は、決して裕福ではない中で地元の九州から送り出し、都会の大学に行かせてくれた親に迷惑をかけたくない、恩返しがしたいという思いがほぼすべてでした。

20代になってからは、インスパイアで若造の僕に機会をくれた成毛さんや、受け入れてくれた出雲に恩返しがしたいという思いで走ってきました。

ユーグレナが上場してからは、一緒に働いてくれる人や投資してくれた人を不幸にしたくないという思いが第一でした。そうして30代の半ばを過ぎてからは、いろいろな機会や力を、社会に貢献することに使いたいと思うようになりました。今でも決して自己評価が高いわけではありませんが、地球人口のおよそ70億人の中では、きっと真ん中以上の機会と力を与えられていると思っています。それを活用しなきゃいけないという義務感もあります。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

一方で、「自分のために何かをしたい」という気持ちはほとんどないんですよね。

まず、物欲がありません。身につけている腕時計はAmazonでいちばん安く売っていたG-SHOCKだし、今日も着ている白のTシャツは安く買えるものを5着そろえているだけ。あとは何だろう……。妻のおいしいご飯が食べられて、子どもの笑顔が毎日見られれば、もうそれだけで、家族がいてくれるだけでうれしいです。

みんなが何に対して欲があるのか分からないので、マーケティングをやっている人間としては課題かもしれないですね。「これがやりたい、あれが欲しい」という思いがある人を、うらやましくも思います。これはまったく皮肉めいた意味ではなく。

「なんで日本にはこんなに不親切な制度があるんだ」とか、「この状況を変えたい」といった憤りが負のパワーだとすれば、「社長になりたい」とか「お金を稼ぎたい」とか「いい車に乗りたい」といった欲望は正のパワーだと言えますよね。僕の場合は、そうした正のパワーがないから大学時代まで苦しんだのかもしれません。

ただ、そうした正のパワーは、資本主義のマーケティングによって植え付けられた面もあると思います。誰しも「人より幸せになりたい」と思うものだけど、現代はその指標が経済になっているだけ。昔はもっと違う価値観があったのかもしれないな、とも思います。

そう考えれば、正のパワーがないからといって、キャリアを築けないというわけでもないのでしょう。

キャリアというと、とかく「上昇志向」や「成長意欲」が大切だと思われがちかもしれませんが、僕はそれだけじゃないと思っています。必ずしも自分自身にベクトルが向いていなくてもいい。誰かのために頑張って、結果的にキャリアが付いてくるという生き方があってもいいじゃないですか。

少なくとも僕は、今後もそうやって生きていくのだと思います。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

 

 

永田暁彦さんに聞いた“キャリア形成で大切なこと”

自分を特別な存在だと思わない。

 

[編集・取材・文] 多田慎介 [撮影] 稲田礼子

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