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自分よりも若い下の世代との接し方がわからない。優秀な若いひとの芽を摘んだり、自分よりも下の世代のひとたちに自分の成功体験や昔のやり方を押し付けることについて心あたりがある。下の世代と接するとき、遠慮されているように感じることも・・・。
今回の記事は、本誌読者のある40代ビジネスパーソンのこんなお悩みの声が出発点となっています。しかし、部下をもつ方なら誰もが一度は抱える悩みではないでしょうか。
そんな悩みを受けて、「悩んでいるのならまだいい方。“本質に気づいている、問題意識を持っている” ということだから」と語るのは、TomyK Ltd.代表の鎌田富久さんです。
鎌田さんは投資回収までに比較的時間を要する技術系ベンチャーを支援するエンジェル投資家としての顔をもちます。これまで、次世代の電動車いす「WHILL」やGoogleに買収された東大発ロボットベンチャーの「SCHAFT」など、常に話題となる企業を支援されています。
鎌田さん自身は「学生時代に起業してベンチャーを始めたのでほとんど上のひととばかり接してきた」と言います。逆に現在は、若い起業家を相手に支援しているので、接するのが20〜30代の方ばかり。そんな若い世代を支え続ける鎌田さんに、下の世代とのコミュニケーションのポイントについてお話を伺いました。

PROFILE

- 鎌田富久
TomyK Ltd. 代表 - 1961年生まれ、愛知県出身。東京大学大学院 理学系研究科情報科学 博士課程修了。理学博士。東京大学在学中にプログラム技術を活かし、ソフトウェアのベンチャー有限会社アクセス(現・株式会社ACCESS)を1984年に共同で設立。2001年に東証マザーズに上場、グルーバルに事業を推進。2011年、50歳を機に退任し、これまでの経験を活かし、テクノロジー・ベンチャーを支援するTomyKを2012年に設立した。
答えを見つけさせる、遠回りはさせない
ー若い起業家と接する上で気をつけていることはどんなことでしょうか?
昔は、自分の若いときに目上のひとに話を聞いてもらえることがありがたかったです。当然至らないところだらけで、表現もヘタですから、若者を頭ごなしに否定せずに、相手の思いを汲み取ることは簡単なことではないはずです。それでも、まずは聞いてくれるという姿勢がうれしかった。
裏を返せばやはり、頭ごなしにせずに若いひとが言っていることを聞いてみようという姿勢が大事ですね。言わんとしているその言葉や行動には、何か良いヒントが含まれているものです。
普段、若い経営者と接する上で気をつけていることが2つあります。
1つめは、可能性を信じてあげるということ。最初にお伝えした、頭から否定しないということです。
2つめは、若いひとってどうしても自分の世界の中でだけでものを見てしまうので、視野を広げてあげようとしています。「こういう方向から考えてみたらどう?」とか、一歩下がって「そもそもなぜ問題になったんだっけ?」とか。
若いひとはよく目の前のことにとらわれて、それだけを解決しようとしてしまうので、本人があまり気がついていないところにも視線を向けるようにしています。すごく伸びるひとや成長するひとというのは、学習する能力が高いので、少しヒントを出してあげればいい。
例えば、ひとを採用するのに、3年後をイメージして「全体の人数このぐらいになって、そのとき、こんなひとが必要になっているはずだよね」とか、「君たちが世界で大成功するためには、こういうひとがいないとダメだよね」とか。
ひとから言われてそのままやるというのは、実は身にならない。答えを言うのは簡単だけど、見つけさせるようなやり方がいいですね。回りくどいかもしれないけど。
ーそもそもどんな基準で若い起業家を支援されているのでしょうか。
基準は2つあって、1つめは技術的に大きなインパクトを起こす可能性があること。2つめはやっているひとやチームの伸びしろ。技術力があるのは必要なことですが、それよりもむしろ、若いベンチャーがこれからどれだけ伸びるかの可能性のほうが、いまの能力よりも大事です。
ひとの話を吸収して成長するタイプ、情熱を持って学んでいこうというタイプかを見ています。
ー常に10社ぐらい支援されていると聞きましたが、最近支援されているところはどのような企業ですか?
最近、支援先に加わった中に画像認識の「LPixel(エルピクセル)」というのがあります。東大発のベンチャーで、彼らが起業する準備段階から相談に乗っていました。
画像認識という分野はこれからあらゆる分野で重要ですし、ユニークなのが生物科学、細胞、微生物などミクロな世界を扱う、これからは特に医療において重要になる技術を持っていることです。
創業メンバーは研究者3人。3人とも会社経営自体が初めての経験なので、大企業との付き合い方や人材採用、契約など、普通の企業なら専門部署があってこなしてくれますが、ベンチャーは何でもゼロからスタートです。一つひとつの具体的な問題へのアドバイスということもありますが、なるべく応用できる考え方を伝授するようにしています。
例えば、独占契約をどうするか、メリットとデメリットをどう考えるか、大企業が要求してきそうな条件などを伝えています。うまくいかないことは日々起きるけれど、その経験を次に生かしていくというのが大事です。
ー若い起業家とどんなふうに接していますか?
わりと気さくにやっています。僕の方からすると若いひとの考えに刺激を受けることが多いです。一方的な話ではなく、教えてもらうこともありますので。
難題を投げかける、引き際を見極める
ー鎌田さんご自身が “若い方を支援することは勉強になる” という姿勢で関わっておられるんですね。
それは自分が若くて年上のひとに育ててもらったときに、経験はお金では手に入らないことを知ったからですね。経験を積まないとわからないことがある。どんな話でもその中に役に立つことってあるし、いまは若いひとが話すことの中に自分の知らないことが必ずあり、そこに発見があります。
ー創業支援は骨の折れる仕事だと思いますが、そのモチベーションはどこから湧き上がっているのでしょうか。
自分の興味ある分野しかやってませんので、むしろ楽しませてもらっています。自分も育ててもらったのがあるから若いひとのエネルギーをもらって一緒に楽しんでいる感じです。
ー一緒に楽しむというのが若いひとの芽を摘まない最善の策かもしれませんね。
そうですね。それと技術系のベンチャーを支援しているので、実現が一見難しそうなアイデアも「彼らは天才なんじゃないか」と思って、「こんなことできる?」と言ってみる。そうしたら意外とできてしまうことがあって、そのときはとにかく嬉しいです。
例えば、前述のエルピクセルですと、2014年の春に学術雑誌「ネイチャー」でSTAP細胞問題がありましたよね。エルピクセルはちょうど画像解析の技術に長けたベンチャーだったので、設立してすぐのときに「ネイチャーのSTAP細胞の画像の不正加工の真偽を見破れるんじゃないか」と彼らに振ってみたら、一週間ぐらいで画像不正検出ソフトを開発してしまったんです。
「じゃあこれもう発表しよう」となって、画像解析のソフトウェアを公開しました。4月にプレスリリースすると、すごい反響があり、NHKの「クローズアップ現代」などでも取り上げられました。
ー若い方の引き出しを開けてあげている感じがしますね。
こいつらできるんじゃないかと思って、何か目標を振ってみたら意外とできてしまうことがあります。
似たような例では、「Genomedia(ゲノメディア)」という遺伝子解析のベンチャーがあります。新潟市が農業特区になっているので、そこに何かゲノムの最新技術を活かした提案ができないかと思い、新潟の名産である茶豆の美味しさを分析できないかと言ってみたらできてしまった。その後、新潟市、Genomedia、電通の3社で協業が進んでいます。
こんなふうに若いひとや部下の可能性を信じてあげて、できると思ってあえて難しい課題を振ってみるのもいいかなと思っています。
ー自分も答えを知らないことに一緒に挑戦するときはどうですか?
まずは「やれやれ」とけしかけます。少し実験してみようとか。すぐに答えが出ないときは深入りはしないですが、ただその可能性を摘まないようにしています。もしかしたら何かあるんじゃないかと。自分も興味があるので、若者たちに教えてもらう感じです。
あとは変な方向に行きそうなとき、たいていのことはやってみていいと思うのですが、これは失敗したら企業にとって致命傷になるというときは「早めに手を打ったほうが良い」と強めに言ったりします。
例えば、経験のある営業のひとを即戦力として雇ったとします。でも3カ月ぐらい経って、どうも実力が伴っていない、会社に合わないというときに、もう少し様子を見るか迷いますが、こういうときは入れ替えたほうが良いです。ベンチャー企業は時間に余裕がないので、そんな状況を長く続けると致命的になるので、早めに決断します。

自分よりもほかのひとのことを先に考えられているか
ー若い方の目線が高くなったことを実感するのはどんなときですか?
目標を外さないで目の前の問題に向き合えるようになったときに感じます。「将来的にはこういうことをやりたいので、まずはこれこれしかじか」と整理した上で相談してくるか、あたふたして課題の説明に終始しているかというときの差はありますね。
あとは、経営者として全体を見渡さないといけない場合に、苦しくなると自分の問題にばかり目がいきがちですが、そんなときにでも自分よりもほかのひとのことを先に考えられていると成長したと感じます。
うまくいかなくなると、自分以外に原因を考えがちです。そういうタイミングで、もともとやりたいことが違ったとかメンバー内で意見が出てくる。そんなときは、一度原点にもどって、メンバー間で目標を確認することが必要です。メンバーの目標がずれていると行く方向に迷ってうまくいかなくなります。
またうまくいきすぎても若いチームって「おれがすごいんだ」と言い始めて、その中の一人が目立つと誰かがひがむということもありますね。そういうときには、メンバーのそれぞれの役割は何で、お互いの信頼と尊敬を確認したり、全員のプロ意識を引き上げることも大事ですね。
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若い起業家とともに楽しむ姿勢を大切にされている鎌田さん。そしてそのために、支援する相手を尊敬し、最新技術や研究にも興味を注いでいるそうです。DODAの過去のインタビューで、鎌田さんの支援を受けた「Moff」の高萩さんは「鎌田さんは何の説明もなくバックグラウンドにあるテクノロジーを理解して評価してくれた」とお話していました。
また、文面では伝わりづらいですが、お話をお聞きしている間も、終始穏やかにお話してくださいました。これも若いひとたちが話しやすい空気をつくるポイントのひとつではないでしょうか。
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[取材・文] 狩野哲也
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