親が定年を迎えた時が始まり。介護で働くはどう変わるのか?

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近年「育児と仕事の両立」については頻繁に語られるようになりましたが、人生においてもう一つ避けて通れないのが「介護と仕事の両立」の問題。「介護」は育児以上に、ほぼすべての人が通る道。しかも、私たちはつい「介護する側」として考えるのですが、将来的には「介護される側」にもなります。

私たちは「介護と仕事の両立」を成功させるためのワークスタイルの変更迫られています。親に介護が必要になり、老人ホームなどの施設を利用するにしても、月額25万円程度と言われる莫大な費用の工面は、簡単なことではありません。にもかかわらず、目の前の仕事に追われ、こうした介護の問題について真剣に考えるのを先送りにしている人は多いのではないでしょうか。

そこで今回は「仕事と介護の両立」を支援する介護系IT企業、株式会社リクシスの創業者・副社長の酒井穣(さかい・じょう)さんにお話を伺いました。

従業員の介護の問題は、企業にとっても経営上の大きなリスク。しかし、従業員の個人情報の取り扱いなどセンシティブな問題を含むため、社員一人ひとりの状況を把握するだけでも大変です。

そんな中、リクシスは、従業員の介護リスクのアセスメントや介護研修、そして介護に悩む従業員の両立支援を行うなど、企業をサポートしています。酒井さんは、介護専門メディア「KAIGO LAB」の編集長・主筆も務め、「介護離職」の問題を扱った著書もあります。

誰にも等しく訪れる介護リスクに向けてどんな準備をしておけばいいのかーー。酒井さんに聞きました。

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)

PROFILE

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)
酒井穰(さかい・じょう)
株式会社リクシス創業者・副社長
慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg大学TIAS School for Business and Society経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社にて新事業開発に従事後、オランダの精密機械メーカーに光学系エンジニアとして転職し、オランダに約9年在住する。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役(人事・長期戦略担当)を経て、独立。介護メディアKAIGO LAB編集長・主筆、新潟薬科大学・客員教授、NPOカタリバ理事なども兼任する。

介護で後悔しないために大切な2つのこと

―介護の問題が自分ごとであることは分かっていても、毎日忙しく仕事に追われる中、具体的にイメージできずにいる人は少なくないかもしれません。

「介護」というと、どうしても暗いイメージを抱くかもしれません。しかし本来、介護に明るいも暗いもないんですよ。介護は基本的にはみんなが経験するものです。それも、自分の親を「介護する」というだけでなく、必ずいつか自分が「介護される側」にも回ります。もちろんその覚悟は必要ですが、「介護」は誰もが経験する人生のイベントのようなものです。

介護自体がポジティブなことかと聞かれれば、そりゃあもちろんそんなことはありません。とても大変なことがたくさんあります。それは人生の折り返し点を回っている、人生の終盤に向けた道でもあります。でも、例えば富士山に登る時のことを考えると、登っている時もたしかに楽しいかもしれないけれど、下っている時だって、風景を見たり、友達と会話したりと、楽しむためのいろいろな下り方があるじゃないですか。

具体的にイメージしてもらうために、ちょっとぼく自身の話をしましょうか。ぼくは母子家庭で育った一人っ子です。もちろん母親には愛されて育ったんだけれど、その母親は、ぼくがちょうど二十歳の時に日常生活を送れないような病気になってしまって。それから27年間、今日までずっと介護をしています。いまでは父親とのコンタクトもあって、父親とも仲良しですが、当時は、本当に大変でした。

それでも、オランダに9年間住んでみたり、MBAもとったりと、人並みに元気に生きてきたわけですが、27年間で介護のために支払ったお金は1億円を超えます

―1億円・・・!

現在、ぼくの母親は「要介護度5」という、介護の中でも一番重い状態です。施設から出られず、寝たきりに近い状態になっているのですが、ぼくはこれをとても後悔しています。なぜなら、二十歳のぼくが、もしもいまのぼくと同じだけ、介護の知識と人脈を持っていたのなら、こんなことにはならなかったから。もしそうなら、母親はおそらく、いまも、孫を抱いたり、友達とお茶をしに出かけたりということが普通にできる生活を送っていただろうな、と思うのです。

つまり、母がいま寝たきりの状態になっているのは、ひとえにぼくに介護の知識と人脈がなかったからなんです。そして、もしも母が在宅で普通に過ごせていたのなら、ぼくは介護のために1億円もの大金を支払う必要はなかった。そのお金があったら、もうちょっと別の人生もあったなって(笑)。なにが言いたいかと言えば、これから介護に突入するみなさんには、ぼくと同じ後悔をしてほしくないってこと。だからこそ、ぼくはリクシスを創業したのです。

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)

介護が育児と決定的に違うのは、誰も自分が「介護された」経験がないまま「介護する」必要に迫られることでしょう。育児のように、自分にユーザー側の経験があれば、ユーザー目線で考えることができる。けれども介護については、誰一人としてユーザー目線を持ち得ないままに、ある日突然、そしてとても難しいことをやる状況に立たされるんです。

介護の地獄というのは、時間とともに知識や経験と人脈がついてくることにあります。あとから振り返って、自分自身の選択のひどさが全部見えるようになる。これは本当に地獄ですよ。愛する人に対して、自分がいかに間違ったことをしてきたかということが、どんどん明らかになるのですから。なおかつ、こうした間違った対応は、ファイナンス面でも、とても悪い影響があります。介護は本当に甘く見ないほうがいい。

―どうすればいいですか?

そうならないために、ぼくの経験から言えることは二つあります。

一つは、個々の介護には大きな質の違いがあるということを認識して、高い質の介護を目指すことです。質の高い介護をすると、親もハッピーだし子もハッピー、周りの人間もハッピー。そしてお金もかからない。けれども介護の品質が低いと、これらがすべて逆転します。「介護離婚」という言葉も最近よく聞くように、最終的に家族関係が破綻してしまうケースさえあります。

もう一つは、なるべく早くに準備を始めること。介護はこのメディアのメインの読者層である30代40代の方にとって、本当にいつ始まってもおかしくない問題。ドラクエで言えば、もう、屈強なドラゴンが登場しそうな状況にあるわけです。“その時” が来てから、慌てて武器を準備してもしょうがない。いまからちゃんと準備をしておいたほうがいいよ、ということです。

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)

親が定年を迎えた時が介護のスタート

介護だけは先送りにしてはダメです。様子見をしていたら、大変なことになります。だから少しでもおかしいと思ったら、必ず専門家の意見を聞いたほうがいい。遅れれば遅れるほどひどいことになっていくのは、先ほどお話しした通りです。「寝たきりになったら介護」「車椅子生活になったら介護」と思っている人もいるかもしれませんが、それは間違い。いまや介護が必要になる理由のトップは認知症ですから。

認知症であっても、早い段階で対応できれば、その進行を遅らせることができます。「最近どうも家で転ぶことが多くなったな」と思ったら、それはもう完全に “黒” だと思ったほうがいい。とにかく、みなさんが思っているよりもずっと早くに始められるのが介護なんです。しかし、誰かが「もう介護ですよ」と教えてくれたりはしません。あなたが自分で判断することであり、その判断の遅れは命取りであることを知ってもらいたいのです。

―例えばどんなことができますか?

介護サービスを受けるには事前に「要介護認定の申請」が必要です。この申請をすると「要支援1、2」と「要介護1~5」の7段階、プラス「非該当(介護の必要はまだない)」という、計8段階の評価を受けます。少しでも介護の疑いがあれば、まずはこの申請を行うことをオススメします。申請のためには、親が暮らしている地域の「地域包括支援センター」に相談してみてください。

「非該当」になったら意味がないと思う人がいるでしょうが、そんなことはありません。たとえ「非該当」だったとしても、介護が必要なのではないかという疑いがあるからこそ申請をしているわけです。専門的には「特定高齢者」と言って、自治体によってはリハビリや骨が弱くならないためのトレーニングなどを無料で受けられたり、見守りの対象になったりといったメリットがあります。

介護においては、こういう公的なサービスを、きちんと活用していくことがとても重要です。でも、こうした公的なサービスは複雑で、とても理解しにくいものになっています。これを活用するためには、準備が早すぎるということはない。個人的にいつも主張しているのは、親が定年退職で仕事をしなくなったその日から準備をスタートすべきだということです。

―定年ですか。想像していたよりもずっと早いタイミングでした。でも、さすがに昨日まで働いていた親に対して「介護するよ」と言っても聞き入れてくれないような・・・。

たしかに「介護」というとすでにイメージがついてしまっているので「ケア」という言葉に置き換えたほうがいいかもしれないですね。では、なぜ定年を迎えたらすぐにケアが必要なのか。

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)

「定年退職」と聞くと悠々自適な感じがするかもしれませんが、実際にはハッピーに過ごせている人は全然いないんですよ。仕事をしていると、なんだかんだで毎日新しい経験ができるし、怒ったり怒られたりしながらも、自分の人生というゲームをプレーしている感覚が得られるじゃないですか。一方で定年後というのは「モンスターが1匹も出ないドラクエ」のようなもの。旅の仲間も、もういないんです。

社会的には無職扱いです。失業しているのと変わらない。失業というのは、社会から「あなたはいらない」と言われているのと等しい状態であり、それは人間がすごく傷つくこと。だからケアが必要なんです。これは専業主婦の場合も同じ。専業主婦にとっては、家事をしなくなるというのが結構な地獄です。「親がつらそうだから」と安易に家事代行サービスを入れたら、一気に認知症になってしまったというケースも聞きます。

―定年後に生きがいを失って・・・という話はたしかによく聞きますね。

けれども介護の問題が難しいのは、こうやって話しても、多くの人が自分ごととして捉えてくれないことなんですよ。誰しもが、ぼんやりとでも人生計画を立てると思うんですけど、何歳で結婚して、子供はなん人くらい作って、家はどこに買って、どんな車に乗って・・・ということは考えても、不思議なほど介護の話はそこに組み込まれない。

今回の記事もおそらくそうで、読んだ後に「そうか!じゃあ今日からケアを始めよう」と思って動く人は残念ながら少ないだろうと思いますね。だからこそ、経営者の目線からは、従業員の介護問題というのは、放置しておいたらいけないということになるわけです。

―すぐに動こうとする人が少ないのはなぜでしょうか?

心理学で言うところの「正常性バイアス」が働くからです。例えば、この後6時過ぎに大雨が降って100%電車が止まることが分かっていたら、さすがに家で仕事ができる準備を進めて帰ろうとするじゃないですか。でも「電車は止まるかもしれないし、止まらないかもしれない」と言われると、多くの人は自分にとって都合のいい「電車が止まらないシナリオ」を選んでしまう。自分にとって都合の悪いリスクの話は、あまり考えずに生きる心理学的な傾向が、人間にはあるんです。

―耳が痛いです。

でも、ビジネスに置き換えて考えてみてほしいんですよ。経営においては売り上げを伸ばすこともたしかに大切だけれど、一方ではコストのコントロールもとても重要ですよね? うまくいっていない事業から撤退したり、コストをカットしたりする仕事はつまらないけれども、30代40代ともなれば、会社がどんな時も右肩上がりではないことは痛いほど分かっているはず。優秀なマネジャーであれば、あらかじめ想定されるリスクを洗い出し、先手を打つという動きをするじゃないですか。

面白いことに、仕事と介護の両立ができている人というのは、仕事の面でも優秀なマネジャーであるということを示した研究があります。だからビジネスパーソンとして十分な訓練を積んでいる人であれば、介護との両立もうまくいく可能性が高い。逆に言えば、介護のリスクを直視し、しっかりと準備できるかどうかというのは、マネジャーとしての資質が本物かどうかを試されているという見方もできるでしょう。ただ、介護の場合はビジネス以上に深刻な話ではあるんですが・・・。

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)

介護がうまくいかない理由は愛情深い家族にこそある

―なるべく早くに準備を始めることともう一つ、「介護の質」というのは?

端的に言えば、介護のことは介護のプロに任せようということです。少なくない人が自分の手で親を介護しようとするのですが、介護の仕事を甘くみないほうがいい。ライターでもカメラマンでもそうだと思うんですけど、どんな仕事も一人前になるには10年くらいの修行が必要じゃないですか。介護の世界もそれと同じ。専門性の高いプロフェッショナルに任せたほうが、優れた品質の介護を行ってくれるに決まっているんですよ。

介護のプロフェッショナルの仕事とはなにか。それは、心身になんらかの障害を抱えた人であっても「生きていてよかった」と思える瞬間を生み出すことです。

介護が必要になった人は、その時点ですでにとても弱っているんです。それ以前まで持っていた力を失ってしまっている。例えばイラストレーターだった人がペンを持てなくなって、生きる気力を失ってしまったというような状況から介護は始まるんです。そういう時に、その人のことをよく知っている家族であれば、おそらくもう一度ペンを握らせようとするでしょう。もちろんそれが正しい場合もあるけれども、そうでない場合もある。

そんな時に、プロの場合は、素人よりもずっと深く、そしてゼロベースで考えます。その人が本当に好きだったのはイラストを描くことそのものなのか、それともイラストを通してなにか物語を伝えることなのか、もしくは色を塗ることなのか、あるいはそれによって読者が喜んでくれることなのか、と。そこまで考えれば、ペンそのものを握ることはできなくても、なにかしらの方法で好きなことを続けて、生きる気力を保つことができるかもしれない。高齢者福祉の三原則、これはその中の一つである「残存能力の活用」と呼ばれるものなのですが、プロはその実践をしようとします。

―「高齢者福祉の三原則」。

原則の二つめは「日常生活の継続」です。ぼくらは日々、いろいろと文句はありつつも、そこそこ納得して日常生活を送っているじゃないですか。それを最低限「継続」できるようにするということ。介護が必要になってから生活の質を大幅に向上させることは難しいけれども、少なくとも下振れを抑えることはできる。そのためにプロの仕事があります。それは単にシモの世話をするとかいうことだけではなくて、例えば毎年楽しみにしていた年に一回の同窓会にちゃんと出席できるというのも「日常生活の継続」です。

最後の一つは「自己決定の原則」。思い出の石垣島にもう一度行きたいと思ったら行ける、行くか行かないかの選択肢が自分にあるということです。その日の昼になにを食べるかを自分で決められる、というのもそう。介護についても、利用したい介護サービスを本人が選べることが大事です。こうした高齢者福祉における三つの原則をきちんと守る、そのために介護のプロがいるんです。

しかし、家族が自分でそれをやろうとすると、多くの場合で失敗します。プロに言わせると、介護の失敗、介護の品質の低下の一番の理由は家族自身にあります。ただ、それはプロとしても言いにくいことなので、家族が直接伝えてもらえないというだけです。ぼく自身の介護も、ぼくが母親のことを大事に思っていたからこそ、うまくいかなかったと考えています。

―どういうことですか?

すでに触れたように、ぼくらは誰一人としてユーザーとしての経験を持たないままに介護することを迫られるから、まず必要な知識がない。加えて、家族は親のいいところ、威厳のあった昔の姿を知っているがゆえに、いまの姿を認められない。身内であるがゆえに、ゼロベースで接することが難しいんです。その結果、介護される親の側も惨めな気持ちになってしまう。

その点、プロは赤の他人であるがゆえに、ゼロベースでいまのその人の心地よさを測定し、環境を整え、上手に付き合っていくことができます。

親に感謝して生きているような「いい人」に限って、この落とし穴にハマります。「最後の10年は私が責任を持って面倒を見なくては」と抱え込んでしまう。でも、それが本当にいいことなのかはいま一度考えたほうがいい。それによって、高齢者福祉の三原則は満たされるのか、自分というプレーヤーのパフォーマンスをしっかりと評価したほうがいいのです。

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)

想像してみてください。仕事から疲れて帰ってきた息子が、自分のシモの世話をしたり食事を作ってくれたりする姿を見て、母親はどう思うだろうか、と。「悪いなあ」と思いますよね。そうすると、例えばテレビを見て三浦大知のファンになって、本当は「コンサートに行きたい」と思っていたとしても、「連れていって」とは決して言い出せないじゃないですか。

息子からすれば、自ら介護をしているのは母親を思ってのことと言うかもしれないけれども、これが本当に母親のためになっていると言えますか? 「コンサートに行きたい」と思っているのなら、自己決定の原則から、その選択肢を奪わないで、コンサートにも行ける可能性を残してあげるのが本当の「母親のため」じゃないですか。

―たしかにそうですね。

ビジネスパーソンとして、われわれが真にコミットすべきは結果のはず。この場合でいう結果とは、親のQOL、生活満足度、豊かな人生にほかなりません。自分が直接介護することが、本当にそうした結果に結びつくのだろうかと問い直してみてほしいと思います。優秀なマネジャーは、結果にコミットするためなら、自分自身のワークフォースにこだわりすぎず、チームメンバーやあらゆる専門家の手を借りることを厭いませんよね? 介護もそれと同じです。

介護に限って人任せにしたくないと考える人が多いのは、そのことに「罪悪感」を感じるからかもしれません。でも、よく考えてほしいのは、罪悪感というのは決して人のことを思っている感情ではないということです。専門的には「自己意識的感情」といって、自分が社会規範から外れた行動をとった結果、群れからはじき出され、生存が脅かされるのが怖いという感情なんです。

こうした罪悪感に駆られて行動すると、人は自分の幸福を放棄するようになります。自分のQOLを犠牲にしようとする。そんなことを親は望んでいません。この道を選んでしまうと、誰も幸せにならない結果が待っています。

あなたは介護のプロの名刺を何枚持っているか?

―介護は、ぼくら素人が思っている以上に難しい仕事であるだけでなく、その人をよく知る家族であるがゆえに、かえって難しさが生じてしまう、と。プロの手を借りることがとても重要なんですね。

そこでこの記事を読んでいる人に、一瞬でいいから真面目に考えて、次の質問に答えてほしいんです。「あなたは介護の専門性を持った人の名刺を何枚持っていますか?」

―ああ、一人もいないかも。

先ほど、ぼくと名刺交換したから一応「1枚」ですよね。なにかあった時はどうぞ相談してもらえれば(笑)。

でもこれは冗談ではなくて、結局、品質の良い介護を受けられるかどうかは、専門性を持った介護のプロとどれだけ知り合っているかに尽きるんですよ。

リクシスによる仕事と介護の両立支援システム「LCAT」
リクシスによる仕事と介護の両立支援システム「LCAT」

介護には大きく在宅介護と施設介護の二つがあります。在宅介護を選んだ場合は、日中はデイサービスなどを活用することになります。親は午後3時とか4時には帰ってくるけれども、その後のつなぎのサービスもあるし、出張する場合には短期的に宿泊を受け入れてくれる施設もあります。多くの人が仕事と両立しようと思ったら、こうしたものをフル活用することになるでしょう。

では、現実にどこのどんなサービスを使ったらいいのか。「実際にそういう状況に立たされた時にググればいい」と思うかもしれません。しかし、いい事業者に限って実務に手一杯なので、ホームページさえなかったりするんですよ。普段の仕事では、ただググって検索上位にくるところに仕事をお願いしたりしないでしょう。よく知っている人の話を聞いて、複数の候補を検討しますよね。介護でも、結局、経験と知識に優れた「介護のプロ」とどれだけ知り合っているかに尽きるのです。KPIとしては、名刺を何枚持っているかが大事なんです。

―普通に仕事をしているだけではなかなか介護の専門家とは出会いませんよね。

そうなんです。そう考えると、介護というのが仕事のあり方、人生のあり方を改めて考えるきっかけを与えてくれるイベントであることが分かります。

このメディアの読者の多くは30代40代の第一線で働いているビジネスパーソンだとお聞きしました。そうした人の中にはもしかしたら「仕事を頑張っている」という言い訳のもと、仕事以外の大事なことを捨ててきたり、そもそも自分にとって生きるとはどういうことかを考えてこなかった方も多いのではないでしょうか。

よくワーク・ライフバランスと言いますが、あれは間違いですよね。ワークとライフは本来並列ではない。ライフ=人生がまずあって、その中の大事な部分の一つとしてビジネスがある。だから、人生には仕事のほかにも同じくらい大事なことがあるはずなんです。介護は、その一つです。

ビジネスは大事ですよ? でも、われわれはビジネスだけで生きているわけじゃない。いままでよりも抽象度を一つ上げて、介護を「自分の人生を見つめ直すきっかけ」として捉えてもらえたらいいんじゃないかと思いますね。現実には、見つめ直すどころか、それに人生が振り回されるほど大変なことだったりしますが。でも、介護が大変なのは、それが人間の人生そのものを扱うことだからです。30代40代という年代は、そろそろ、ビジネスという山の頂上ばかりを考えてはいられない年代でもあるということなのでしょう。

株式会社リクシス創業者・副社長 酒井穰(さかい・じょう)

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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