企業内起業家はどうすれば育つ? 組織と個人に求められることとは 吉井信隆さんに聞く

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変化のすさまじい時代に、新たな収益の柱となる新規事業の創出が求められています。しかし、多くの企業では、その企業内起業を担う人材が課題となっています。

企業内起業の分野で、これまで大企業を中心に支援し、120以上の事業を生み出してきた実績を残してきたことで知られるのが、インターウォーズ社です。501社の起業支援を目指し、起業インキュベーションにも取り組んでいます。

今回は、同社の代表 吉井信隆さんに、企業内起業を担う人材に求められること、それを支援する組織のあり方についてお話を伺いました。

インターウォーズ株式会社 代表取締役社長 吉井信隆

PROFILE

インターウォーズ株式会社 代表取締役社長 吉井信隆
吉井信隆
インターウォーズ株式会社 代表取締役社長
1977年大学卒業後、商社を経て株式会社リクルートに入社。1992年首都圏営業部長に就任後、1993年企業内新規事業の立ち上げを経て、1995年インターウォーズ株式会社を設立。草分けのインキュベーション事業会社として、事業開発インキュベーション、経営幹部の人材紹介、企業内起業家(イントレプレナー)育成塾、投資等のソリューションを提供し、雇用創出を目的に事業を行っている。これまで手掛けた事業開発は、120を超える。501社の起業支援を目指し、起業インキュベーションに取り組んでいる。現在、2社の役員、アドバイザリーボードを務め、主な公職は、事業創造大学院大学客員教授、ニュービジネス協会理事。

企業内起業家(イントレプレナー)育成塾とは

企業内起業が育つ企業 3つの条件

ーいま企業内起業のニーズが高まっているのはなぜでしょうか。

最大の理由は、インターネットの普及によりあらゆる産業において構造の変化が起こっていることです。

その最たる例は、小売業界でしょう。米アマゾンのサービスが浸透し、ネットでモノやサービスを購入することは日常茶飯事のものとなりました。小売業界はその波に乗り、デジタルシフトをせざるを得なくなりました。

これは各「産業」において起こっている変化の話。大局観を持ってお話すると、私は「社会」の構造そのものに変化が起きているととらえています。

バブル期に活況を迎えていた企業の経営者は、潤った結果、企業の中にある余剰のリソースをどう活かすか、という視点で企業内起業を行ってきました。

しかし、いまは違います。成長の速い犬の1年は人間の7年に相当することに由来するドッグイヤーという言葉があらわすとおり、現代の技術革新の変化はすさまじい。

ほんの少し前までは、顧客はお金を支払わなければ受けられなかったサービスが、すぐに無料になってしまう、まさにコモディティー社会が到来しています。

いまの経営者の多くは、企業の次世代をつくるため、企業内起業と、それを担う企業内起業家の育成に必須で取り組まなければならないと考えています。

 

ー企業内起業を育成する企業、またその経営者に求められることは何でしょうか。

1つめは、経営者の覚悟でしょう。リスクを取って新しい事業に挑戦する覚悟、事業の全責任を取る覚悟、事業が立ち行かなくなったとき、担当者にその事業を中断させる覚悟です。経営者にこの覚悟がなければ、経営者についてくる企業内起業家は育ちません。

日本には100年続く企業が2万6000社あります。企業が100年続くためには企業内起業が欠かせません。つまり、日本には企業内起業を育て続けてきた歴史があるのです。

日本の企業では企業内起業家は育たないと言われます。そんなことはありません。たとえ大企業だとしても、企業内起業家に、ベンチャー企業経営者と同じ環境を提供して、挑戦させることができれば育つのです。

2つめは、風土と仕組みを作ることです。風土とは、社員が新たな事業に挑戦することを認め、そして賞賛する風土のことです。企業内起業で収益の柱となる優れた事業を育ててきた企業にはこれが共通します。

しかしこの風土を作っただけでは、企業の既存事業との摩擦を防ぎきれません。そこで、当社が提唱している仕組みが「出島インキュベーション」です。

出島の名の通り、企業内起業家企業の外に出して、そこで事業を起こすのです。そうすることで起業家は、起業のプロセスで一部のステークホルダーからの干渉を受けず、マーケットを向いた事業開発に専念することができるのです。

3つめは、三位一体の体制です。三位とは、経営者、企業内起業家、そしてインキュベーターのことを指します。

インキュベーターとは企業内起業家を支援するひとのこと。主に企業内起業家の上長や人事責任者、我々のような社外のプロフェッショナルが、この役割を担います。

経営者の覚悟、風土と仕組み、三位一体の体制。この3つが、企業内起業の成功には欠かせません。

 

ー逆に、企業内起業に失敗してしまう企業の共通点はありますか。

起業を自社単独で、自前でやってしまおうとすることでしょうか。

既存の事業とは異なる、自分たちが知らない領域に挑戦するのですから、その領域に長けているパートナーが必要です。単独でやってしまおうとする企業には、自社への過信もあると思います。

いまの時代に成功している企業は、パートナーとともになにかをつくりあげる共創に取り組んでいる企業ばかりです。経営者が自社の資産を棚卸しし、目的意識を持って、外に意識を向け、よきパートナーとつながることが重要です。

「これからはつながって取り組むことが重要」と吉井さん
「これからはつながって取り組むことが重要」と吉井さん

企業内起業家の資質を持つものは意識を外に向けよう

ー企業内起業家とインキュベーターの理想の関係とはどのようなものでしょうか。

事業への共感度が同じであること。お互いを尊重して認め合えること。そのために、インキュベーターに求められるのは、企業内起業家に寄り添う姿勢です。

その対極にあるのが、事業の進捗を確認するような姿勢です。起業家と同じように事業に共感していれば、進捗確認などという言葉はプロセスにおいて出てくるはずがありません。また評論家のようなインキュベーターの言葉には、起業家は耳を傾けないでしょう。

 

ーでは、企業内起業家、本人に求められることは何でしょうか。

まず、当事者意識を持つこと。事業、そして人生とは何事も自分の思うようには行かないものです。それでも自分のやると決めたことを逃げずにやり切る。そのためには、強い当事者意識が必要です。成功の対義語は失敗ではありません。やらないこと、なのです。

次に、意識が外に向いていること。そして、起業の機会に出会うことです。

 

ー意識を外に向けるにはどうすればよいのでしょうか。

ビジネスとは突き詰めれば、不を解消することです。まずは、自分が真剣に取り組むことができる、家族や恋人など大切なひとの不具合を解消することを考えてみましょう。

もしも解消したい不具合を見つけたら、それを解消するアプローチとあわせて、100名ぐらいのひとに話を聞いてみるのです。

そのうちに、その不具合を解消することには一定の需要があるのか、ビジネスになるのかということが分かってきます。そうするうちに話を聞いている相手に共感できるようになり、徐々に意識が外に向いていくのです。

 

ー企業内起業家の資質は誰でも持っているものなのでしょうか。

いいえ、そうではありません。起業家の資質というものは先天的なもので、その遺伝子を持っている日本人は2〜3%でしょう。

いまは起業家が脚光を浴びる時代ですが、すべてのビジネスパーソンがそれを目指す必要はありません。もしも万人が起業家だったら、世の中がおかしくなってしまいます。起業家とは天然モノで、育てられるものではないのです。

ですから、企業内起業家を育てたい企業や経営者に求められるのは、起業家を発掘すること。そして邪魔しないことです。せっかく起業家の遺伝子を持って生まれた2〜3%の限られたひとを、企業の中で塩漬けにしてしまってはいけません。

 

ー企業内起業のニーズはますます高まっていきますか。

はい。ひとは、じわじわとゆっくりと訪れる変化にはなかなか気づくことができません。しかしいまは、冒頭に述べた構造の変化のような突発的な外圧もあり、企業内起業を求める強烈な風が吹いているのを感じます。

変化を楽しむ、これは誰にでもできることではありません。葛藤をともなう、とても難しいことなのです。そのような勇気のある企業内起業家が一人でも多く、日本の企業で生まれ育つことを願っています。

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[取材・文] 岡徳之

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