当たり前に流されず「問いを立てる素直さ」でキャリアを開く―ユーグレナ永田暁彦さん

2019/12/10

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PROFILE
永田暁彦さん
株式会社ユーグレナ 取締役副社長

慶応義塾大学商学部卒業。2007年、新卒で独立系プライベート・エクイティファンドの株式会社インスパイアへ入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年12月には同社の投資先だった株式会社ユーグレナの社外取締役に就任する。2010年4月、取締役事業戦略部長に就任。ユーグレナの未上場期より事業戦略やM&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門などを担当。財務・経営戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を務め、現在はユーグレナ取締役副社長のほか、株式会社ユーグレナインベストメント代表取締役社長、日本最大級の技術系ベンチャーキャピタルファンド「リアルテックファンド」の代表を兼任。

注目を集めるバイオテクノロジーベンチャー「ユーグレナ」の副社長として、経営戦略策定や事業開発を牽引する永田暁彦さん。その経歴を紐解いていけば、新卒入社から2年目で同社の社外取締役に就任し、さらに2年後には取締役に就任するなど、早くからキャリアステップを駆け上っていった様子がうかがえる――はずでした。意外なことに、インタビューで語られたのは「10代のときも20代のときも劣等感ばかりだった」という言葉。世の中の価値観に自分を合わせることができなかったという永田さんは、「ある力」によってチャンスをつかんでいました。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん キャリアストーリー

取締役副社長でも保育士でも変わらない

いきなり妙なことを打ち明けるんですが、僕の悩みの一つは「キラキラしていそうなタイプ」に見られることです。

人よりちょっと背が高いせいか「たくさんご飯を食べそう」と言われますが、実際は牛丼屋さんの小盛りさえ食べきれないくらい少食です。「体育会系出身っぽくて、友だちが多そう」とも言われますが、僕は中学時代には一人でアニメを見るのが好きだったし、高校時代は半ば引きこもりで、大学生活にもあまり馴染めませんでした。

だから、人からキラキラしていそうだと思われるのはつらいものがあります。実際の自分の内側と、外側から見られるイメージのギャップにはいつも悩んでいました。

僕は10代のときも20代のときも劣等感ばかりで、自分が優秀だと思ったことはありません。高校時代は数学こそ得意だったものの、他の教科の成績はずっと低空飛行で、学年の240人中、いつも200番台が定位置でした。そもそも、クラス分けと称して大人たちに勝手に選ばれた30人とか40人といった集団に馴染めませんでした。

大学へ行けば変われるかも……と思っていましたが、そんなことはありませんでした。実際にキラキラしている人たちがたくさん集まっている入学式の風景を見て、「あ、これはダメだ」と思いました。外へ出れば一生懸命にサークルの勧誘をしている人たちがいます。「楽しそうだな」と横目に見ながら、自分もそうなれたらいいけど、なれないだろうなと感じていました。

大勢の中に埋没しながら、大学入学後の僕は留年を重ね、1年生を3回繰り返しました。高校でも大学でも、そこに何となく存在している「共通の価値観」に、どうしても自分を合わせることができませんでした。

そんな僕なので、キャリアというものに対する考え方は、世間一般の人のそれとはちょっと違うかもしれません。

僕の現在の肩書きはユーグレナという一部上場企業の取締役副社長です。でももし、今の僕が保育園で働く保育士だったとしても、価値観やスタンスは何も変わらないと思います。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

「不幸になる人が必ず生まれるゲーム」を戦いたくない

18歳のとき、実際に僕は保育士になろうとしていました。

子どもが好きだし、ともにソーシャルワーカーとして働いていた両親の影響もあったのかもしれません。決して裕福とは言えない家庭環境だったので、大学受験に際しては両親から「失敗しても浪人はできないよ」と宣告されていました。だから僕は「大学入試に落ちたら、将来の進路が明確な保育士の道に進む」と約束していたのです。実際に専門学校のパンフレットも取り寄せていました。

受験したのは慶應義塾大学。合格すれば必ず奨学金を受けられる状況で、親に負担をかけずに通える大学だったからです。SFC(湘南藤沢キャンパス)の学部と商学部を受けました。

このうち、先に合格発表があるSFCには相当な自信がありました。得意の数学は満点の勢いだったし、小論文では天才感を漂わせるべく、文字は一切書かずに絵を描いて原稿用紙のマス目すべてを埋めたからです。「SFC創設以来の天才が現れた!」と騒がれる予定だったのですが……結果は無残にも不合格でした(笑)。

もう一つの商学部にはいまいち自信がありませんでした。だから両親には早々に「俺は保育の専門学校に行くよ」と話していたのです。奇跡的に商学部に合格できたことを知るまで、別の将来を真剣に考えていました。

そうして、キラキラした人たちの流れに加われない僕の大学生活が始まりました。

みんな何かしらのサークルに入って、ゼミで楽しく合宿をして、やがて就活を始める。そんな、「日本の大学生として登らなければいけない階段」みたいなものがあるという事実を、僕は受け入れられませんでした。

世の中を見渡せば、至るところで価値観が固められているような気がします。高校のクラス内にはヒエラルキーがあり、大学では体育会系のキラキラした雰囲気が正しいとされている……。少なくとも当時の僕はそう感じていました。「イケてるか、イケてないか」の境目でジタバタするのがしんどくて、そうしたところから離脱して生きていきたいと思うようになりました。

就職活動でも「男子には○○、女子には△△」といった形で人気企業が挙げられますよね。それもよく分かりませんでした。社会の中で正しいとされている価値観に乗れないんです。

自分がよく分からないことはやれない。それは今も変わりません。

キャリア選択でも人生選択でも、世の中が作っている価値観を軸にすると、必ず勝者と敗者が生まれます。「不幸になる人が必ず生まれるゲーム」だと思うんです。あのGoogleだって、日本中の1億2000万人を雇用できるわけではありません。それが事実なのに、大学の同期がGoogleに就職して自分が中小企業へ就職すると「俺はあいつに負けた」と思う。

世の中の価値観に合わせて生きていくのだと決めた人は、それでいいと思います。でも「負けたと思う」ことで不幸になる人は絶対にいるし、それが自分になるかもしれない。世の中の価値観に自分を合わせに行くって、そういうことですよね。

僕はそうはなりたくないんです。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

「行動力」や「発想力」を評価してもらうという体験

「永田くんはなかなか面白そうだね。うちにインターンに来てみない?」

悶々とした大学生活を送っていたある日、ふと足を運んだダーツバーで運命を変える出会いがありました。その人は、僕の最初の就職先になるインスパイアの、当時の副社長でした。

興味本位で参加してみると、そこには「東大生」や「京大生」と名乗る、いかにも優秀そうなインターン生たちがいました。高校や大学での順位付けでは、僕がまず勝てない相手です。

インターン生に出された課題は「人材紹介業を営む企業がマーケットで勝つための方法をコンサルティングする」というもの。他の学生は人材紹介業のマーケットリサーチをしたり、事業を因数分解したりしていました。

一方で僕は、その会社のサービスを実際に使っている企業約50社にアポイントを取って会いに行き、客先の担当者の声をもとにしてレビューをまとめました。

結果、思いもよらず僕は圧倒的な評価を得たのです。他のインターン生たちよりも、圧倒的に。

その体験を通して僕は、勉強以外にも順位付けされることがあるのだと知りました。高校や大学での競争では、「行動力」や「発想力」を見てもらえる機会はなかなかありません。学校の成績だけで評価される世の中では自分は価値を発揮できないと思っていたけど、実際には人間にはいろいろな価値があり、いろいろな可能性があるのだと知ったのです。

50社もの企業から地道に話を聞くという方法を取ったのは、僕が「自分が分からないことはやれない」という人間だったからです。「分かる」の最大要素は体験ですよね? 人材会社のサービスは人であり、人について考えるときにはデータでは見られないと思ったので、体験して理解しようと考えました。

疑問を感じたことは徹底的に追いかけ、答えを探すために体験を求める。そんな僕のスタイルは今も変わりません。

例えばユーグレナのファイナンスは結構特殊だと言われていて、「どんな本を読んで勉強したんですか?」と質問されることもあるのですが、実は僕、ほとんど本を読みません。本を買うことは買うのですが、何が書いてあるのかだけを認識して、必要なときにだけ読むという感じです。

ある意味では僕は常識がなくて、「問いを立てられる素直さ」だけで戦ってきているところがあります。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

自分が分からなければ「なんで?」「なんで?」「なんで?」を繰り返す

こんな話をすると、「問いを立てるのって難しいんだよなぁ」と思う人もいるかもしれません。

僕が純粋に問いを立てられるのは、自分に知識がないことを知っているからだと思います。「知らないことが恥ずかしい」とは思わないんです。

おそらく多くの人は、知らないことを恥ずかしいと思う癖がついてしまっているんじゃないでしょうか。「相手に無知だと思われるのが怖い」とか。そうなると、些細な疑問をぶつけられなくなってしまうのも当然だと思います。自分で自分を無知だと認識していれば、何も怖くないですよ。

僕は疑問と興味が湧いたことはつぶさないと気が済まないし、疑問と興味が湧いたことは絶対に答えを見つけようとしてきました。

ユーグレナの取締役として上場準備を担当していたときも同じです。「IPOのときって、なんで証券会社が何社も必要なの?」と周囲に聞きまくっていました。「幹事証券会社というのはそういうものですよ」と言われても、自分が納得できるまでは何度も聞いて、調べました。周りの人が当たり前だと思っていることだとしても、自分が分からなければ「なんで?」「なんで?」「なんで?」を繰り返します。

相手に対して失礼に当たらない質問なら、変に抵抗を感じることなく、どんどん投げかけていいと思います。質問は相手に対する興味の表れ。無関心よりは100倍いいじゃないですか。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

インスパイアに入った頃には、こんなこともありました。

インスパイアは、マイクロソフト日本法人で社長を務めた成毛眞さんと、住友商事で代表取締役副社長を務めた芦田邦弘さんが作った会社です。そんな2人に初めて会うとなれば、普通はビビってしまうものなのかもしれませんが、何しろ僕には知識がありません。大学4年生の頃の僕はマイクロソフトも住友商事もよく分からなかったくらい。だから僕は2人に面と向かっても「はぁ、すごいっすね」といった薄い反応でした(笑)。

すごいっすね、なんて言いながら、そのすごさが分かっていなかったんですよね。

世の中の多くの人は、ある意味では物事を知りすぎていて、勝手に相手のすごさを認識して尻込みしてしまうところがあるのかもしれません。もちろん無知は失礼につながることもありますが、最初から萎縮して不必要に尻込みしていても、いいことはありません。そもそも、出会うすべての人たちに好かれようと思っても無理なわけですから。

もう一つだけエピソードを。

最近、僕の友人たちがどんどんIPOを果たしています。どういうつながりの友人かというと、「カタン」などのボードゲームを楽しむ仲間たちです。この集まりには「毎回新しいゲームを買ってくる」というルールがあります。10年将棋を続けている人と初心者が対局しても、絶対に勝てないじゃないですか。それでは面白くないので、毎回未知のボードゲームと出会えるようにしました。

みんなでルールを読んで、「よーいどん」で始める。そうすると、少しずつナレッジを蓄積しながら勝っていく人、瞬発力と直感で勝っていく人など、それぞれの特徴も見えてくるんです。全員がゼロからスタートしているので、互いに純粋な問いを立てて、スキルを盗み合おうとします。

そんなふうに無知な者同士で、経済的背景を無視してつながりあえる場があることも大切だと思っています。普段はあまり意識していないだけで、そうした場は案外、誰にでもあるのかもしれませんね。

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 永田暁彦さん

後編はこちら

[編集・取材・文] 多田慎介 [撮影] 稲田礼子
2019/12/10

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