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日本人が開発したウェブサービスが、新興国を中心に世界の「教育」を変えようとしています。
「Quipper(クイッパー)」。小学校、中学校、高校の教師が、生徒に出す宿題や彼らの成績、授業で使用する教材などをパソコンで簡単に作成・管理することができる、2014年に提供開始されたサービスです。
提供開始からまだ2年にも満たないサービスですが、すでに世界8カ国、教師15万人、生徒150万人に利用されています。開発拠点は、ロンドン、マニラ、東京。ユーザーは特に、インドネシアやフィリピンなどの新興国で増えています。
フィリピンでは「Quipper」という言葉が「宿題」と同義で使われています。現地の学生たちはサービスを通じて宿題が送られてくると「クイッパー来た!」と言うのだそうです。Quipper(クイッパー)を手がけるのが、サービスと同名の会社の創業者であり、代表取締役の渡辺雅之さん。マッキンゼー時代の同僚である南場智子さんらとITベンチャーDeNAを立ち上げた人物でもあります。
そんな渡辺さんに、テクノロジーの進化で急速に変化している世界の教育の最前線でいま起こっていることについてお話を伺いました。学び方も、先生も、学校も、家庭も、そして子どもを持つ親も、これから変わっていくようです。

PROFILE

- 渡辺雅之
Quipper創業者兼CEO - 京都大学在学中、自身も「放浪癖がある」というように発展途上国20数カ国をまわり、また難民支援NPOでインターンを経験して、世界の教育問題に強い関心を持つようになる。大学卒業後、マッキンゼーに入社。1999年に同僚の南場智子さんらとITベンチャーの株式会社ディー・エヌ・エーを立ち上げ。12年の在籍ののちに2010年に退職し渡英。同年ロンドンでQuipperを創業。知の流通革命を目指す。Quipper(クイッパー)は今年(2015年)リクルートマーケティングパートナーズ傘下となった。
学習のパーソナライズ化の「その先」
ー教育の領域に初めて興味を持ったのはいつ頃ですか。
学生時代にバックパッカーをやっていた頃でした。大学を卒業し、そしてマッキンゼーを経て、DeNAで働いていましたが、約5年前にiPhoneやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の人気に火が付くのを見て「自分でもう一度なにかを起こそう。やるなら教育分野での“不”を解消したい」と思い、創業しました。
ーQuipper(クイッパー)はいま特に新興国で人気ですね。日本とのニーズの違いは。
日本のような教育先進国と比較した場合に、新興国は優秀な教師を集める力、教師ひとりあたりの生徒数、教材の質と量に大きな課題を抱えています。ですから、新しいテクノロジーに対して、教育の課題を解決することを求める思いが強い。
例えば、フィリピンでは、教師ひとりが生徒50名を担任しなくてはいけない。しかも多くの学校は、施設を効率的に使うため、午前と午後2部制で、5000名以上の生徒がいる学校も多い。結果、1人の先生が500人の生徒を教える、といったことが起こっています。日本の小・中・高校の学年が6・3・3制なのに対して、フィリピンは6・5制と1年少ない中でカリキュラムを組む難しさもあります。
ーそのような課題に対してテクノロジーができることは。
まず、教育をパーソナライズできること。テクノロジーが教育にもたらすメリットの多くはこれに集約されるでしょう。
これまで、学校の教師は、クラスの規模が20人であれ50人であれ、すべての生徒の平均的な像に向けて授業をするしかありませんでした。もちろんこれもベターなやり方ではありますし、平均的な像を認識することで、クラスの中の差を把握することもできるでしょう。
しかし、ベストなやり方ではありませんでした。より本質的に必要な個々人の学習状況に応じた指導が、それでは難しいからです。Quipper(クイッパー)もふくむテクノロジーを駆使したサービスを利用すれば、生徒一人ひとりの学習の進捗度合いを踏まえた教師による個別対応が格段にしやすくなります。
アメリカをふくむ海外で浸透しつつある、講義をあらかじめ映像などで受講しておき、学校の授業では対話やディスカッションに重きをおく「フリップラーニング(反転学習)」もこの一種。学習者に応じた教育が低コストで可能になるのは、人類史上初めてのことではないでしょうか。
ーテクノロジーによる教育の恩恵はほかにもありますか。
スマートフォンなどデジタルデバイスが浸透したことで、生徒が移動中やトイレ休憩中などすきま時間に学習することも可能になりました。お菓子をつまむよう気軽さから、スナックラーニングとも呼ばれます。以前も、英語の単語帳などはありましたが、いまはさらに時間や場所にとらわれず学習できるようになっています。
また、学力の計測の仕方にも変化が起こり始めています。テストの点数を向上させることはもちろん大切ですが、それだけではない。学習を継続する力、自学自習する力など、より多面的に生徒を評価することができるのです。
教育テクノロジーに対する強い時代の要請
ーこのトレンドは教育先進国でも広がっていくでしょうか。
そうだと思います。できることなら生徒一人ひとりに対応してあげたい、そうした思考は万国で多くの教師に共通するでしょうから。しかしこのトレンドが浸透すると、教師に求められる資質にも変化が訪れるでしょう。
テクノロジーを使いこなすためのスキルもそうですが、それより重要なのは、生徒を導く力です。知識をゼロから教えるだけではなく、生徒の特性によって学習する内容を相談しながら定めたり、本人が自らの考えを正しい方向に修正できるように導く伴走者の役割を果たすこともあるでしょう。
ーテクノロジーを生かした学習は生徒にどのように受け入れられていますか。
例えば、フィリピンでサービスを導入している学校の教室では「Quipper来た!」という言葉が飛び交うことがあります。これは、生徒のスマートフォンなど端末に教師からの通知が届いたときなどに聞かれる言葉で「宿題来た!」という意味です。
ー「Quipper(クイッパー)」と「宿題」が同義なのですね。
はい。「宿題来た!」という意味なので、休み時間に遊ぶときのような弾ける笑顔では言ってくれませんが。
ただ、問題に正解するとコインがもらえるなど、デジタルならではのゲーム的要素、いわゆる「ゲーミフィケーション」の体験や演出を加えていますので、以前の宿題に比べると、生徒たちは圧倒的に楽しんでくれていると思います。
ただ忘れてはいけないのは、一番大切なのは生徒の学力向上に貢献すること。サービスの比較対象は、スマートフォン上のゲームやSNSではなく、あくまで紙の教科書など教材。勉強中に味わうある程度のストレスも、単純になくせばよい、というものではないと思います。
いずれにせよ、テクノロジーの教育領域における貢献に対する時代の要請をひしひしと感じています。そこまで劇的ではないかもしれませんが、体育や美術の授業も変わる可能性があります。

子どもの教育における「親」という存在の復権
ー渡辺さんご自身は、学習は好きでしたか。
どちらかというと嫌いでした。ただ、地元の福島を離れ、都会というか、それまでとはまったく異なる環境で生活してみたかったので、高校3年の夏からは、1日14〜15時間とか死ぬほど勉強しました。大変でしたが、テストの点数が受ける度に上がっていくこと自体は嬉しかったです。
ー家庭における学習も変化するのでしょうか。
学校と家庭、つまり学校と親の連携は、これからすごく重要になっていくでしょう。
両親から見て、学校で自分の子どもが学習でどこが苦手なのかは、通知表ぐらいでしか知ることができなかった。
テクノロジーが教育領域に浸透していけば、子どもが宿題をきちんと提出しているか、どのような問題でつまづいているのかが分かり、親が勉強を教えてあげるなど、より子どもを手助けできるようになるでしょう。
このことは、親子のコミュニケーションの促進にもつながります。子どもが成長するプロセスにおいて「親」という存在が復権を果たすようになるのではないでしょうか
ー日本の学校や家庭は、このトレンドを注視する必要があります。
テクノロジーが世界の教育現場で活用され始めたのは、まだここ2〜3年のことです。ですから、なにが本当にベストなやり方なのかは、サービスを開発している私たちにも分かりません。いま提供しているサービスも完成系ではなく、これから改良していく必要があります。
しかし、これはサービス提供者だけではできません。これからの教育方法、学習方法は、学校、生徒、家庭と一緒に作り上げていくものです。すべてのサービスに言えることかもしれませんが。
ITは、教育分野だけではなく、仕事やキャリアの領域にも結び付いていくでしょう。テクノロジーを活用して、人の能力がより多面的に評価され、そうして導き出された適正に応じて、よりよい仕事選びができるようにもなるのではないでしょうか。
ただ給料を上げるためだけの転職ではない、より高い次元での仕事選びが可能な世界が訪れると良いと思います。

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[取材・文] 岡徳之
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