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”本を読んでビジネスフレームワークを知り、自分が少しだけ賢くなった気がするけれど、肝心の仕事の内容は一向に改善されません” というお話をよく聞きます。
こう話すのは、グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長の荒木博行さんです。荒木さんは社会人向けにMBAプログラムを提供するビジネススクール「グロービス経営大学院」で、「経営戦略」や「クリティカル・シンキング」といった科目を担当されています。
そんな荒木さんに、冒頭の悩みに応えるようなビジネスの現場でフレームワークを自由に使いこなすために必要な視点を、事例を交えながら教えていただきました。「ビジネスフレームワークは知っているけど、その使い方が分からない」という方、必読です。

PROFILE

- 荒木博行
グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長/オンラインMBAプログラム 責任者 - 新卒で商社に入社し、5年の在籍期間を経て株式会社グロービスに転職。法人向けの営業・コンサルティング業務を始めに担当し、その後、経営教育研究の組織へ異動し現在に至る。著書に『ストーリーで学ぶ戦略思考入門――仕事にすぐ活かせる10のフレームワーク』、『27歳からのMBA グロービス流ビジネス基礎力10』、『27歳からのMBA グロービス流勉強力』、『27歳からのMBA グロービス流リーダー基礎力』(共著)
TO DOリスト的仕事から抜け出せ
ー難しいと思われがちなビジネスフレームワークですが、荒木さんが考えるその有用性は何でしょうか。
われわれは無意識に仕事をしていると、どうしても視野が狭くなってしまいます。「クライアントに電話しないと」「会議の資料を作らないと」など、多くの仕事は「TO DOリスト」と化し、その山に埋もれてしまいがち。もしかしたら、仕事の時間の9割5分はそういうことに使われているのかもしれませんね。
そのように一つひとつの仕事を個別に打ち返していくことももちろん大切ですが、そのようなタスクをこなしながらも、常にもう一方の頭の中では「こなしている仕事に抜け漏れはないのだろうか?」「そもそも今考えるべきことは何なのだろうか?」ということに対する思いを巡らせるべきでしょう。
そのときこそが、フレームワークが生かされるとき。自分の取り組みをより広い視野で振り返り、軌道修正を図るべきときこそ、フレームワークの出番なのです。
しかし、フレームワークを知っていても、使い方が分からない。使ったとしても実務に生かされている実感が得られないという方は多いでしょう。例えば、取り巻く環境を分析するための有名なフレームワーク「3C」だってそうでしょう。

環境分析をする際には、「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」、3つの要素をバランスよく分析することが大切です。この3つの頭文字を取って「3C」。ここまでは多くの人が知っていることです。
しかし、この3Cの視点が求められるのは、「環境分析」のときだけに限ったことではありません。ビジネスに向き合うすべてのタイミングで、この3つのCをバランスよく考えておくことが大切なのです。
例えば、社内の調整ばかりを考えているようなひとは、知らず知らずのうちにCompany(自社)の視点ばかりを意識して仕事をするようになります。つまり、顧客や競合が一切目に入らなくなってしまうのです。
しかし、「何のための社内調整なのでしょうか?」「そもそもその社内調整はどこまで必要なのでしょうか?」そのような「そもそも論」を考えるためには、市場や顧客、そして競合に対する理解が必要になるのは言うまでもありません。社内だけの視点では、決して良い仕事はできないのです。
そのような俯瞰的な視点が欠けてしまいがちなとき、フレームワークは「視野矯正のレンズ」として、自分が広い視野を持てているかを確認するための役割を果たしてくれます。TO DOリスト的な仕事から脱却するのを手伝ってくれるのです。
直感を大切にしながらも、ロジックで整合性を取る
ーフレームワークの実用の仕方を教えてください。
例えば、とあるコーヒーチェーンの企業が、新しいコーヒーを開発しようとしているとしましょう。
おそらく商品開発の部署では「先日開催したイベントではどのような味の試飲が好評だっただろうか」「ラテやマキアートなどの現在の商品ラインナップからして、もう少しブラックに近い深い味がいいかな」といった話が出てくると思います。
そのようにして出てきた、自分たちが試してみたいアイデアを企画に落とし込んでいくという視点は、初期段階では大事なことです。自分たちのやりたいことやインスピレーションというものは、ビジネスを考えるときに極めて大事なことですから。
しかし、だからといって、そのアイデアを実現することありきで、すぐに提案書の作成に着手するようではいけません。直感に基づく仮説も大切ですが、ちゃんと押さえるべき視点を押さえているか、という確認が必要です。そして、例えば今回のようなときには、マーケティングのフレームワーク「4P」が活用できます。

4Pとは、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通チャネル)」「Promotion(コミュニケーション)」の頭文字をとったもので、マーケティング戦略を立案する際に、それぞれの整合性が取れていることを確認する際に有効です。
大変有名なこの4Pですが、実はその上位概念にあたるフレームワークが存在することはご存知でしょうか。それが「STP」です。
顧客グループを分類する「S(セグメント)」、対象顧客のセグメントを選定する「T(ターゲティング)」、そのセグメントにおける自社製品の位置づけを決定する「P(ポジショニング)」の略。
4PはこのSTPと組み合わさって初めて効力を発揮し、より広い視野に立った上でマーケティング施策を決定することができるのです。

つまり、コーヒーチェーンの話に戻りますと、まずはSTPを使って、たくさんいる潜在顧客の中で「誰が本当の顧客なのか」ということを決め、その顧客にとって自社をどのような位置づけ(=ポジショニング)にしていくのか、ということを考える必要があります。その上で、そこまでのストーリーに整合する形で、4Pという具体的なマーケティング施策を考えていくのです。
万人受けを狙いすぎてかえって特徴の見えないサービスになってしまったり、商品とプロモーションがまったくかみ合っていない、という課題に直面することもあると思います。こういった課題は、すべてSTP~4Pの設計がうまく考え抜かれていない場合に起きることなのです。
数は少なくてもいいから、徹底的に使いこなす
ーフレームワークを使う際に陥りがちな罠は何でしょうか。
1つめの罠は、フレームワークを単なる「整理の道具」としてとどめてしまうこと。つまり、フレームワークで事象を整理して、それで満足してしまうことです。
例えば、3Cというフレームワークを用いる際、3つの箱、それぞれを埋めることで考えたつもりになり、「その3つの視点の整理から何が言えるのか?」ということにまったく思考投入がされていないような場合があります。一般的に、このような状態に陥ったひとは「塗り絵症候群」と呼ばれています。箱を提示されて、その箱を塗る(=埋める)だけで満足してしまうのですね。
フレームワークを使った整理は、あくまでも最初の小さな一歩です。そこから全体を俯瞰して考えた結果、何が言えるのかということを、それぞれの箱の分析結果をつなぎ合わせ、ストーリーとして語れるようになることが大切です。
2つめの罠は、学んだフレームワークを何にでも当てはめてしまおうとすることです。
3Cを学んだからといって、すべてのケースで3Cを使おうとするひとがいます。当たり前ですが、今回ご紹介した3Cも4Pも万能なフレームワークではありません。適した場面というものがあります。もちろん習熟のためには「とりあえず使ってみる」ということは悪くないのですが、それよりも「何のために作られたフレームワークなのか?」「どういう場面に適したものなのか?」ということを理解すべきでしょう。
例えば、それぞれのフレームワークには、どの視点から物事を見るのかという「高度」というものあります。一例として、比較的高度が高い視点からビジネスを把握する目的を持つフレームワークが「PEST」です。

PESTとは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)という4つの視点で、その変化とビジネスに与える影響を読み解くフレームワークです。必ずしも直接的に影響しない部分も含めて、大きな視点でトレンドを把握することが求められます。
したがって、先ほどの「高度」というキーワードを使って例えるなら、PESTは高度2万メートルくらいの視界と言えるかもしれません。3Cなどはもっと具体的な話ではありますが、それでも大括りでビジネスをとらえるので、3000メートルくらい。4Pはその先の具体的な施策も含まれるので、3000メートル以下と言えるでしょう。
このように、自分がいまどのような立ち位置で、何を考えたいかに応じて、フレームワークを使い分ける必要があります。
ーいくつくらいのフレームワークの使いこなせばよいのでしょうか。
それぞれの特徴を知り、使いこなせるのは2つ、3つで十分でしょう。フレームワークオタクになっても、いざという場面で使えなければ、実務的には意味がありません。
それよりも知っている数は少なくてもいいので、ちゃんと使いこなせるようになっていることの方がよっぽど大切です。今回触れたPEST、3C、4P、いずれも深いフレームワークです。一つひとつをじっくり理解するだけで、視点は大きく広がっていくのではないでしょうか。
ビジネスは、ルービックキューブのようなもの
そして、最終的にはフレームワークを「使う」のではなく、自分で「作る」ことを目指してほしいです。
既存のフレームワークはいわば既成品、吊るしの洋服のようなものでフィットしない状況もあります。既存品のカスタマイズ、つまりセミオーダーでもいいので、最終的には自分の直面している場面に応じたものを作ることをお薦めします。
私が大学院で担当する授業の最終課題は「”自分なりのオリジナルフレームワーク” を作りなさい」というものです。30人のクラスであれば、皆さん立場やバックグラウンド、もしくは思考体系が異なるので、30通りのフレームワークが出てきます。
そこまで自分の考えを突き詰めていくと、フレームワークの意義が腹落ちし、愛着が湧いてくるものです。そうなれば、「いざ」というような冷や汗をかく場面であっても、冷静に多面的な視点でビジネスを考えることができるようになるでしょう。
「ビジネスは、ルービックキューブのようなもの」だと常々感じます。
たとえ一面をすべて赤でそろえられたとしても、その裏面がぐちゃぐちゃであれば、完成からはむしろ遠ざかっているかもしれません。顧客のことだけ、自社のことだけ、競合のことだけ考えていてもいけません。環境変化が激しい中で、良い仕事をしていく上では、「一面だけ完璧」ということではなく、常に多面的な視点でバランスを持っておくこと肝心なのです。
そして、フレームワークは、そうした「ルービックキューブのすべての面をバランスよく眺めるためのツール」と言えるのかも知れません。
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[取材・文] 狩野哲也
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