サイバーエージェント史上最年少取締役卜部宏樹が語る若手の戦い方

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2014年12月に株式会社サイバーエージェントの取締役に史上最年少で就任した卜部宏樹(うらべひろき)さん。就任当時は、まだ28歳でした。

サイバーエージェントといえば、代表取締役社長の藤田晋さんら、日本のインターネット産業にその黎明期から携わる人物たちが舵取りをするIT企業です。そんな同社で、ほかの取締役の方々に比べれば社会人年数が圧倒的に短い卜部さんはどのようなマインドで仕事をしているのでしょうか。

株式会社サイバーエージェント 取締役 卜部宏樹

PROFILE

株式会社サイバーエージェント 取締役 卜部宏樹
卜部宏樹
株式会社サイバーエージェント 取締役
2010年サイバーエージェント入社。同年7月に株式会社アプリボットを設立し、取締役就任。2011年2月にはアプリボット代表取締役社長就任。2014年4月にサイバーエージェント執行役員、2014年12月にサイバーエージェント取締役就任。2015年4月には株式会社AbemaTV取締役副社長に就任、来春の「AbemaTV」サービス開始にむけて準備中。

答えのない問題を前に年上も年下のない

ー卜部宏樹さんは子会社の社長を経て、取締役に抜擢されました。経緯を教えてください。

取締役になる前は、スマートフォンゲームを開発する子会社のアプリボットで社長を務めていました。アプリボットは世界で500万ダウンロードされた「LEGEND OF MONSTERS」「LEGEND OF CRYPTIDS」などを生み出し、現在は創業から5年目で従業員数200名にまで拡大しています。

新卒で入社したばかりの頃から、藤田(前出の藤田晋氏)には「自分で事業をやらせてほしい」と言い続けていました。藤田から「それなら新規事業を提案して」と言われ、「それなら」と真に受けて提案したのがスマートフォンサービスでした。

 

ーそのときに提案したのが、いまのアプリボットの事業内容だったのですか?

いいえ、実は違います。その提案自体は、「学生が考えた感じ」と藤田にあっさりと却下されてしまいました。しかしその頃、藤田はスマートフォン市場がこれから必ず伸びると確信していたようで、「スマートフォン関連の会社をやってみないか」と言われました。

「はい」と即答。それがいまのアプリボットです。設立当初、私は日高(サイバーエージェント副社長 日高裕介氏)とともに取締役として参画し、その後社長に就任することになりました。藤田の読みも当たり、アプリボットは急成長しました。

 

ーその実績を買われ、本体の取締役に抜擢されたのですね?

サイバーエージェントには「CA8」という、2年に一度8人いる取締役のうち原則2名を入れ替える制度があります。昨年(2014年)10月に行われたグループ総会で、新任役員について藤田の口から発表されました。「CA8になる」と常日頃から公言し、いつ選ばれてもいいように心積もりもしていたので、驚きはありませんでいた。

 

ー最年少取締役としてのプレッシャーは感じませんでしたか?

最年少だからというプレッシャーはなかったのですが、就任したばかりの頃は取締役会のレベルについていけずなかなか発言できませんでした。

いまでも、経験がないと議論に参加しづらい話もありますが、インターネット業界は変化が激しく、解決すべき課題のほぼすべてがだれも直面したことのないようなものも多くあります。そのような課題に対しては、年齢関係なく課題の解決策としての「正解」を持っているひとはいません。ですから、そういったものに関してはどんどん議論に入っていくようにしています。

 

ー過去にそう思うようなきっかけはありましたか?

アプリボットを立ち上げてから半年後ぐらいに、開発中のあるスマートフォンアプリを藤田に見せに行ったのですが「そんなクオリティが低いものは流行るわけがないと思う」と言われたことがあるんです。

しかし、自分はいけると思ったので、当時上司だった日高のGOサインのもと、サービスをリリースしました。たしかに指摘どおりサービスのクオリティは低かったのですが、まだスマートフォン市場自体が未成熟だったこともあり何とかビジネスにすることができました。インターネットサービスの目利きについてかなり経験を持っている藤田でも、いつでも「正解」を持っているわけではないのです。

 

ーヒットの要因は何だったのでしょうか?

振り返ると、要因は2つ考えられます。まず1つは、私は藤田のことを尊敬はしていますが、憧れないようにもしていることです。もしも憧れていたら、彼のいうことを鵜呑みにし、自分の提案を押し通すようなことはできなかったと思います。

当社にかぎらず、たとえ相手が世の中的にもカリスマと呼ばれるような経営者、上司であっても、決して神格化はしないこと。会社の方向性に合わせていくことも大事ですが、神格化してしまうと「そのひとはすべて正解を言い当てられるひとなんだ」という錯覚に陥りやすいと思います。

もう1つは、藤田と私との間に立つ日高と私の信頼関係でしょう。ビジネス経験でどうしても劣る私の、しかも一度社長に却下された提案に対してGOを出すというリスクを取ってサポートをしてくれました。

日高は当時、「卜部がいけると思うならやってみろ」と言ってくれました。ベテランの助言を踏まえ、若手が意思決定をする。このアプローチが、Webサービスにおける新規事業開発の特性に合っていたのだと思います。

また、若手の自分には、挑戦に二の足を踏むことにつながるほどの失いたくない立場や否定されたくない実績、成功体験があるわけでもない。そのことも、あのときの挑戦を後押ししました。

株式会社サイバーエージェント 取締役 卜部宏樹

目的に集中することが関係を対等にする

ー現在の卜部さんのミッションは?

私の最大のミッションは、今年(2015年)4月にテレビ朝日との合弁会社として設立し、私は副社長を務める新会社が開始するスマホ向け無料動画サービス「AbemaTV」の事業を成功させることです。この会社は、「動画事業に注力する」と公言している藤田が自ら代表取締役社長を務めるほど、サイバーエージェントグループにとってもっとも重要な戦略的事業の一つです。

 

ー藤田社長と密に連携を取ることも多いのでは?

はい。いまはサービスの立ち上げ時期ということで、まずは藤田が実現したいイメージを形にするべく、私は事業を推進しています。今後、事業の進捗次第では藤田の実現したいことをチューニングすることもあるでしょう。

新会社はテレビ朝日と共同出資して設立したジョイントベンチャーで、仕事で対峙する相手は商習慣の違う異業界のプロフェッショナルの方々。若手にはない、長年の経験がモノを言う場面に出くわすことが何度もあります。

特に、テレビのように業界慣習が確立され、長年にわたる経験者が豊富にいる業界の場合、若手であることだけで勝負するのは難しいです。動画コンテンツのノウハウや業界ネットワークが豊富なテレビ朝日とスマートフォンというデバイスを知り尽くしたサイバーエージェントとでタッグを組んで新サービスに取り組んでいるので、自分たちの強みの部分で発言するようにしていますね。

 

ー常に藤田社長と対等な関係で仕事をされているのですね。

実力や経験には大きな差を感じていますが、自分に求められている役割を果たすためには上下関係を意識しすぎるとそれが弊害になることもあるでしょう。取締役8人の中の一人として役割を果たせるように意識しています。そういう意識があるのは、あえてビジネスの具体的な目標を持たずに、「とにかく大きなビジネスをやりたい」ということだけに集中しているからではないかと思います。

具体的な目標とは、つまり目先の目標のこと。それを掲げ、とらわれすぎてしまうとビジネスに対する熱量が失われ、達成状況をレビューする際に上司の前でつじつまを合わせようとどうしてもしてしまいます。

ですからそうではなく、大きなビジネスをやりたいというよりシンプルな基準でモノごとを判断するようにしています。すると、本来の目的により集中できるようになり、仕事で対峙する相手が年上であろうが、自分よりも実績があろうが、カリスマであろうが関係なくなるんです。

利用者数にしても、業績にしても、世の中に大きな影響を与えるものを生み出したい、という気持ちが仕事の源泉だからかもしれません。自分の会社で作ったアプリが初めてヒットしたとき、自分では想像もしてなかったほど嬉しかったのを覚えています。それと同時に次は同じ規模のヒットでは満足できないと感じる自分もいました。この体験が「世の中に大きな影響を与えるものを生み出したい」という気持ちにつながっていると思います。

発言に現実をアジャストさせる

ー卜部さんには自信をひしひしと感じます。

私と同じように若く、実力がまだまだだったとしても、上司などだれかとビジネスの場面で対峙するときには、自分の実力以上の自信と高い目線を持って対話すべき。その意見が間違っていたとしても、言ってみないと前に進まないことが多いからです。

それに、たとえ自分の発言と実力との間に乖離があったとしても、その発言に現実を合わせていけばいいんです。粘り強く仕事をするうちに、実力が追いつくこともありますから。「環境がひとを育てる」とは言いますが、まさにそうです。

 

ー卜部さんの突破力があってこそ、ですね。

一方で、「ベテランの方々に対して、生意気なことばかり言ってきたな」という自覚は正直あります。私は藤田や日高といったまわりに恵まれ、運が良かっただけなのかもしれません。

それでも、「とにかく大きなビジネスをやりたい」ということだって、何年も言い続けたり、やり続けられるひとなんて、全体の数%なのは確かです。続けていれば、上の世代にとって脅威的な若手にもなれるでしょう。

株式会社サイバーエージェント 取締役 卜部宏樹

[取材・文] 大井あゆみ

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